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新たなる目覚め ②
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「えっと……」
あなたは誰で、ここはどこで、果たして自分はどうなったのか。
そんなカイトの疑問を察して、青年が口を開く。
「デュールだ。クディカ将軍の副官を務めている」
二十代半ばくらいだろうか。精悍で生真面目な顔つきからは、力強い軍人然とした印象を受ける。
「ここはデルニエールの療養所。モルディック砦から撤退した負傷兵達が治療を受けている。フューディメイム卿の計らいで、軍の人間でない君も同じくな」
デュールの表情は固く、口調は淡々としている。
「あの方に、感謝を忘れないように」
正直なところ、そんな気にはなれなかった。助かったはいいが、また酷な扱いを受けるのはまっぴらである。この世界の軍人からは敵意を向けられた記憶しかない。スパイ容疑をかけられ、殴られ投獄され、挙句の果てには殺されそうにもなった。
彼らは信用に値しない。ここで安心するなどもっての他だ。
「さぁ、目が覚めたらベッドを空けるんだ。それを使うべき者が順番を待っている」
「空けろって言われても」
「君には行くべきところがある。一緒に来てもらうぞ」
「今からですか? 起きたばかりだってのに……」
「甘えたことを言うんじゃない。君はもう怪我人じゃないんだ」
デュールは背を向けると一言「ついてこい」とだけ残して歩き出した。
ついていく義理も必要も感じなかったが、従わなければ後が怖そうだ。カイトは渋々ベッドから下りると、心もとない貫頭衣のまま、床に置いてあったぶかぶかのサンダルを履いてデュールを追いかけた。
部屋を出て廊下を歩く。回廊の長さや幅、窓から見える景色からして、この療養所がそれなりに大きな建物だということがわかる。面積だけでいえば高校の校舎一棟に相当するだろうか。どことなくヨーロピアンな風情を思わせる木造の建物だが、建築様式に詳しくないカイトには確かなことはわからない。思い浮かぶのは、なんとなくファンタジーな趣がある、という拙い感想だけだった。
「療養所が珍しいか?」
よほどキョロキョロしていたのだろう。デュールが前を向いたまま尋ねてくる。
「まぁ、すこしは」
そもそもカイトにとってはこの世界の全てが物珍しい。アニメやゲームで見るのと、実際に目にするのとでは臨場感が桁違いだ。文字通り、遠い異国の地に来たような気分である。
「どこに向かってるんです?」
「すぐわかる」
もったいぶらず教えてくれたっていいじゃないか。という言葉は喉の奥に押し込んだ。
間もなく目的地に到着する。扉の前に二人の兵士が立っていた。
兵士らはデュールの姿を見とめると、足を揃えて右手を左肩に当てた。この国における敬礼の作法だろうか。
「ご苦労」
デュールが頷くと、兵士らは機敏な所作で元の姿勢に戻る。彼らは表情こそ変えなかったが、わかりやすい好奇の視線をカイトに注いでいた。背が高く頑強な体つきの兵士の目に些か以上の威圧感を覚え、カイトは小さく肩を竦ませた。
緊張するカイトをよそに、デュールは扉をノックする。
「デュールです。例の男を連れて参りました」
「入れ」
扉の奥から聞こえてきた声に、カイトはぎょっとした。
あの女将軍の声だ。剣を突きつけられた時のことを思い出して、思わず首筋を押さえる。
「失礼します」
扉を開いたデュールが振り返り、カイトに入室を促す。
正直入りたくないが、しょうがない。カイトは渋々デュールの後に続いた。
あなたは誰で、ここはどこで、果たして自分はどうなったのか。
そんなカイトの疑問を察して、青年が口を開く。
「デュールだ。クディカ将軍の副官を務めている」
二十代半ばくらいだろうか。精悍で生真面目な顔つきからは、力強い軍人然とした印象を受ける。
「ここはデルニエールの療養所。モルディック砦から撤退した負傷兵達が治療を受けている。フューディメイム卿の計らいで、軍の人間でない君も同じくな」
デュールの表情は固く、口調は淡々としている。
「あの方に、感謝を忘れないように」
正直なところ、そんな気にはなれなかった。助かったはいいが、また酷な扱いを受けるのはまっぴらである。この世界の軍人からは敵意を向けられた記憶しかない。スパイ容疑をかけられ、殴られ投獄され、挙句の果てには殺されそうにもなった。
彼らは信用に値しない。ここで安心するなどもっての他だ。
「さぁ、目が覚めたらベッドを空けるんだ。それを使うべき者が順番を待っている」
「空けろって言われても」
「君には行くべきところがある。一緒に来てもらうぞ」
「今からですか? 起きたばかりだってのに……」
「甘えたことを言うんじゃない。君はもう怪我人じゃないんだ」
デュールは背を向けると一言「ついてこい」とだけ残して歩き出した。
ついていく義理も必要も感じなかったが、従わなければ後が怖そうだ。カイトは渋々ベッドから下りると、心もとない貫頭衣のまま、床に置いてあったぶかぶかのサンダルを履いてデュールを追いかけた。
部屋を出て廊下を歩く。回廊の長さや幅、窓から見える景色からして、この療養所がそれなりに大きな建物だということがわかる。面積だけでいえば高校の校舎一棟に相当するだろうか。どことなくヨーロピアンな風情を思わせる木造の建物だが、建築様式に詳しくないカイトには確かなことはわからない。思い浮かぶのは、なんとなくファンタジーな趣がある、という拙い感想だけだった。
「療養所が珍しいか?」
よほどキョロキョロしていたのだろう。デュールが前を向いたまま尋ねてくる。
「まぁ、すこしは」
そもそもカイトにとってはこの世界の全てが物珍しい。アニメやゲームで見るのと、実際に目にするのとでは臨場感が桁違いだ。文字通り、遠い異国の地に来たような気分である。
「どこに向かってるんです?」
「すぐわかる」
もったいぶらず教えてくれたっていいじゃないか。という言葉は喉の奥に押し込んだ。
間もなく目的地に到着する。扉の前に二人の兵士が立っていた。
兵士らはデュールの姿を見とめると、足を揃えて右手を左肩に当てた。この国における敬礼の作法だろうか。
「ご苦労」
デュールが頷くと、兵士らは機敏な所作で元の姿勢に戻る。彼らは表情こそ変えなかったが、わかりやすい好奇の視線をカイトに注いでいた。背が高く頑強な体つきの兵士の目に些か以上の威圧感を覚え、カイトは小さく肩を竦ませた。
緊張するカイトをよそに、デュールは扉をノックする。
「デュールです。例の男を連れて参りました」
「入れ」
扉の奥から聞こえてきた声に、カイトはぎょっとした。
あの女将軍の声だ。剣を突きつけられた時のことを思い出して、思わず首筋を押さえる。
「失礼します」
扉を開いたデュールが振り返り、カイトに入室を促す。
正直入りたくないが、しょうがない。カイトは渋々デュールの後に続いた。
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