異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ

文字の大きさ
上 下
26 / 152

目覚めた後の悪夢 ②

しおりを挟む
「貴様が……貴様のせいでぇっ!」

 若い兵士が踏み込み、手槍の一撃を放つ。
 カイトがそれを避けたのはまさに僥倖であった。慌てて飛びのこうとした拍子に足を滑らせて転び、結果的に頬を掠めるのみで済んだのだ。

 急加速する鼓動。捕らえろと言っておきながら、彼の刺突は殺意に満ちていた。とてもじゃないが話が通じる様子じゃない。

「くっそ!」

 カイトに残された選択肢は逃走だけだった。飛び起きながら踵を返し、再び森の中を疾走する。

「追え、追え! 絶対に逃がすな!」

 草木をかき分けて走り続ける。重たい装備を纏う兵士達に対し、カイトの装いは学生服のみ。障害物が多く起伏の激しい地形は、軽装のカイトに有利に働いた。
 とはいえ、背後で鳴り止まない鎧の音が言い知れぬ恐怖を煽る。疲れ切った脚に鞭を打ち、一心不乱に駆けるしかなかった。

 勘違いから始まる物語は多くある。だが、こんな展開は不幸にも程があるだろう。こうなったらお望み通り魔族側についてやろうか。そうした方が楽なんじゃないか。
 そんなカイトの思考を察したかのように、前方に動く物体が現れる。
 漆黒の獣が十匹余り。それらは木々の隙間を縫うようにしてこちらに急接近しており、瞬く間に距離を詰めてくる。

「冗談だろ……?」

 こんな時は陳腐な言葉しか出てこない。

 前には魔獣。後ろには兵士。
 このまま走り続けるべきか、それとも止まるべきか。
 悠長に迷っている暇はなかった。瞬く間に肉薄した十数の獣が、カイトの傍らを駆け抜けていった。

「うおっ」

 至近を通過した獣の圧力で、カイトは派手に転倒した。大地を転がってからやっと停止し、体を起こして振り返る。
 漆黒の獣はカイトに見向きもせず、後ろの兵士に襲い掛かっていた。

「くそっ! 戦闘態勢!」

「数が多い! 連携するんだ!」

 兵士達が荒い声を飛ばす。彼らは武器を握り獣達に応戦するが、そもそも疲弊した身でまともに戦える状態ではなかった。二、三の獣を排するも、劣勢は揺るがない。
 一人が負傷し、二人が倒れ、徐々に敗北へと押しやられる。

 カイトは突発した戦闘から目が離せなかった。どうすればいいかわからない。何が出来るかわからない。逃げようにも体が動いてくれない。

「あらぁ? あなた、まだこんなとこにいたの」

 カイトの体に影が落ちる。降ってきた声には聞き覚えがあった。

「あはっ。敵をおびき出してくれたんだ? 意外とお利口さんなのね」

 艶やかな銀髪と、血の瞳。黒一色で染まったフリルのドレス。
 ソーニャ・コワールが、巨人の肩の上で無邪気な笑みを浮かべていた。

「おかげで手間が省けちゃった」

 巨人の大きな手に握られた人間を見て、カイトは喉をひきつらせた。
 馬鹿みたいに太い指の間から、破損した白い鎧が見え隠れしている。垂れ下がった金髪は土で汚れ、元来の美しさなど微塵も残っていなかった。間違いなくクディカである。生きているのか、死んでいるのか。彼女はぴくりとも動かない。
 巨人の手からは血が滴っており、独特の鉄臭さがカイトの鼻をついた。

「ほら見て。あの子達、あんなにはしゃいじゃって。獲物を見つけたのがホントに嬉しいみたい」

 ソーニャが見つめる先にあるのは、一方的な蹂躙だ。
 気付けば、すでに兵士は半数まで減っていた。重なり合う三つの断末魔は、肉の食い千切られる音の中に消えていく。獣に群がられた兵士から飛び散る夥しい鮮血。湿った土の上で嵩を増す血だまりに、引き剥がされた装備と肉片が沈む。

 カイトの中に激しい嘔吐感が湧いて出た。胃がせり上がり、しかし吐き出す物は何もない。口から出るのは咳と唾液、そして不快の呻きだけ。

「もー! きたないわねぇ」

 ソーニャは唇を尖らせて頬杖をつく。

「品のない男は嫌いよ。まったく」

 兵士の虐殺現場に目を向けて、彼女は目尻を下げ口角を吊り上げる。まるで動物同士の和やかな戯れを見る眼差しだ。

 狂っている。それがカイトの率直な思いだった。
 魔族とは。戦争とは。こんなにも恐ろしいものなのか。
 慈悲も躊躇いもない。文字通りの地獄じゃないか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【コピペ】を授かった俺は異世界で最強。必要な物はコピペで好きなだけ増やし、敵の攻撃はカットで防ぐ。え?倒した相手のスキルももらえるんですか?

黄舞
ファンタジー
 パソコンが出来ない上司のせいでコピーアンドペースト(コピペ)を教える毎日だった俺は、トラックに跳ねられて死んでしまった。 「いつになったらコピペ使えるようになるんだ―!!」  が俺の最後の言葉だった。 「あなたの願い叶えました。それでは次の人生を楽しんでください」  そういう女神が俺に与えたスキルは【コピペ(カット機能付き)】  思わぬ事態に最初は戸惑っていた俺だが、そのスキルの有用性に気付き、いつのまにやら異世界で最強の存在になっていた。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...