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勇者 ①
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思わぬ反応に、寄っていたカイトの眉間が開く。
どういう風の吹き回しだろうか。
「意外か?」
「そりゃあ、自分でも突拍子もないことを言っている自覚はありますから」
「ところがそうでもない。いや、異世界云々はその通りだが、お前の体質を説明するにはそれくらいでなくては納得できないのも事実だ」
「体質?」
カイトの疑問に、今度はリーティアが言葉を紡いだ。
「あなたには魔力がないとお話ししたのを覚えていますか? それに伴ってマナへの耐性が欠如しているということも。それは、魔法の影響を誰よりも強く受けるということに他なりません。攻撃魔法には極めて弱く、覚えたての子どもが放つようなかすかな威力でも致命傷になるでしょう。裏を返せば、治癒魔法の恩恵を余すことなく享けられるということでもあります」
そういえば、ソーニャがそんなことを言っていたような気がする。ちょっとした攻撃魔法で消し飛ぶだのなんだの。
「お前が五体満足でいられるのも、マナへの耐性がない故だ。私の姿を見ろ。同じリーティアの治癒を受けた身でも、治り方に大きく差があるだろう」
確かにそうだ。傷一つないカイトに比べて、クディカの負傷はあまりにも痛々しい。
ここでやっと、カイトは自分がリーティアに助けられたことを悟った。ソーニャに握り潰されてからの記憶はないが、それくらいは状況から察することができる。
二度も命を救われたとなれば、いくら酷い仕打ちを受けた身であっても、まったく感謝しないわけにはいかなかった。
だが果たして、助かってよかったのだろうか。あのまま死んでいた方が楽だったんじゃないか。カイトの中に残っていたネガティブな思考が蘇り、即座に消えてなくなる。
苦しみの渦中にいる間はそんな気持ちにもなるが、いざ危機を脱してみれば助かってよかったと安堵する自分がいるのだ。
「歴史上、人に限らず魔力を持たない生物が存在したという記録はない。そうでなくともタリスマンなしでは呼吸もままならないお前が、今までどうやって生きてきたかという疑問もある。異世界からやってきたというのも頷けん話ではない」
クディカに言われ、カイトは胸のタリスマンを握る。これが失われなかったことはまさしく幸運であった。
「それだけではないぞ。というより、こちらの方が重要なのだが」
そう前置きして、クディカは咳払いを漏らす。
「お前は、我が軍の兵を命がけで守ってくれた。たった一人であの四神将に立ち向かった勇者だ。そんな男の言葉を疑うほど、私は愚かではないつもりだ」
鼓動が一つ、大きく脈打ち、カイトは深く息を吸い込んだ。
「勇者?」
少なくともカイトにとって、それは最大の賛辞であった。
「俺が……勇者、ですか」
手が震える。胸に渦巻くのは得体の知れない感情。
嬉しいのか、悲しいのか。わからないが、何故か泣きそうだった。
「そうだ、胸を張れ。お前は確かに一つの命を救ったのだ。勇者と呼ばずにしてなんという」
その称号は、力や役割に与えられるものではない。
自身の中に眠る勇気を、行動をもって示した者のみが得る勲章である。
カイトが剣を取ったのは決して勇気を示したかったからではない。妹との約束を守るためには、自身の臆病に打ち勝つしかなかったからだ。
自ら苦難の中にありながら、他人の為に命を賭ける。
その強き決意が、今の結果をもたらした。
「勇者。勇者か」
カイトは噛み締めるように呟く。
もったいない評価だ。カイトが思い描く理想の勇者像には程遠い。勇者と言えば、圧倒的な力で敵を蹴散らす一騎当千の猛者であるべきだろうに。
「ヘイス・ホーネン。ここへ」
「は、はいっ!」
クディカに呼ばれ、部屋の片隅にいた少女が口を開いた。今まで窺うように顎を引いていた彼女の表情が一気に緊張する。
どういう風の吹き回しだろうか。
「意外か?」
「そりゃあ、自分でも突拍子もないことを言っている自覚はありますから」
「ところがそうでもない。いや、異世界云々はその通りだが、お前の体質を説明するにはそれくらいでなくては納得できないのも事実だ」
「体質?」
カイトの疑問に、今度はリーティアが言葉を紡いだ。
「あなたには魔力がないとお話ししたのを覚えていますか? それに伴ってマナへの耐性が欠如しているということも。それは、魔法の影響を誰よりも強く受けるということに他なりません。攻撃魔法には極めて弱く、覚えたての子どもが放つようなかすかな威力でも致命傷になるでしょう。裏を返せば、治癒魔法の恩恵を余すことなく享けられるということでもあります」
そういえば、ソーニャがそんなことを言っていたような気がする。ちょっとした攻撃魔法で消し飛ぶだのなんだの。
「お前が五体満足でいられるのも、マナへの耐性がない故だ。私の姿を見ろ。同じリーティアの治癒を受けた身でも、治り方に大きく差があるだろう」
確かにそうだ。傷一つないカイトに比べて、クディカの負傷はあまりにも痛々しい。
ここでやっと、カイトは自分がリーティアに助けられたことを悟った。ソーニャに握り潰されてからの記憶はないが、それくらいは状況から察することができる。
二度も命を救われたとなれば、いくら酷い仕打ちを受けた身であっても、まったく感謝しないわけにはいかなかった。
だが果たして、助かってよかったのだろうか。あのまま死んでいた方が楽だったんじゃないか。カイトの中に残っていたネガティブな思考が蘇り、即座に消えてなくなる。
苦しみの渦中にいる間はそんな気持ちにもなるが、いざ危機を脱してみれば助かってよかったと安堵する自分がいるのだ。
「歴史上、人に限らず魔力を持たない生物が存在したという記録はない。そうでなくともタリスマンなしでは呼吸もままならないお前が、今までどうやって生きてきたかという疑問もある。異世界からやってきたというのも頷けん話ではない」
クディカに言われ、カイトは胸のタリスマンを握る。これが失われなかったことはまさしく幸運であった。
「それだけではないぞ。というより、こちらの方が重要なのだが」
そう前置きして、クディカは咳払いを漏らす。
「お前は、我が軍の兵を命がけで守ってくれた。たった一人であの四神将に立ち向かった勇者だ。そんな男の言葉を疑うほど、私は愚かではないつもりだ」
鼓動が一つ、大きく脈打ち、カイトは深く息を吸い込んだ。
「勇者?」
少なくともカイトにとって、それは最大の賛辞であった。
「俺が……勇者、ですか」
手が震える。胸に渦巻くのは得体の知れない感情。
嬉しいのか、悲しいのか。わからないが、何故か泣きそうだった。
「そうだ、胸を張れ。お前は確かに一つの命を救ったのだ。勇者と呼ばずにしてなんという」
その称号は、力や役割に与えられるものではない。
自身の中に眠る勇気を、行動をもって示した者のみが得る勲章である。
カイトが剣を取ったのは決して勇気を示したかったからではない。妹との約束を守るためには、自身の臆病に打ち勝つしかなかったからだ。
自ら苦難の中にありながら、他人の為に命を賭ける。
その強き決意が、今の結果をもたらした。
「勇者。勇者か」
カイトは噛み締めるように呟く。
もったいない評価だ。カイトが思い描く理想の勇者像には程遠い。勇者と言えば、圧倒的な力で敵を蹴散らす一騎当千の猛者であるべきだろうに。
「ヘイス・ホーネン。ここへ」
「は、はいっ!」
クディカに呼ばれ、部屋の片隅にいた少女が口を開いた。今まで窺うように顎を引いていた彼女の表情が一気に緊張する。
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