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新たなる目覚め ①
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カイトの意識は、停電から復旧した照明のように突如として覚醒した。
ぼやけた視界。混濁した思考。
それらがはっきりしてくると、喉の渇きが小さな咳を誘い出す。
古ぼけた梁と天井。布団と呼ぶにはあまりにも頼りない布きれ。背中から伝わるベッドの硬さに少しばかりの圧迫感を覚える。
「まだ、生きてる」
思いの外しっかりとした声が出た。今度こそ間違いなく死んだと思ったが、どうにも死神にはひどく嫌われているらしい。
彷徨う視界に映るのは年季の入った木造の壁。大きな窓からは清々しい日光が差し込んでいる。
「ここは……」
広々とした部屋には何十ものベッドが等間隔で並んでおり、負傷した男達でいっぱいだった。包帯でぐるぐる巻きにされた者。呻き声を漏らす者。ぼうっと天井を眺めている者。怪我の話題で談笑している者。年齢も、負傷の度合いも様々だ。
「気がついたか」
足元で声。
目を向けると、浅黒い肌をした長身の青年が太い腕を組んでカイトを見下ろしていた。
「調子はどうだ。どこか痛んだり、違和感があったりするか?」
尋ねられて、カイトは自分の身体に意識を向ける。
多少の倦怠感はあるが、別段気になる部位はない。指先はちゃんと動くし、握力もしっかりある。視覚や聴覚もはっきりとしていて、むしろ好調とさえいえた。
体を起こしてみる。背中に多少の痛みを感じたのは、硬いベッドで寝ていたせいだ。白い貫頭衣に包まれた五体は、出血も打撲もなくきれいな状態である。
それを鋭い目つきで確認した青年は、カイトの呆けた顔を見て吐息を漏らした。
「傷痕もなく元通りとは。この目で見ても、にわかには信じられないな」
カイトは何度か部屋を見渡して、ようやく状況を理解した。
頭が働くようになってくると、森の中での記憶が徐々に蘇る。
魔獣の咆哮。兵士達の死に様。初めて握った剣の重みと、戦いの恐怖、痛み、高揚。
そして、ソーニャとの交わりと、全身が砕け散る感覚。
夢じゃない。甘美な快感も、おぞましい激痛も、確かに体が覚えている。
思わず自分を抱きしめる。体の芯が凍り付き、力んだ全身が小刻みに震えていた。
「いま君が感じているのは、生き残った者の特権だ。余すことなく味わっておけ」
青年はカイトから目を逸らし、部屋の負傷者たちを見渡す。
「じきに慣れる」
そんな言葉は耳に届かない。
束の間の睡眠は、カイトに普段の感性を取り戻させていた。現代日本における男子高校生の常識的な精神は、無慈悲な殺し合いを目の当たりにして平静を保てるほど強くない。
「俺は」
カイトは極度の興奮状態にあった。奇声をあげたり暴れたりには至らずとも、呼気は乱れ目は虚空を泳いでいる。
同時に、自分の中に冷静な部分があることもまた自覚していた。すんでのところで心を支えているのは、妹との約束を守ったという自負、矜持であった。
負けてしまった。死にかけもした。
けれど逃げなかった。勇気を振り絞り、敵に立ち向かった。
「ああそうだ。俺は、ちゃんと戦った」
今のカイトにとっては、自身の行動だけが確固たる誇りであった。
やがて震えは収まり、呼吸も整ってくる。
深呼吸を一つ。カイトは傍らの青年を見上げた。
ぼやけた視界。混濁した思考。
それらがはっきりしてくると、喉の渇きが小さな咳を誘い出す。
古ぼけた梁と天井。布団と呼ぶにはあまりにも頼りない布きれ。背中から伝わるベッドの硬さに少しばかりの圧迫感を覚える。
「まだ、生きてる」
思いの外しっかりとした声が出た。今度こそ間違いなく死んだと思ったが、どうにも死神にはひどく嫌われているらしい。
彷徨う視界に映るのは年季の入った木造の壁。大きな窓からは清々しい日光が差し込んでいる。
「ここは……」
広々とした部屋には何十ものベッドが等間隔で並んでおり、負傷した男達でいっぱいだった。包帯でぐるぐる巻きにされた者。呻き声を漏らす者。ぼうっと天井を眺めている者。怪我の話題で談笑している者。年齢も、負傷の度合いも様々だ。
「気がついたか」
足元で声。
目を向けると、浅黒い肌をした長身の青年が太い腕を組んでカイトを見下ろしていた。
「調子はどうだ。どこか痛んだり、違和感があったりするか?」
尋ねられて、カイトは自分の身体に意識を向ける。
多少の倦怠感はあるが、別段気になる部位はない。指先はちゃんと動くし、握力もしっかりある。視覚や聴覚もはっきりとしていて、むしろ好調とさえいえた。
体を起こしてみる。背中に多少の痛みを感じたのは、硬いベッドで寝ていたせいだ。白い貫頭衣に包まれた五体は、出血も打撲もなくきれいな状態である。
それを鋭い目つきで確認した青年は、カイトの呆けた顔を見て吐息を漏らした。
「傷痕もなく元通りとは。この目で見ても、にわかには信じられないな」
カイトは何度か部屋を見渡して、ようやく状況を理解した。
頭が働くようになってくると、森の中での記憶が徐々に蘇る。
魔獣の咆哮。兵士達の死に様。初めて握った剣の重みと、戦いの恐怖、痛み、高揚。
そして、ソーニャとの交わりと、全身が砕け散る感覚。
夢じゃない。甘美な快感も、おぞましい激痛も、確かに体が覚えている。
思わず自分を抱きしめる。体の芯が凍り付き、力んだ全身が小刻みに震えていた。
「いま君が感じているのは、生き残った者の特権だ。余すことなく味わっておけ」
青年はカイトから目を逸らし、部屋の負傷者たちを見渡す。
「じきに慣れる」
そんな言葉は耳に届かない。
束の間の睡眠は、カイトに普段の感性を取り戻させていた。現代日本における男子高校生の常識的な精神は、無慈悲な殺し合いを目の当たりにして平静を保てるほど強くない。
「俺は」
カイトは極度の興奮状態にあった。奇声をあげたり暴れたりには至らずとも、呼気は乱れ目は虚空を泳いでいる。
同時に、自分の中に冷静な部分があることもまた自覚していた。すんでのところで心を支えているのは、妹との約束を守ったという自負、矜持であった。
負けてしまった。死にかけもした。
けれど逃げなかった。勇気を振り絞り、敵に立ち向かった。
「ああそうだ。俺は、ちゃんと戦った」
今のカイトにとっては、自身の行動だけが確固たる誇りであった。
やがて震えは収まり、呼吸も整ってくる。
深呼吸を一つ。カイトは傍らの青年を見上げた。
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