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力量 ①
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「えっと……わたし、フィリウス・パテルさんって人に会いに来たんです。この辺りに村があるって聞いて」
「嬢ちゃん。フィリウスのオヤジに何の用だ?」
抗戦派筆頭だった青年がずいっと身を乗り出した。
カイリはにっこりと表情を崩して、
「お友達になって欲しいんです」
「はぁ?」
「今、いろんな郷の人にお話をして、みんなでまとまっていこうってお願いして回ってるんです。それで、次はフィリウスさんのところにって」
「まとまるだぁ? へぇ? 一体誰に従えっつーんだ?」
青年は冗談半分で話に乗る。このひ弱そうな少女がどんなことを言い出すのか、なにを言って笑わせてくれるのか。子どもをあやすような心持ちだった。
「誰って、魔王様に決まってんだろ。他に誰がいるんだよっ。このポンコツ野郎っ」
カイリの後ろでスカートにしがみつくトトが、噛みつくように言い放つ。
「こらトト」
「魔王様はすっげーお強いんだぞ! てめぇらみたいな弱虫、束になってかかったって敵いやしねぇ!」
「ほーそうかい。そんな強えってんなら、ぜひとも手合わせしてもらいてぇなぁ。なぁお前ら!」
青年が振り返ると、若者達は口々に同意を言葉にする。
力を信奉する魔族に、弱いだとか相手にならないだとかは禁句である。そんなことを言われれば、彼らは己の力を誇示したくてたまらなくなってしまう。
「子どもだからって甘えんじゃねぇぞ。ちょっと痛い目見てもらうぜ」
若者達の怒りを感じ取って、カイリは慌てて頭を下げた。
「ごめんなさいっ。この子ったら調子に乗って変なことばっかり言っちゃうんです。そのせいでいっつも人を怒らせちゃって」
カイリはまだ魔族の文化や価値観に疎かった。これまでもトトが他人を怒らせたことは多々あったが、彼らがなぜ怒ったのかを未だに理解できていない。
「あの……謝ります。私達ホントに、フィリウスって人に会いに来ただけなんです」
カイリの言葉がどのように解釈されるか。
お前のような雑魚に用はない。さっさと郷主のフィリウスを出せ。
概ねこういった意味合いの挑発文句である。誠意を込めたはずの謝罪が、青年の闘争心に火をつけてしまった。
「上等だよガキ……!」
彼の全身に魔力がみなぎる。赤紫の波動が炎の揺らめきとなって、引き締まった輪郭を曖昧にした。
「なぁ、おい」
「ほんとにやるの?」
「黙ってろ」
相手は子ども。流石に大人げない。比較的冷静な取り巻きが諫めるも、青年は一顧だにしなかった。見るからに弱者であるカイリに――わざとでないにしろ――はっきりとコケにされて流せるほど大人ではないのだ。
フィリウスに次ぐ強者である彼に意見できる者はいなかった。皆やれやれと呆れるか、好奇の笑みを浮かべるかのどちらかである。
「ほらな魔王様。やっぱこうなるだろ? 魔族ってのはそういうもんなんだよ」
「トトが焚きつけたんでしょ。もうっ」
ぷんぷんと腹を立てるカイリ。
樹上で見物するソーニャには、その緊張感のなさがかえって不気味だった。
カイリは上目遣いで青年を見る。
「あの……戦わなくちゃダメですか?」
「安心しな。殺しゃしねぇよ」
犬歯を剥き出しにする青年。左右に構えた両手が、爆ぜるように燃え上がる。
「消えねぇ傷は覚悟してもらうがなぁッ!」
躊躇いはなかった。
先制の炎弾二発。分厚い風切り音より速く、それはカイリに直撃していた。
轟音。赤紫の爆炎が膨れ上がる。重たい爆風が生じ、煙幕じみた砂塵を巻き上げ、幾重もの衝撃波が一帯を揺るがした。
「ハッ。どーよ!」
凝縮された破壊のエネルギー。言葉とは裏腹に、彼が放ったのは渾身の攻撃魔法。
「あーあ……」
