異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ

文字の大きさ
上 下
66 / 152

決闘

しおりを挟む
「ゆくぞっ!」

 ハーフェイが床を蹴った。鎧の重さを感じさせぬ軽快な足さばき。十歩の距離は瞬く間に消滅し、疾風の斬撃がカイトに迫る。
 速い。恐ろしく速いはずの剣。
 けれど、遅い。

 カイトはやっと動き出す。ハーフェイが剣を握る右手側に、回り込むように一歩。剣は空振りし、風切り音だけが虚しく響く。
 カイトにはハーフェイの背中が見えている。次に彼が選ぶ行動は、振り向きざまの横薙ぎか、あるいは距離を空けるのか。
 どちらでもなかった。ハーフェイは手首を翻し、逆手に返した長剣による刺突を放つ。

「うおっ」

 意表を衝かれたカイトは、しかし余裕をもってこれをいなした。はたいた剣の腹に嫌に冷たい。
 結局、後方跳びで距離を取ったのはカイトの方だ。
 周囲から感嘆の声が上がる。一瞬の攻防は、あたかも演武の一場面のようだった。

「ふん。それなりにいい動きをするじゃないか」

 改めて剣を構え直すハーフェイ。

「手加減は無用か。油断を排して臨むとしよう」

「へっ。いいのか? 負けた時の言い訳がなくなっても」

「ほざけ!」

 ハーフェイが肉薄する。
 怒涛の斬撃がカイトを襲った。問題なく、その悉くをのらりくらりと躱していく。一方、回避に徹する故、ハーフェイの動きを制することはできない。
 自由自在な動きでカイトを崩そうと試みるハーフェイだが、思い通りにいかず精神的余裕をすり減らしていった。

「そんな無駄な動きで!」

 カイトに武術の心得はない。体捌きの拙さは誰が見ても明白だ。それでも達人であるハーフェイの連撃をいなせるのは、一重にカイトの不自然な身体能力のおかげだった。
 攻撃がかすりもしないことに苛立ちを募らせ、ハーフェイの動きは次第に大味になっていく。カイトが反撃しないこともそれに拍車をかけているのだろう。
 戦いが始まってしまえば、カイトは恐怖を失った。何故ならば、彼我の力の差を理解してしまったから。奇妙な高揚感が全身を支配していた。
 周囲から見ればハーフェイの優勢。カイトは防戦一方。だが、一部の熟練した戦士だけがこの戦いの異常さを感じ取っていた。
 ハーフェイは渾身の一撃を放つべく、大上段に振りかぶる。

「遅ぇ!」

 今のカイトにとって、相手はどの瞬間を切り取っても隙だらけだった。
 満を持してカイトが反撃に移る。素人丸出しのテレフォンパンチ。達人相手に当たるわけがない。
 ただ、その動きがあまりにも速すぎた。
 ハーフェイが剣を振り下ろすより先に、カイトの拳が突き刺さる。金属の胸当てに直撃した拳撃は、ハーフェイを遥か後方に吹き飛ばした。玉座の間を転々としたハーフェイは入口の扉に背中から激突。至近にいたヘイスが声をあげる。

 直後に、彼は喀血した。胸当てには拳大のへこみが生まれ、胸部に深刻なダメージを負っていることがわかる。
 カイトはふと我に返った。拳を放った体勢のまま、動かなくなったハーフェイから目が離せなかい。

「お、おい。死んで、ないよな?」

 手ごたえはあった。感じたことのない衝撃。人を殴るのは初めてではないが、これほど脆く感じたことはない。金属製の胸当てが、まるで発泡スチロールかのように思えた。
 場はしんと静まり返る。目の前で起きたことが信じられない。それがこの場の多くに共通する感想だった。
 能器将軍ハーフェイ・ウィンドリン。過去の戦いで数々の武功を立てた若きホープが、名も無き丸腰の男に一撃で下された。それを残念に思う者もいれば、喜ぶ者もいた。

「誰ぞ、手当てを」

 驚愕の中で固まっていた臣下らを王が一喝した。すぐさま近くの文官が集まり、ハーフェイの治療を始める。

「見事だ」

 安堵も束の間。王より投げかけられた声に、カイトは肩を震わせて居住まいを正した。

「カイト・イセ。貴殿の力を認め、乙女への拝謁を許可する」

 その宣言の意味するところは、メック・アデケー王国が新たなめざめの騎士の誕生を容認したことに他ならない。
 アーシィ・イーサムの死。
 そして魔王の出現。
 王国は士気旺盛でありながら、その実、希望は深く沈みつつあった。
 ありえないと知りながら、誰もが心のどこかで切望していたのだ。
 この国を救う、英雄の誕生を。
 強大な個であり群である魔王に対抗できる、もう一つの強き力を。
 異界の勇者。
 めざめの騎士。
 肩書はなんでもいい。

「その力、存分に振るうがよい。灰の乙女の御為に」

 今この時より、カイトは英雄への道を歩み始めることになる。
 半ば、強制的に。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

処理中です...