99 / 152
デルニエール攻防戦 王国軍サイド④ 上
しおりを挟む
城壁から戦場を見下ろすソーンの目には、ただ焦燥だけが滲んでいた。
メイホーン戦死の報は陣営を少なからず動揺させ、士気は下落傾向にある。高い城壁で兵器を運用する兵士達は、飛空戦を行う術士隊が次々と堕とされていく様を目の当たりにしていた。たとえ地上部隊が優勢であったとしても平静ではいられない。
「ひるむなっ! 攻撃を止めるんじゃないっ!」
そのような状況で、ソーンは毅然として命令を出し続けるしかなかった。弱気になった兵達を鼓舞し、高い声を張り上げ、どこに攻撃を集中させるかを指示する。
「これ以上術士隊に犠牲を出すわけにはいかないぞ! 弩砲隊はあの四神将の女を狙って! 対空魔法は適当でいい! 城壁に敵を近づけなければいいんだ!」
頼りない父の代わりに、ソーンはできることを精一杯やっていた。
地上にはジークヴァルドの重騎兵隊に加え、七将軍ハーフェイ・ウィンドリンの援軍も到着している。放っておいてもなんとかなるだろう。
今は飛空戦の援護を優先しなければならない。多くの魔族が取りついてしまったら、いくら頑丈な城壁でも突破されない保証はない。
四神将ソーニャ・コワール率いる魔族の参戦により戦況に動きがあったが、ここにきて両軍は再び拮抗することとなった。
やがて日没が訪れ、疲弊した魔族達は一人また一人と撤退を開始する。
それはソーニャ・コワールも例外ではなく、攻撃側として決定打を欠いたまま戦場を去る選択を強いられたのだった。
傾いた陽光がデルニエールの城壁を赤く染める。
敵の撤退を確認すると、ソーンは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
「若様!」
「お気を確かに!」
寄ってきた側近達を、ソーンは手で制す。
「大事ない。すこし疲れただけさ。皆も同じだろう」
デルニエールの次期当主として確固たる自覚を持つ彼であるが、その年齢はわずか十歳。大軍と、十万の民の命を背負って立つには、あまりにも若すぎた。
「お父上は?」
「は。殿下は城内にいらっしゃいます」
「そうか……」
ティミドゥス公は、メイホーンの戦死を目にした途端それまでの意気を失って城の奥に引っ込んでしまっていた。敵が近づけば真っ先に狙われるのは大将だと、劣勢を見て我が身が惜しくなったのだ。
本来であれば大将の存在は兵の士気に大きく影響するものだが、今回はその限りではなかった。ソーンがいたからだ。弱冠十歳の次期当主が、懸命に軍を指揮している。その姿は皆に勇気を与えた。年端もいかぬ公太子が故郷の命運を賭けて戦っているのに、大人の民が気張らなくてどうする。口にはせずとも、誰しもそう思わずにはいられなかった。
メイホーン戦死の報は陣営を少なからず動揺させ、士気は下落傾向にある。高い城壁で兵器を運用する兵士達は、飛空戦を行う術士隊が次々と堕とされていく様を目の当たりにしていた。たとえ地上部隊が優勢であったとしても平静ではいられない。
「ひるむなっ! 攻撃を止めるんじゃないっ!」
そのような状況で、ソーンは毅然として命令を出し続けるしかなかった。弱気になった兵達を鼓舞し、高い声を張り上げ、どこに攻撃を集中させるかを指示する。
「これ以上術士隊に犠牲を出すわけにはいかないぞ! 弩砲隊はあの四神将の女を狙って! 対空魔法は適当でいい! 城壁に敵を近づけなければいいんだ!」
頼りない父の代わりに、ソーンはできることを精一杯やっていた。
地上にはジークヴァルドの重騎兵隊に加え、七将軍ハーフェイ・ウィンドリンの援軍も到着している。放っておいてもなんとかなるだろう。
今は飛空戦の援護を優先しなければならない。多くの魔族が取りついてしまったら、いくら頑丈な城壁でも突破されない保証はない。
四神将ソーニャ・コワール率いる魔族の参戦により戦況に動きがあったが、ここにきて両軍は再び拮抗することとなった。
やがて日没が訪れ、疲弊した魔族達は一人また一人と撤退を開始する。
それはソーニャ・コワールも例外ではなく、攻撃側として決定打を欠いたまま戦場を去る選択を強いられたのだった。
傾いた陽光がデルニエールの城壁を赤く染める。
敵の撤退を確認すると、ソーンは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
「若様!」
「お気を確かに!」
寄ってきた側近達を、ソーンは手で制す。
「大事ない。すこし疲れただけさ。皆も同じだろう」
デルニエールの次期当主として確固たる自覚を持つ彼であるが、その年齢はわずか十歳。大軍と、十万の民の命を背負って立つには、あまりにも若すぎた。
「お父上は?」
「は。殿下は城内にいらっしゃいます」
「そうか……」
ティミドゥス公は、メイホーンの戦死を目にした途端それまでの意気を失って城の奥に引っ込んでしまっていた。敵が近づけば真っ先に狙われるのは大将だと、劣勢を見て我が身が惜しくなったのだ。
本来であれば大将の存在は兵の士気に大きく影響するものだが、今回はその限りではなかった。ソーンがいたからだ。弱冠十歳の次期当主が、懸命に軍を指揮している。その姿は皆に勇気を与えた。年端もいかぬ公太子が故郷の命運を賭けて戦っているのに、大人の民が気張らなくてどうする。口にはせずとも、誰しもそう思わずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる