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デルニエール攻防戦 魔王軍サイド① 上

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 魔王軍は夜明けと共に攻撃を開始した。
 だが、城門を閉ざし守りを固めたデルニエールの攻略は容易ではない。攻城軍を構成する魔族の数は二百あまり。彼らが率いる眷属は四万を超えていた。これを人間の軍に換算するならば、およそ二十万の大軍勢に匹敵する。

 対するデルニエール守備軍は兵力二万にも満たず、その大半は民兵である。
 いくら強固な城塞を構えようとも、この圧倒的な戦力の差を覆すことは難しい。ソーニャをはじめとする魔族達は当然そう考えていた。
 ところが、緒戦はデルニエールが優勢であった。
 魔王軍は小細工を用いず一挙に眷属を突撃させたが、デルニエールの高い城壁から飛来する投石や太矢に次々とその数を減らしていった。城壁に取りついた眷属も多くあったが、登りきる前に叩き落されるのがほとんどであり、登りきった個体も集中攻撃を受けて脱落していく。

 魔王の眷属らが消滅していく様を、ソーニャは後方の野営地からじっと眺めていた。宙に浮かんで脚を組み、膝に頬杖をついている。不満げに唇を尖らせているのも仕方ない。

「ま、そー簡単にはいかないわよねぇ」

 自分を宥める呟きだ。思わず溜息が漏れる。

「あら」

 ソーニャの呟きを拾ったのはシェリンだ。

「戦いは思い通りにいかないから面白いんだって。いつもルークがそう言ってるわ」

 隣で優雅に宙を漂うシェリン。藍色の袖、ロングスカートの裾がふわりと舞う。

「あのねー。思い通りにいった方が楽しいに決まってるでしょ」

 ルークのような戦闘狂と一緒にしないでほしい。ソーニャは言外にそう伝える。
 彼が求めるのは闘争の為の闘争だ。勝利をこよなく愛するソーニャとは根本的に嗜好が違う。

「このままじゃ、いくら続けてもあれを落とすなんて無理よ。魔王様の眷属を無駄遣いするだけだわ」

 事は予想外の方向に進んでいた。
 デルニエールが優勢である最大の理由は、投石機や大型弩砲の大量投入である。
 攻撃魔法が発達した今の時代。かつて人間が開発した原始的な戦術兵器はとうに廃れ、攻撃魔法にその地位を奪われていた。威力やコスト、運用面において、歩兵を支援するには兵器よりも攻撃魔法の方が優れているということは周知の事実であるからだ。
 非効率なはずの旧式兵器を、デルニエールの指揮官はあえて選んだ。何故か。人間が放つ攻撃魔法では、魔族相手に大きな効果は得られないと学んだからだ。
 魔族は強靭な魔力耐性を持つ。前線を駆け回る眷属もまた同様に。故に強化魔法を施された歩兵が王国軍の主力を担っているわけだが、デルニエールの指揮官はその常識を覆した。

「岩を投げて攻撃するなんて、野蛮な人間もいるものね」

「あれが人間の知恵ってやつなんでしょー? 小賢しいったらありゃしないわ」

 シェリンの悩ましげな声に、ソーニャが呆れたように答える。
 戦況は変わらない。同じことの繰り返しで飽き飽きしてくる。このまま数で攻め続け、敵兵を疲弊させる手もあるかもしれない。生粋の魔族であるソーニャにとって、それは姑息な手段に思えた。

「退屈」

 ソーニャの口から蝶の羽ばたきのような吐息が漏れる。
 せっかく大きな戦いなのだから、派手に暴れたくなるのが魔族の性分だ。けれど、戦いに際して魔王から言い渡された方針がある。戦闘はできるだけ眷属に任せ、魔族達は後方で身を守ること。死傷者がでないようにとの配慮だろうが、戦いを前にして我慢できる魔族は多くない。
 現に今も、多くの魔族が各々声を上げて我先にと戦場に躍り出ていくところであった。
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