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部屋に入ってまず目についたのは、大きなベッドの上のクディカであった。カイトと同じ貫頭衣。四肢に巻きつけられた添木や包帯が、彼女の重症を物語っている。頭部や片目までに包帯が巻かれており、ところどころ血が滲んでいるのが非常に痛々しい。
「デュール、ご苦労だった。適当にかけていい」
「はっ」
片隅のイスに腰を下ろしたデュールを横目に、カイトは手持無沙汰だった。
クディカの傍ら。簡素な丸椅子に、リーティアがゆったりと腰かけている。彼女は柔和な笑みで眼鏡の弦をくいと上げると、手のひらでベッドの脇を指した。
「カイトさん。どうぞこちらへ」
言われるがまま、カイトは躊躇いがちに二人に歩み寄った。視界の端に小柄な少女の姿があるが、気にする余裕はない。
「ふむ」
クディカの碧い眼が、カイトの全身を隈なく観察する。負傷していると言え、その眼光は相変わらず鋭く、カイトの居心地を悪くさせる。
「とてもではないが体が潰れていたようには見えんな。たった一晩ですべて治ったというのか?」
カイトにとっても疑問だった。思い出したくもないが、確かに巨人に握り潰されたはずだ。今はそれが嘘のように元通りになっている。
「今度こそ答えてもらうぞ。貴様が一体何者なのか」
部屋の視線はカイトに集中していた。クディカは厳しく。リーティアは見守るように。デュールは淡々と。少女は戸惑いを湛えて。
すぐには口を開けなかった。異世界から来たことを言うべきか。言えばどんな目に遭うか。自分は今どういった立場にいるのか。まったくわからない。
だが、考えても仕方のないことだ。この場の雰囲気からして、曖昧な答えを許してはくれないだろう。
しばし沈黙の後、カイトは腹を括った。
「俺は」
それでも、やはり言いにくい。
再びの静寂。誰しもが口を噤み、次の言葉を待っていた。
「俺は、この世界の人間じゃありません。こことはまったく別の……なんていうか、国も星も全然違う。つまり、その……異世界からやってきました」
努めて平静に、真剣味を帯びた声で言い切った。
ああ。やっぱり言うんじゃなかった。
カイトの後に続く言葉はない。訪れた神妙な空気。いたたまれないにも程がある。
「それだけか?」
しばらくの間があって、クディカがようやく口を開いた。
「えっと」
「言うべきことはそれだけか、と聞いている」
厳しい物言い。けれど、思った通りの反応だ。
無論、最初から信じてもらえるとは思っていない。だからこそ困惑せずに済んだ。
「嘘は言ってません。俺がわかることはそれだけです」
カイトの堂々とした態度は、モルディック砦で問い詰められた時とは大違いだった。
クディカはリーティアと目を合わせる。二人はそれだけで意思疎通を終えて、再びカイトに向き直った。
「あの戦場にいたのはどうしてだ」
「この世界に来た時、最初にいた場所があそこだったんです」
「するとなにか。貴様は戦場のど真ん中に突如湧いて出たというのか?」
「そうなります」
「それで、右も左も分からずマナ中毒になったと」
「はい」
「どうしてそれをあの時言わなかった」
絶え間ない質問攻めに、次第にカイトの表情も険しくなってくる。
「言えば信じてくれたんですか? 悪いけど、そんな風には思えなかった」
語気を強めたカイトにも、クディカは眉一つ動かさない。
「確かにそうだ。そんな荒唐無稽なことを信じる馬鹿がどこにいる。あの時の私なら間違いなくそう言っていただろうな」
やっぱり。
この世界には異世界からの訪問者などいない。そんな前例はないのだ。
カイトの落胆とは裏腹に、クディカが続けたのは予想外の言葉だった。
「だが今は、お前の言葉を信じよう。カイト・イセ」
目を閉じて吐息を漏らすクディカ。少し気が抜けたようで、研ぎ澄まされた刃のようだった雰囲気がふっと和らいだ。
「デュール、ご苦労だった。適当にかけていい」
「はっ」
片隅のイスに腰を下ろしたデュールを横目に、カイトは手持無沙汰だった。
クディカの傍ら。簡素な丸椅子に、リーティアがゆったりと腰かけている。彼女は柔和な笑みで眼鏡の弦をくいと上げると、手のひらでベッドの脇を指した。
「カイトさん。どうぞこちらへ」
言われるがまま、カイトは躊躇いがちに二人に歩み寄った。視界の端に小柄な少女の姿があるが、気にする余裕はない。
「ふむ」
クディカの碧い眼が、カイトの全身を隈なく観察する。負傷していると言え、その眼光は相変わらず鋭く、カイトの居心地を悪くさせる。
「とてもではないが体が潰れていたようには見えんな。たった一晩ですべて治ったというのか?」
カイトにとっても疑問だった。思い出したくもないが、確かに巨人に握り潰されたはずだ。今はそれが嘘のように元通りになっている。
「今度こそ答えてもらうぞ。貴様が一体何者なのか」
部屋の視線はカイトに集中していた。クディカは厳しく。リーティアは見守るように。デュールは淡々と。少女は戸惑いを湛えて。
すぐには口を開けなかった。異世界から来たことを言うべきか。言えばどんな目に遭うか。自分は今どういった立場にいるのか。まったくわからない。
だが、考えても仕方のないことだ。この場の雰囲気からして、曖昧な答えを許してはくれないだろう。
しばし沈黙の後、カイトは腹を括った。
「俺は」
それでも、やはり言いにくい。
再びの静寂。誰しもが口を噤み、次の言葉を待っていた。
「俺は、この世界の人間じゃありません。こことはまったく別の……なんていうか、国も星も全然違う。つまり、その……異世界からやってきました」
努めて平静に、真剣味を帯びた声で言い切った。
ああ。やっぱり言うんじゃなかった。
カイトの後に続く言葉はない。訪れた神妙な空気。いたたまれないにも程がある。
「それだけか?」
しばらくの間があって、クディカがようやく口を開いた。
「えっと」
「言うべきことはそれだけか、と聞いている」
厳しい物言い。けれど、思った通りの反応だ。
無論、最初から信じてもらえるとは思っていない。だからこそ困惑せずに済んだ。
「嘘は言ってません。俺がわかることはそれだけです」
カイトの堂々とした態度は、モルディック砦で問い詰められた時とは大違いだった。
クディカはリーティアと目を合わせる。二人はそれだけで意思疎通を終えて、再びカイトに向き直った。
「あの戦場にいたのはどうしてだ」
「この世界に来た時、最初にいた場所があそこだったんです」
「するとなにか。貴様は戦場のど真ん中に突如湧いて出たというのか?」
「そうなります」
「それで、右も左も分からずマナ中毒になったと」
「はい」
「どうしてそれをあの時言わなかった」
絶え間ない質問攻めに、次第にカイトの表情も険しくなってくる。
「言えば信じてくれたんですか? 悪いけど、そんな風には思えなかった」
語気を強めたカイトにも、クディカは眉一つ動かさない。
「確かにそうだ。そんな荒唐無稽なことを信じる馬鹿がどこにいる。あの時の私なら間違いなくそう言っていただろうな」
やっぱり。
この世界には異世界からの訪問者などいない。そんな前例はないのだ。
カイトの落胆とは裏腹に、クディカが続けたのは予想外の言葉だった。
「だが今は、お前の言葉を信じよう。カイト・イセ」
目を閉じて吐息を漏らすクディカ。少し気が抜けたようで、研ぎ澄まされた刃のようだった雰囲気がふっと和らいだ。
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