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剣
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残された三人の兵士達は雄叫びをあげ、必死に武器を振るう。勇敢に戦っていると言えば聞こえはいいが、それは単なる行動爆発に過ぎない。彼らの顔は恐怖に塗れ、絶望に染まっていた。
「そーそー。最後まで諦めちゃだめ。頑張れば勝てるかもしれないんだから」
楽しそうに笑うソーニャの傍ら、カイトは呆然自失として動くこともできない。
間もなくカイトの近くに、兵士が一人転がり込んできた。
「くるな! くるなぁ!」
小さな体で闇雲に剣を振り回し、接近する獣を追い払おうとする。カイトよりも幾分か若い兵士だった。
「子ども……?」
体格からして十歳そこそこ。現代日本では小学生高学年くらいの年齢だろう。
そんな馬鹿な。許されることじゃない。こんな歳の子まで戦争に駆り出されているというのか。
カイトは驚きにも増して暗い感情を抱く。怒りや嘆きではない。それは焦燥であり、強烈な罪悪感であった。
「このぉっ!」
革鎧を纏った年若い兵士は、転んだ体勢のまま剣を振り上げる。そこに生まれた僅かな隙をついて、獣の牙が襲い掛かった。腕に噛みつかれ、圧し掛かられ、身動きが取れなくなる。兵士の手から放り出された剣が、カイトの足下に突き立った。柔らかい土が鈍い音を鳴らす。一瞬にして二匹の獣の下敷きとされた若い兵士は、絶叫と共に四肢を暴れさせた。
「ああ、なんて可哀想なのかしら。人間ってほんとひどい生き物。いやになっちゃう。こんな小さな子に武器を持たせて、あたし達に殺させるなんて」
演技がかったソーニャの声に、カイトは反応しない。彼の視線は足元の剣に固定されて動かなかった。
「ちょっと聞いてる? ねぇ」
剣。それはカイトにとって象徴であった。
冒険。異世界。非日常。成功と実現の象徴だ。
つい数日前までのカイトは、一振りの剣に思いを馳せ、強き自分を夢に見ていた。
「ふぅん? その剣、取らないのー?」
そうだ。
いま手を伸ばせば、あんなにも憧れた剣を握ることができる。
けど。
それでどうする?
確信がある。この剣を取れば、もう後戻りはできない。戦う力を手にしてしまえば、誰にも、自分にさえ、言い訳は通用しないから。
「あはっ。見てるだけなんだ。あなたも結構いじわるなのね」
馬鹿を言うな。
こんな棒切れ一本で、いったい何ができるんだ。
助けてほしいのはこっちの方だ。死にそうな目に遭っているのはこいつらだけじゃない。
「俺を殺そうとした奴らのことなんか――」
口をついて出た言葉は、ぐちゃぐちゃになったカイトの心を如実に表していた。
二匹の獣に組み敷かれた若い兵士に、もはや為す術はない。
革鎧は無惨に喰い千切られ、他の兵士と同じ末路を辿らんとしている。
無力な自分は、それを黙って見ていることしかできない。
「あ」
カイトの心に激痛が走る。
若い兵士はもはや抵抗することさえ許されなかった。残された最後の道は、他者に縋ることだけ。故にカイトと目が合ってしまったのは、避けえぬ必然であったのだ。
「たすけてっ……」
カイトは息を呑む。
涙を溜めた栗色の瞳が、妹の面影と重なった。
「そーそー。最後まで諦めちゃだめ。頑張れば勝てるかもしれないんだから」
楽しそうに笑うソーニャの傍ら、カイトは呆然自失として動くこともできない。
間もなくカイトの近くに、兵士が一人転がり込んできた。
「くるな! くるなぁ!」
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「子ども……?」
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「ちょっと聞いてる? ねぇ」
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「ふぅん? その剣、取らないのー?」
そうだ。
いま手を伸ばせば、あんなにも憧れた剣を握ることができる。
けど。
それでどうする?
確信がある。この剣を取れば、もう後戻りはできない。戦う力を手にしてしまえば、誰にも、自分にさえ、言い訳は通用しないから。
「あはっ。見てるだけなんだ。あなたも結構いじわるなのね」
馬鹿を言うな。
こんな棒切れ一本で、いったい何ができるんだ。
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無力な自分は、それを黙って見ていることしかできない。
「あ」
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若い兵士はもはや抵抗することさえ許されなかった。残された最後の道は、他者に縋ることだけ。故にカイトと目が合ってしまったのは、避けえぬ必然であったのだ。
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カイトは息を呑む。
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