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デルニエール攻防戦 王国軍サイド④ 上

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 城壁から戦場を見下ろすソーンの目には、ただ焦燥だけが滲んでいた。
 メイホーン戦死の報は陣営を少なからず動揺させ、士気は下落傾向にある。高い城壁で兵器を運用する兵士達は、飛空戦を行う術士隊が次々と堕とされていく様を目の当たりにしていた。たとえ地上部隊が優勢であったとしても平静ではいられない。

「ひるむなっ! 攻撃を止めるんじゃないっ!」

 そのような状況で、ソーンは毅然として命令を出し続けるしかなかった。弱気になった兵達を鼓舞し、高い声を張り上げ、どこに攻撃を集中させるかを指示する。

「これ以上術士隊に犠牲を出すわけにはいかないぞ! 弩砲隊はあの四神将の女を狙って! 対空魔法は適当でいい! 城壁に敵を近づけなければいいんだ!」

 頼りない父の代わりに、ソーンはできることを精一杯やっていた。
 地上にはジークヴァルドの重騎兵隊に加え、七将軍ハーフェイ・ウィンドリンの援軍も到着している。放っておいてもなんとかなるだろう。
 今は飛空戦の援護を優先しなければならない。多くの魔族が取りついてしまったら、いくら頑丈な城壁でも突破されない保証はない。
 四神将ソーニャ・コワール率いる魔族の参戦により戦況に動きがあったが、ここにきて両軍は再び拮抗することとなった。
 やがて日没が訪れ、疲弊した魔族達は一人また一人と撤退を開始する。
 それはソーニャ・コワールも例外ではなく、攻撃側として決定打を欠いたまま戦場を去る選択を強いられたのだった。
 傾いた陽光がデルニエールの城壁を赤く染める。
 敵の撤退を確認すると、ソーンは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

「若様!」

「お気を確かに!」

 寄ってきた側近達を、ソーンは手で制す。

「大事ない。すこし疲れただけさ。皆も同じだろう」

 デルニエールの次期当主として確固たる自覚を持つ彼であるが、その年齢はわずか十歳。大軍と、十万の民の命を背負って立つには、あまりにも若すぎた。

「お父上は?」

「は。殿下は城内にいらっしゃいます」

「そうか……」

 ティミドゥス公は、メイホーンの戦死を目にした途端それまでの意気を失って城の奥に引っ込んでしまっていた。敵が近づけば真っ先に狙われるのは大将だと、劣勢を見て我が身が惜しくなったのだ。
 本来であれば大将の存在は兵の士気に大きく影響するものだが、今回はその限りではなかった。ソーンがいたからだ。弱冠十歳の次期当主が、懸命に軍を指揮している。その姿は皆に勇気を与えた。年端もいかぬ公太子が故郷の命運を賭けて戦っているのに、大人の民が気張らなくてどうする。口にはせずとも、誰しもそう思わずにはいられなかった。
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