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決意 ①
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剣を握っていた。
大地を駆けていた。
カイトの口から勇敢とはほど遠い雄叫びが轟く。血走らせた目には涙が溜まっていた。
「うぉらぁっ!」
若い兵士に噛みつく二匹の獣。そのうちの一匹が晒したがら空きの横っ腹を、助走をのせて力一杯蹴り上げる。土嚢を蹴ったみたいだ。悲鳴をあげる脚を叱咤し、歯を食いしばって獣を引き剥がす。
すぐさまもう一方の首根っこを掴むと、その首筋にショートソードの切っ先をぶち込んだ。固い土を突き刺したような手応え。赤い目がカイトを捉え、何度か明滅し、やがて光を失う。魔獣の顎から力が抜け、兵士の鎧に食い込んでいた牙が離れる。
脅威を感じたのだろうか。蹴り飛ばされた獣の標的は、カイトに移ったようだ。
足を使い、魔獣の亡骸から力任せに剣を引き抜いて、迫り来る敵に備える。
「来やがれクソがぁ!」
もうどうにでもなれ。
ほとんど捨て身の踏み込みで、カイトは剣を振り下ろす。タイミングよく飛び込んできた獣の頭部に直撃したのは、紛れもなく僥倖だった。だが勢いを殺すには至らない。体当たりをもろに受け、カイトは大きく後ろに吹き飛ばされた。
地面を転々とし、やっと止まったところで、激しく咳き込んでしまう。問題ない。土煙を吸い込んだだけだ。
頭部に剣を食い込ませた魔獣はもう動かない。この獣に生命という概念があるかは分からないが、活動を停止しているのは確かだった。
「重てぇな!」
獣を跳ね除けて立ち上がる。呆気にとられる若い兵士に歩み寄ると、土で汚れた手を差し伸べた。
「立てるか?」
「あ……」
カイトを見上げる栗色の瞳が、いっぱいの涙で潤んでいた。
「ほら。早く立て」
この子のことを思えば、ゆっくりと待ってやりたいのはやまやまだ。だが状況がそれを許さない。未だ魔獣は健在で、二人の兵士が必死に戦っている。
痺れを切らしたカイトは、腕を掴んで強引に引っ張り上げる。立ち上がった兵士のズボンには染みができていた。恐怖で失禁したのだろう。無理もない。若い兵士は頬を染めて染みを押さえて俯いた。
「恥ずかしがってる場合かよ。さっさと逃げろ」
「え? あ、あの……!」
背を向けたカイトに投げかけられたのは、不安げに震えるか細い声だった。
「どう、するんですか?」
「決まってるだろ」
転がっていた剣を取るカイトの声に、もう迷いはない。
「戦うんだ」
他でもない妹との約束だから。
残り数匹の魔獣を、二人の兵士が相手取っている。彼らは半ば狂乱状態であったが、辛うじてまともな戦いを展開していた。おそらくは歴戦の兵士達なのだろう。お互いを上手くフォローしている。だが、それも長くは続くまい。兵士達に比べ、魔獣の動きは格段に素早く力強い。
カイトは動き回る魔獣の中から比較的動きの遅いものに目を付けた。無防備に近付きその首筋に剣を突き立てると、魔獣はびくりと身体を震わせて動かなくなる。
まずはひとつ。
大地を駆けていた。
カイトの口から勇敢とはほど遠い雄叫びが轟く。血走らせた目には涙が溜まっていた。
「うぉらぁっ!」
若い兵士に噛みつく二匹の獣。そのうちの一匹が晒したがら空きの横っ腹を、助走をのせて力一杯蹴り上げる。土嚢を蹴ったみたいだ。悲鳴をあげる脚を叱咤し、歯を食いしばって獣を引き剥がす。
すぐさまもう一方の首根っこを掴むと、その首筋にショートソードの切っ先をぶち込んだ。固い土を突き刺したような手応え。赤い目がカイトを捉え、何度か明滅し、やがて光を失う。魔獣の顎から力が抜け、兵士の鎧に食い込んでいた牙が離れる。
脅威を感じたのだろうか。蹴り飛ばされた獣の標的は、カイトに移ったようだ。
足を使い、魔獣の亡骸から力任せに剣を引き抜いて、迫り来る敵に備える。
「来やがれクソがぁ!」
もうどうにでもなれ。
ほとんど捨て身の踏み込みで、カイトは剣を振り下ろす。タイミングよく飛び込んできた獣の頭部に直撃したのは、紛れもなく僥倖だった。だが勢いを殺すには至らない。体当たりをもろに受け、カイトは大きく後ろに吹き飛ばされた。
地面を転々とし、やっと止まったところで、激しく咳き込んでしまう。問題ない。土煙を吸い込んだだけだ。
頭部に剣を食い込ませた魔獣はもう動かない。この獣に生命という概念があるかは分からないが、活動を停止しているのは確かだった。
「重てぇな!」
獣を跳ね除けて立ち上がる。呆気にとられる若い兵士に歩み寄ると、土で汚れた手を差し伸べた。
「立てるか?」
「あ……」
カイトを見上げる栗色の瞳が、いっぱいの涙で潤んでいた。
「ほら。早く立て」
この子のことを思えば、ゆっくりと待ってやりたいのはやまやまだ。だが状況がそれを許さない。未だ魔獣は健在で、二人の兵士が必死に戦っている。
痺れを切らしたカイトは、腕を掴んで強引に引っ張り上げる。立ち上がった兵士のズボンには染みができていた。恐怖で失禁したのだろう。無理もない。若い兵士は頬を染めて染みを押さえて俯いた。
「恥ずかしがってる場合かよ。さっさと逃げろ」
「え? あ、あの……!」
背を向けたカイトに投げかけられたのは、不安げに震えるか細い声だった。
「どう、するんですか?」
「決まってるだろ」
転がっていた剣を取るカイトの声に、もう迷いはない。
「戦うんだ」
他でもない妹との約束だから。
残り数匹の魔獣を、二人の兵士が相手取っている。彼らは半ば狂乱状態であったが、辛うじてまともな戦いを展開していた。おそらくは歴戦の兵士達なのだろう。お互いを上手くフォローしている。だが、それも長くは続くまい。兵士達に比べ、魔獣の動きは格段に素早く力強い。
カイトは動き回る魔獣の中から比較的動きの遅いものに目を付けた。無防備に近付きその首筋に剣を突き立てると、魔獣はびくりと身体を震わせて動かなくなる。
まずはひとつ。
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