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デルニエール攻防戦 王国軍サイド② 上

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「一斉射! やれ!」

 数十の術士が、乾坤一擲の集中砲火を放つ。無数の火炎は紅蓮の軌跡を描き、動きを止めたソーニャに吸い込まれるように着弾。攻撃は更に重ねられ、幾度となく爆風を巻き起こし、その威勢を増していった。
 撃ち込まれた炎は都合二百発。一撃一撃が、大地を砕き海を削る極大の威力。

「隊長!」

 共に飛ぶ術士の呼びかけに、メイホーンは力強い首肯で応じた。

「やったな。いくら四神将とはいえ、所詮我々と同じ生き物だ。世の理を超えることはできん。もはや跡形も残っていないだろう」

「大戦果ですな!」

「当然の結果だよ。先人の知恵と、古くより培った戦術の賜物だ」

 炎の残滓が空を埋めている。
 メイホーンはそこから目を離し、他の空域を見据えた。

「残敵を掃討するぞ。将さえ討ちとってしまえば、あとは多少頑丈なだけの有象無象に過ぎん」

「りょうか――」

 駆け抜ける魔力の波動。
 半ば反射的に回避行動をとったメイホーンの目に映ったのは、首から下を失った部下の姿。絶命しゆく彼と目が合う。勝利を疑わない勇敢な面持ちのまま、首だけになった青年術士。断面から鮮血をまき散らし、熟れた果実のごとく地へと墜ちていく。
 メイホーンの額に脂汗が噴きあがった。心臓を棒で叩かれているような鼓動。一瞬の眩暈が訪れる。

「賢いつもりで、これが案外おバカさんなのよねぇ。人間って」

 消えゆく炎の隙間から、紅い瞳が覗く。
 外見こそ十代半ばの女なれども、その身が纏う魔力の圧は人知を遥かに超越していた。

「信じられん……あれだけの火炎を浴びて……凌いだというのか」

 ソーニャがひらりと手を振ると、空を覆っていた炎は強風に煽られた蝋燭の火にも等しく、瞬時にして消滅した。
 衣装にあしらわれたフリルが揺れる。その一片にさえ、術士達の炎は届いていなかった。

「おあいにくさま。同じような手口はもー経験済みなの。一回それで痛い目見ちゃったしねー」

 ソーニャの障壁は、デルニエールが誇る術士隊の全力をいとも容易く無効化した。それが何を意味するのか。知恵者であるが故、メイホーンは理解してしまった。
 術士隊は近く全滅する。それこそソーニャ・コワールがその気になれば、三百の精鋭を殲滅するのに半刻もかからぬだろう。
 彼は決して四神将を侮っていたわけではない。個人単位で見るならば、メイホーンでさえソーニャには敵わないと予測していた。だからこそ連携を密に取り、一気に火力を集中させたのだ。その戦術は間違っていなかったはずだ。
 過ちがあったとするならば、ソーンを含めたデルニエールの首脳たちが、四神将の力を過小評価してしまったことだろう。幾許か強く見積もって尚、ソーニャの力はその遥か上をいっていた。
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