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白将軍の心②
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「う、うむ」
素直に礼を言われるとは思っていなかったのか、クディカはすこし戸惑い気味だ。
「正直言うと、戦争は怖い。ちょっとでも気を抜けば逃げ出してしまいそうなくらい不安定だって、自分でもわかってます」
「別におかしなことではない。誰だってそうだ」
「ええ。けど俺はめざめの騎士です。たとえ偽物でも、本物を演じないといけない。プレッシャーですよ、そういうのは」
クディカは腕を組む。なんと声をかけたものかと悩んでいる。カイトを励まそうと心を砕いてくれている。
「俺は幸せ者です」
「んん? どうしてそうなる。お前はいま大変な状況に立たされていて、その原因は私やリーティアにもある。この国を救うためお前を利用している節さえあるのだぞ。私とて罪悪感がないわけではない」
「そんな風には思ってませんよ。そもそも俺を助けるために考えてくれたことです。めざめの騎士にならなかったら、俺は今頃マナ中毒で死んでました」
「そうかもしれんが……」
「クディカさんがこうやって励ましに来てくれた。そのことが嬉しいんです。さっきはヘイスにも勇気を貰いましたし」
お茶の用意をするヘイスの背中に二人の目線が行く。せっせとお茶を淹れる侍女服の後姿には大きな癒しを感じる。
「だから俺は、幸せ者です」
自分のことをここまで気にかけてくれる人がいる。さらにはそれは美女ばかりというからには、年頃の男子であるカイトは小躍りするような心地である。
それと同時に、自分の口から出た言葉と、そんな風に考えることができる自分自身にも密かに驚いていた。
「ふふ。見直したぞ、カイトよ」
クディカの頬にも、満足げな笑みが浮かんでいた。
「人というのは、こうも変われるものなのだな。今のお前は、どこに出しても恥ずかしくない一人前の騎士だ」
「買いかぶりすぎですって。それは」
二人して笑い合う。
そこに、ヘイスが紅茶を運んできた。
慣れない手つきで置かれたカップに、クディカが口をつける。
「さて。そろそろハーフェイの軍がデルニエールに到着する頃か」
ぽつりとした呟きに、カイトの目が鋭くなる。
「デルニエールは大丈夫でしょうか。俺達が行くまでもたないんなんてことは」
「それはない。いくらティミドゥス公が無能といえ、抱える将校達はみな一流だ。たった一日で勝負が決するものか」
「その言い方は、なんか嫌な予感がしますね」
カイトは苦笑する。クディカ自ら、フラグを立てている気がしてならない。
「どうかな。援軍として真っ先にハーフェイが送られたのも、奴に勢いがあるからだ。何度か魔族との戦いに出陣しているが、奴の率いる軍は常に武勲を立ててきた」
大局からすれば敗色濃厚な中ではあるが、戦場単位で見ればハーフェイ・ウィンドリンは常勝不敗であった。以前は白将軍と謳われるクディカと並び称されていたが、彼女がモルディック砦を失ったことで差が生まれてしまったのは言うまでもない。
「もしかすれば、私達が到着する前に敵将を討ち取ってしまうやもしれんな」
リラックスして言う彼女の言葉が本心でないことは明白だ。カイトを安心させるために言っているのだろう。
「そうなることを願います。本当に」
できることならもう二度とソーニャには会いたくない。
ハーフェイの奮闘に期待を寄せて、カイトは熱い紅茶に口をつけた。
素直に礼を言われるとは思っていなかったのか、クディカはすこし戸惑い気味だ。
「正直言うと、戦争は怖い。ちょっとでも気を抜けば逃げ出してしまいそうなくらい不安定だって、自分でもわかってます」
「別におかしなことではない。誰だってそうだ」
「ええ。けど俺はめざめの騎士です。たとえ偽物でも、本物を演じないといけない。プレッシャーですよ、そういうのは」
クディカは腕を組む。なんと声をかけたものかと悩んでいる。カイトを励まそうと心を砕いてくれている。
「俺は幸せ者です」
「んん? どうしてそうなる。お前はいま大変な状況に立たされていて、その原因は私やリーティアにもある。この国を救うためお前を利用している節さえあるのだぞ。私とて罪悪感がないわけではない」
「そんな風には思ってませんよ。そもそも俺を助けるために考えてくれたことです。めざめの騎士にならなかったら、俺は今頃マナ中毒で死んでました」
「そうかもしれんが……」
「クディカさんがこうやって励ましに来てくれた。そのことが嬉しいんです。さっきはヘイスにも勇気を貰いましたし」
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「だから俺は、幸せ者です」
自分のことをここまで気にかけてくれる人がいる。さらにはそれは美女ばかりというからには、年頃の男子であるカイトは小躍りするような心地である。
それと同時に、自分の口から出た言葉と、そんな風に考えることができる自分自身にも密かに驚いていた。
「ふふ。見直したぞ、カイトよ」
クディカの頬にも、満足げな笑みが浮かんでいた。
「人というのは、こうも変われるものなのだな。今のお前は、どこに出しても恥ずかしくない一人前の騎士だ」
「買いかぶりすぎですって。それは」
二人して笑い合う。
そこに、ヘイスが紅茶を運んできた。
慣れない手つきで置かれたカップに、クディカが口をつける。
「さて。そろそろハーフェイの軍がデルニエールに到着する頃か」
ぽつりとした呟きに、カイトの目が鋭くなる。
「デルニエールは大丈夫でしょうか。俺達が行くまでもたないんなんてことは」
「それはない。いくらティミドゥス公が無能といえ、抱える将校達はみな一流だ。たった一日で勝負が決するものか」
「その言い方は、なんか嫌な予感がしますね」
カイトは苦笑する。クディカ自ら、フラグを立てている気がしてならない。
「どうかな。援軍として真っ先にハーフェイが送られたのも、奴に勢いがあるからだ。何度か魔族との戦いに出陣しているが、奴の率いる軍は常に武勲を立ててきた」
大局からすれば敗色濃厚な中ではあるが、戦場単位で見ればハーフェイ・ウィンドリンは常勝不敗であった。以前は白将軍と謳われるクディカと並び称されていたが、彼女がモルディック砦を失ったことで差が生まれてしまったのは言うまでもない。
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リラックスして言う彼女の言葉が本心でないことは明白だ。カイトを安心させるために言っているのだろう。
「そうなることを願います。本当に」
できることならもう二度とソーニャには会いたくない。
ハーフェイの奮闘に期待を寄せて、カイトは熱い紅茶に口をつけた。
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