上 下
143 / 152

力量 ①

しおりを挟む
「えっと……わたし、フィリウス・パテルさんって人に会いに来たんです。この辺りに村があるって聞いて」

「嬢ちゃん。フィリウスのオヤジに何の用だ?」

 抗戦派筆頭だった青年がずいっと身を乗り出した。
 カイリはにっこりと表情を崩して、

「お友達になって欲しいんです」

「はぁ?」

「今、いろんな郷の人にお話をして、みんなでまとまっていこうってお願いして回ってるんです。それで、次はフィリウスさんのところにって」

「まとまるだぁ? へぇ? 一体誰に従えっつーんだ?」

 青年は冗談半分で話に乗る。このひ弱そうな少女がどんなことを言い出すのか、なにを言って笑わせてくれるのか。子どもをあやすような心持ちだった。

「誰って、魔王様に決まってんだろ。他に誰がいるんだよっ。このポンコツ野郎っ」

 カイリの後ろでスカートにしがみつくトトが、噛みつくように言い放つ。

「こらトト」

「魔王様はすっげーお強いんだぞ! てめぇらみたいな弱虫、束になってかかったって敵いやしねぇ!」

「ほーそうかい。そんな強えってんなら、ぜひとも手合わせしてもらいてぇなぁ。なぁお前ら!」

 青年が振り返ると、若者達は口々に同意を言葉にする。
 力を信奉する魔族に、弱いだとか相手にならないだとかは禁句である。そんなことを言われれば、彼らは己の力を誇示したくてたまらなくなってしまう。

「子どもだからって甘えんじゃねぇぞ。ちょっと痛い目見てもらうぜ」

 若者達の怒りを感じ取って、カイリは慌てて頭を下げた。

「ごめんなさいっ。この子ったら調子に乗って変なことばっかり言っちゃうんです。そのせいでいっつも人を怒らせちゃって」

 カイリはまだ魔族の文化や価値観に疎かった。これまでもトトが他人を怒らせたことは多々あったが、彼らがなぜ怒ったのかを未だに理解できていない。

「あの……謝ります。私達ホントに、フィリウスって人に会いに来ただけなんです」

 カイリの言葉がどのように解釈されるか。
 お前のような雑魚に用はない。さっさと郷主のフィリウスを出せ。
 概ねこういった意味合いの挑発文句である。誠意を込めたはずの謝罪が、青年の闘争心に火をつけてしまった。

「上等だよガキ……!」

 彼の全身に魔力がみなぎる。赤紫の波動が炎の揺らめきとなって、引き締まった輪郭を曖昧にした。

「なぁ、おい」

「ほんとにやるの?」

「黙ってろ」

 相手は子ども。流石に大人げない。比較的冷静な取り巻きが諫めるも、青年は一顧だにしなかった。見るからに弱者であるカイリに――わざとでないにしろ――はっきりとコケにされて流せるほど大人ではないのだ。
 フィリウスに次ぐ強者である彼に意見できる者はいなかった。皆やれやれと呆れるか、好奇の笑みを浮かべるかのどちらかである。

「ほらな魔王様。やっぱこうなるだろ? 魔族ってのはそういうもんなんだよ」

「トトが焚きつけたんでしょ。もうっ」

 ぷんぷんと腹を立てるカイリ。
 樹上で見物するソーニャには、その緊張感のなさがかえって不気味だった。
 カイリは上目遣いで青年を見る。

「あの……戦わなくちゃダメですか?」

「安心しな。殺しゃしねぇよ」

 犬歯を剥き出しにする青年。左右に構えた両手が、爆ぜるように燃え上がる。

「消えねぇ傷は覚悟してもらうがなぁッ!」

 躊躇いはなかった。
 先制の炎弾二発。分厚い風切り音より速く、それはカイリに直撃していた。
 轟音。赤紫の爆炎が膨れ上がる。重たい爆風が生じ、煙幕じみた砂塵を巻き上げ、幾重もの衝撃波が一帯を揺るがした。

「ハッ。どーよ!」

 凝縮された破壊のエネルギー。言葉とは裏腹に、彼が放ったのは渾身の攻撃魔法。

「あーあ……」

「ほんとにやっちゃった」

 爆炎が溶けていく。後には少女の残骸が転がっていると、誰もが信じて疑わない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

処理中です...