90 / 152
デルニエール攻防戦 王国軍サイド③ 上
しおりを挟む
同刻。
平原ではデルニエールの地上部隊が数多の眷属と激戦を繰り広げていた。
デルニエール側の優勢である。
後衛術士によって強化された歩兵達は、城壁に迫っていた魔王軍を徐々に押し返していく。旧兵器による援護射撃もさることながら、個々の戦闘力と軍隊としての練度が非常に高い。今まさに、デルニエールの正規兵達が王国において屈指の強兵であることを証明していた。
とりわけ、ジークヴァルド率いる総勢五百騎の重騎兵隊は目覚ましい活躍を見せていた。専属の後衛術士によって兵士のみならず、武具や騎馬までが強化されている。その攻撃力と機動力たるや壮絶の一言であり、圧倒的な戦力差を覆す一番槍を担っていた。ジークヴァルドを先頭に戦場を縦横無尽に駆け回り、文字通り獣共を蹴散らしていく。
「決して止まるな! 我らが故郷を守るのだ!」
ジークヴァルドの鼓舞が響く。士気は上々。戦況は悪くない。
重騎兵隊が滅した眷属の数は千にも及ぼうとしていた。総数四万の眷属からすれば微々たる数に思えるが、短時間でこれだけの撃破数に達したのは驚異的と言える。
だが、良いことばかりではない。
戦場で目立つことは、狙われるリスクを背負うこと。戦果は死線の上にある。
部下を率いて駆け続けるジークヴァルドの正面。今まさに突っ込まんとしていた眷属の群の中央に、突如として黒い影が降ってきた。大地を打った強烈な衝撃は、獣達をあたかも紙片のように舞い上げ、乾いた灰と漆黒の粒子に変えた。同じく巻き上がった砂塵が混じり、煙幕となって一帯を覆い隠す。
「なんと!」
ジークヴァルドが兜の中で驚愕するが、今更進路を変えるわけにもいかない。
「かまわん。このまま突っ込めぃ!」
意気盛んな重騎兵達は、喊声をあげて灰の砂塵へと突入する。その先に何が待っているかも知らず。
砂塵の中に突っ込んだジークヴァルドは一切の油断を排していたが、翻って拍子抜けしてしまった。先程の衝撃で付近の獣は軒並み消滅し、一匹たりとも残っていない。結果、砂塵を抜けるまで彼が敵を見ることはついぞなかった。
「一体なんだったのだ……?」
嫌に静かだ。味方の喊声も、獣の足音も聞こえない。
背後の砂煙を振り返る。
そして、愕然とした。
引き連れていた五百の重騎兵がいない。誰も後をついてきていないのだ。砂塵の中にいた時間は十数秒。その間にはぐれてしまったというのか。
砂塵の中に戻るべく馬を反転させるジークヴァルド。その目が捉えたのは黒い騎兵の輪郭だ。
馬とは異なる、分厚く野太い嘶き。
闇色の獣に跨る、漆黒の鎧。
砂煙の中から悠然と歩き出でたのは、身の丈ほどの大剣を担いだ大柄な騎士であった。
平原ではデルニエールの地上部隊が数多の眷属と激戦を繰り広げていた。
デルニエール側の優勢である。
後衛術士によって強化された歩兵達は、城壁に迫っていた魔王軍を徐々に押し返していく。旧兵器による援護射撃もさることながら、個々の戦闘力と軍隊としての練度が非常に高い。今まさに、デルニエールの正規兵達が王国において屈指の強兵であることを証明していた。
とりわけ、ジークヴァルド率いる総勢五百騎の重騎兵隊は目覚ましい活躍を見せていた。専属の後衛術士によって兵士のみならず、武具や騎馬までが強化されている。その攻撃力と機動力たるや壮絶の一言であり、圧倒的な戦力差を覆す一番槍を担っていた。ジークヴァルドを先頭に戦場を縦横無尽に駆け回り、文字通り獣共を蹴散らしていく。
「決して止まるな! 我らが故郷を守るのだ!」
ジークヴァルドの鼓舞が響く。士気は上々。戦況は悪くない。
重騎兵隊が滅した眷属の数は千にも及ぼうとしていた。総数四万の眷属からすれば微々たる数に思えるが、短時間でこれだけの撃破数に達したのは驚異的と言える。
だが、良いことばかりではない。
戦場で目立つことは、狙われるリスクを背負うこと。戦果は死線の上にある。
部下を率いて駆け続けるジークヴァルドの正面。今まさに突っ込まんとしていた眷属の群の中央に、突如として黒い影が降ってきた。大地を打った強烈な衝撃は、獣達をあたかも紙片のように舞い上げ、乾いた灰と漆黒の粒子に変えた。同じく巻き上がった砂塵が混じり、煙幕となって一帯を覆い隠す。
「なんと!」
ジークヴァルドが兜の中で驚愕するが、今更進路を変えるわけにもいかない。
「かまわん。このまま突っ込めぃ!」
意気盛んな重騎兵達は、喊声をあげて灰の砂塵へと突入する。その先に何が待っているかも知らず。
砂塵の中に突っ込んだジークヴァルドは一切の油断を排していたが、翻って拍子抜けしてしまった。先程の衝撃で付近の獣は軒並み消滅し、一匹たりとも残っていない。結果、砂塵を抜けるまで彼が敵を見ることはついぞなかった。
「一体なんだったのだ……?」
嫌に静かだ。味方の喊声も、獣の足音も聞こえない。
背後の砂煙を振り返る。
そして、愕然とした。
引き連れていた五百の重騎兵がいない。誰も後をついてきていないのだ。砂塵の中にいた時間は十数秒。その間にはぐれてしまったというのか。
砂塵の中に戻るべく馬を反転させるジークヴァルド。その目が捉えたのは黒い騎兵の輪郭だ。
馬とは異なる、分厚く野太い嘶き。
闇色の獣に跨る、漆黒の鎧。
砂煙の中から悠然と歩き出でたのは、身の丈ほどの大剣を担いだ大柄な騎士であった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる