異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ

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断崖の小城 ②

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「わぁ」

 レンガや石材、コンクリートを主な建材に用いた堅牢な二階建ての家屋である。簡易的な堀が設けられており、形だけの塀も備えていた。建物の左右から伸びる二つの尖塔に装飾以外の意味はない。
 それを一見したカイリの感想が、

「すっごーい! お城だぁ!」

 という素直な感激だったので、ソーニャはひそかに鼻を高くした。

「さあ、どうぞ。魔王様」

 鉄の門を開いて促すと、カイリは浮ついた足取りで歩を進めた。白亜の城館を見上げて感嘆の吐息を漏らしている。

「あたしの城、お気に召されました?」

「うん! すっごいね! もしかしてソーニャちゃんって、お姫さまなの?」

 思わず照れ笑いを漏らすソーニャ。

「いいえ。魔族には身分というものがありませんから。この城は、あたしが人間の文化を学んで建てた、いわば模造品です」

 とはいえ、城というにはあまりにこじんまりとした佇まいである。どうせ一人で住むのだからと、余計なことを考えなくてもいいようにスケールを小さくしたからだ。

「人間の城ねぇ。ふーん。ねーちゃん、変わってんだな」

 カイリとは対照的に、トトの反応はぶっきらぼうだった。

「ものすっげー強ぇのに、どうして人間なんかの真似すんだ? あんな奴ら、数が多いだけで弱っちぃ卑怯者だろ。羽虫みてぇなもんじゃねーか」

「けど、あたし達にないものをたくさん持ってる」

 むっとして言い返すソーニャ。人間を貶める発言は魔族の常だが、まさか魔王の従者から聞くとは思わなかった。

「よく見なさい。こんなおしゃれな建物、この森のどこにあるっていうの? どいつもこいつも古臭くて垢抜けない掘っ立て小屋しか造らないじゃない」

「それの何がいけねぇんだよ。家なんて雨風を凌げればどんなもんでもいいじゃねぇか」

「あっそ。あなたには文化の輝きが理解できないわけね」

「なにをぅ!」

 ソーニャの言う通り、トトは建築物の美観を理解できないし、理解しようとも思わない。かといって馬鹿にされるのは癪だった。

「ねぇねぇ! 中に入ってもいい? 私、あそこに行きたい!」

 カイリが指さしたのは、城の二階にあるバルコニーだった。作ったはいいものの、あまり使いどころのない場所だ。
 睨み合っていたソーニャとトトは、カイリの純真な振る舞いに表情を和ませる。

「ね、入ってもいい?」

「もちろんですわ」

 豊かな胸元から一本の鍵を取り出し、慣れた手つきで錠を解くソーニャ。

「お、お待ちください!」

 扉に手をかけたのと同時に、背後から男の声が聞こえてきた。

「魔王様! どうかお待ちを」

 ひどく慌てた様子で現れたのは、飛空魔法を操る壮年男性とそれに続く数名の男女。広場での議論において魔王を迎えるべきだと主張していた者達である。
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