「ほんとにやっちゃった」
爆炎が溶けていく。後には少女の残骸が転がっていると、誰もが信じて疑わない。
「嬢ちゃん。フィリウスのオヤジに何の用だ?」
抗戦派筆頭だった青年がずいっと身を乗り出した。
カイリはにっこりと表情を崩して、
「お友達になって欲しいんです」
「はぁ?」
「今、いろんな郷の人にお話をして、みんなでまとまっていこうってお願いして回ってるんです。それで、次はフィリウスさんのところにって」
「まとまるだぁ? へぇ? 一体誰に従えっつーんだ?」
青年は冗談半分で話に乗る。このひ弱そうな少女がどんなことを言い出すのか、なにを言って笑わせてくれるのか。子どもをあやすような心持ちだった。
「誰って、魔王様に決まってんだろ。他に誰がいるんだよっ。このポンコツ野郎っ」
カイリの後ろでスカートにしがみつくトトが、噛みつくように言い放つ。
「こらトト」
「魔王様はすっげーお強いんだぞ! てめぇらみたいな弱虫、束になってかかったって敵いやしねぇ!」
「ほーそうかい。そんな強えってんなら、ぜひとも手合わせしてもらいてぇなぁ。なぁお前ら!」
青年が振り返ると、若者達は口々に同意を言葉にする。
力を信奉する魔族に、弱いだとか相手にならないだとかは禁句である。そんなことを言われれば、彼らは己の力を誇示したくてたまらなくなってしまう。
「子どもだからって甘えんじゃねぇぞ。ちょっと痛い目見てもらうぜ」
若者達の怒りを感じ取って、カイリは慌てて頭を下げた。
「ごめんなさいっ。この子ったら調子に乗って変なことばっかり言っちゃうんです。そのせいでいっつも人を怒らせちゃって」
カイリはまだ魔族の文化や価値観に疎かった。これまでもトトが他人を怒らせたことは多々あったが、彼らがなぜ怒ったのかを未だに理解できていない。
「あの……謝ります。私達ホントに、フィリウスって人に会いに来ただけなんです」
カイリの言葉がどのように解釈されるか。
お前のような雑魚に用はない。さっさと郷主のフィリウスを出せ。
概ねこういった意味合いの挑発文句である。誠意を込めたはずの謝罪が、青年の闘争心に火をつけてしまった。
「上等だよガキ……!」
彼の全身に魔力がみなぎる。赤紫の波動が炎の揺らめきとなって、引き締まった輪郭を曖昧にした。
「なぁ、おい」
「ほんとにやるの?」
「黙ってろ」
相手は子ども。流石に大人げない。比較的冷静な取り巻きが諫めるも、青年は一顧だにしなかった。見るからに弱者であるカイリに――わざとでないにしろ――はっきりとコケにされて流せるほど大人ではないのだ。
フィリウスに次ぐ強者である彼に意見できる者はいなかった。皆やれやれと呆れるか、好奇の笑みを浮かべるかのどちらかである。
「ほらな魔王様。やっぱこうなるだろ? 魔族ってのはそういうもんなんだよ」
「トトが焚きつけたんでしょ。もうっ」
ぷんぷんと腹を立てるカイリ。
樹上で見物するソーニャには、その緊張感のなさがかえって不気味だった。
カイリは上目遣いで青年を見る。
「あの……戦わなくちゃダメですか?」
「安心しな。殺しゃしねぇよ」
犬歯を剥き出しにする青年。左右に構えた両手が、爆ぜるように燃え上がる。
「消えねぇ傷は覚悟してもらうがなぁッ!」
躊躇いはなかった。
先制の炎弾二発。分厚い風切り音より速く、それはカイリに直撃していた。
轟音。赤紫の爆炎が膨れ上がる。重たい爆風が生じ、煙幕じみた砂塵を巻き上げ、幾重もの衝撃波が一帯を揺るがした。
「ハッ。どーよ!」
凝縮された破壊のエネルギー。言葉とは裏腹に、彼が放ったのは渾身の攻撃魔法。
「あーあ……」
「ほんとにやっちゃった」
爆炎が溶けていく。後には少女の残骸が転がっていると、誰もが信じて疑わない。
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