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デルニエール攻防戦 王国軍サイド② 下
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今メイホーンが取るべき選択は、撤退し守りを固め、旧兵器部隊と連携して籠城戦に徹することだ。撤退は早ければ早いほど戦力の損耗が少なく済む。
だが、頭では分かっていても術士としての矜持が後退を許さない。
そしてそれは、認めがたい恐怖の裏返しでもあった。
「私が……貴様のような小娘に……!」
メイホーンの両腕からルーン文字が散り、背後に浮かび上がっていく。仄かな光は燃え盛る紅き両翼となって彼の背中を彩った。
「あら綺麗。なかなか洒落ているじゃない。それが奥の手ってわけ?」
「舐めるなガキがぁッ!」
炎の翼を広げ、メイホーンはソーニャへと加速した。火の粉を散らし、火の尾を引き、隊列飛行をしていた時とは比べ物にならない速度に達する。
メイホーンは半ば逆上していた。何に激怒しているのかは自分でも分からない。若さ故に、あるいは優秀であるが故に、湧き出る激情を抑えられなかったのだ。
「ガキですってー。これでもあたし、あなたの倍は生きてると思うんですけどー」
ソーニャは警戒する素振りも見せない。やれやれと首を振るだけだ。
メイホーンのショートソードが烈火を帯びる。近接戦は術士の得手ではないが、武器に魔力を宿らせての一撃は半端な攻撃魔法を凌ぐ威力を持つ。反撃を受けるリスクが高くとも、今は持ちうる手札すべてを切る他ない。
「くらえ!」
炎の翼が一層激しく燃える。その一端が剣に宿り、ソーニャ目掛けて振り下ろされた。
最高速度に乗せた捨て身の一撃。
「くらわなーい」
その一撃を、ソーニャは羽虫でも払うかのように手首の動きだけで軽く弾き飛ばした。炎の剣は、なんの効果ももたらさない。
「ばっ――」
メイホーンは勢い余って体勢を崩し、飛空魔法の制御を失った。ぐるぐると回転し、天と地が曖昧になる。空で溺れるなど屈辱の極み。
「くそっ!」
辛うじて制御を取り戻した時、すでにメイホーンはソーニャの姿を見失っていた。
上下左右。いくら首を振っても見つからない。
「じゃーん」
刹那。逆さになったソーニャの美貌が眼前に降ってきた。
「うおぉッ!」
驚愕と恐怖と気合が絶叫となり、反射的に火炎をばら撒く。
並の魔族ならばこれでも多少のダメージにはなっただろう。そんな希望的観測も、四神将の前では何の意味も為さない。
防御もしない。障壁も張らない。されどソーニャは涼しい顔で、重力に従って垂れた銀の髪を梳いていた。
メイホーンの口から、もう言葉は出てこない。
四神将とて我々と同じ生き物。神でも悪魔でもない。そう信じていた自分はなんと愚かだったか。おこがましいにも程があった。飛空魔法を得て有頂天になっていたことに今更気付くとは。
ここにきてメイホーンはようやく悟る。
四神将ソーニャ・コワール。
生物としての格が、あまりにも違いすぎた。
「あはっ。バイバイ」
美しい銀の髪と、血で染めたような紅い瞳。
光さえも呑み込む漆黒の炎。
メイホーンが見た、最期の視界であった。
だが、頭では分かっていても術士としての矜持が後退を許さない。
そしてそれは、認めがたい恐怖の裏返しでもあった。
「私が……貴様のような小娘に……!」
メイホーンの両腕からルーン文字が散り、背後に浮かび上がっていく。仄かな光は燃え盛る紅き両翼となって彼の背中を彩った。
「あら綺麗。なかなか洒落ているじゃない。それが奥の手ってわけ?」
「舐めるなガキがぁッ!」
炎の翼を広げ、メイホーンはソーニャへと加速した。火の粉を散らし、火の尾を引き、隊列飛行をしていた時とは比べ物にならない速度に達する。
メイホーンは半ば逆上していた。何に激怒しているのかは自分でも分からない。若さ故に、あるいは優秀であるが故に、湧き出る激情を抑えられなかったのだ。
「ガキですってー。これでもあたし、あなたの倍は生きてると思うんですけどー」
ソーニャは警戒する素振りも見せない。やれやれと首を振るだけだ。
メイホーンのショートソードが烈火を帯びる。近接戦は術士の得手ではないが、武器に魔力を宿らせての一撃は半端な攻撃魔法を凌ぐ威力を持つ。反撃を受けるリスクが高くとも、今は持ちうる手札すべてを切る他ない。
「くらえ!」
炎の翼が一層激しく燃える。その一端が剣に宿り、ソーニャ目掛けて振り下ろされた。
最高速度に乗せた捨て身の一撃。
「くらわなーい」
その一撃を、ソーニャは羽虫でも払うかのように手首の動きだけで軽く弾き飛ばした。炎の剣は、なんの効果ももたらさない。
「ばっ――」
メイホーンは勢い余って体勢を崩し、飛空魔法の制御を失った。ぐるぐると回転し、天と地が曖昧になる。空で溺れるなど屈辱の極み。
「くそっ!」
辛うじて制御を取り戻した時、すでにメイホーンはソーニャの姿を見失っていた。
上下左右。いくら首を振っても見つからない。
「じゃーん」
刹那。逆さになったソーニャの美貌が眼前に降ってきた。
「うおぉッ!」
驚愕と恐怖と気合が絶叫となり、反射的に火炎をばら撒く。
並の魔族ならばこれでも多少のダメージにはなっただろう。そんな希望的観測も、四神将の前では何の意味も為さない。
防御もしない。障壁も張らない。されどソーニャは涼しい顔で、重力に従って垂れた銀の髪を梳いていた。
メイホーンの口から、もう言葉は出てこない。
四神将とて我々と同じ生き物。神でも悪魔でもない。そう信じていた自分はなんと愚かだったか。おこがましいにも程があった。飛空魔法を得て有頂天になっていたことに今更気付くとは。
ここにきてメイホーンはようやく悟る。
四神将ソーニャ・コワール。
生物としての格が、あまりにも違いすぎた。
「あはっ。バイバイ」
美しい銀の髪と、血で染めたような紅い瞳。
光さえも呑み込む漆黒の炎。
メイホーンが見た、最期の視界であった。
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