異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ

文字の大きさ
上 下
24 / 152

ティミドゥス公 ②

しおりを挟む
「くそっ! まさか公爵があれほどまで愚かだったとは」

 執務室の外。城の回廊では、デュールが忌々しげな声を絞り出していた。

「言葉を慎んでくださいデュール殿。どこに耳があるか分かりません」

 肩を並べて歩くリーティアが、凛とした声で戒める。
 勃然としたデュールとは対照的に、リーティアはあくまでも平静を保っていた。

「フューディメイム卿、あなたは口惜しくないのですか!」

「お気持ちはわかります。けれど怒りに囚われていては、真にやるべきことを見失ってしまいますよ」

 紛れもない正論。しかし彼はどうにも納得がいかなかった。
 モルディック砦に配備されてから数か月。クディカの下で必死に戦った。戦術を練り、兵を統率し、士気を保ち、戦場に出れば血と汗を流し泥まみれになって剣を振った。兵士達も同じく、国と民を守るために命を賭けたのだ。
 それなのにどうしてこんな仕打ちを受けねばならないのか。それも、安全な後方でふんぞり返っているだけの貴族などに。

「デュール殿。あなたの怒りを否定するわけではありません。怒りとは感情です。正しいも間違いもない。重要なのは、その感情を価値あるものにできるかどうか。たとえ苦い感情であっても、正しき行動の原動力となればよいのです」

 その言葉を聞いた時、デュールは自身の胸に燃えていた憤怒の炎が幾許か弱まるのを感じた。わかったようなわからないような微妙な気分ではあったが、リーティアの発言には確かな前進の意志があったからだ。

「仰る通りです。どうやら自分は、まだまだ精進が足りぬようだ」

 俯いて自省するデュールに、リーティアは仄かな微笑みで応えた。

「さぁ、参りましょう。ティミドゥス公を頼れない以上、たとえ心なくとも我々だけでクディカを助け出す他ありません」

 デルニエールに帰還できた兵士は数十。これだけでも少ないが、帰還できた者の大半は心身のいずれか、あるいは両方に浅くない傷を負っており、まともに動ける者となると僅か二十に満たないという事態であった。

「しかし、どのように? たった二十騎では、捜索さえ不可能なのでは」

「何か策を考えます。デュール殿は動ける兵を纏め、出立の準備に取り掛かって下さい」

「は。急ぎます」

 二人は足早に城を後にする。もうここに用はない。デュールは部隊の駐屯地へ。リーティアはデルニエールに住む知人のもとに向かっていった。

 この時、リーティアにはひとつ気懸かりなことがあった。
 カイト・イセである。
 こちらの都合で投獄してしまったという負い目。また、マナ中毒になっていないかという心配。どちらもリーティアの心から離れなかった。
 生きているかどうかも定かではない。だが仮に生きているとすれば、今頃どのような目に遭っているのか。考えるだけで胸が痛んだ。

 彼女の抱える問題は多かった。クディカの救出。部隊の管理。砦を失ったことでデルニエールを危険に晒してしまった憂い。王への報告を思うと気が重く、戦死した兵の遺族に対しても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「負けてはだめ。勇気を出しなさい、リーティア」

 自らを叱咤するように、彼女は小さく、力強く呟いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【コピペ】を授かった俺は異世界で最強。必要な物はコピペで好きなだけ増やし、敵の攻撃はカットで防ぐ。え?倒した相手のスキルももらえるんですか?

黄舞
ファンタジー
 パソコンが出来ない上司のせいでコピーアンドペースト(コピペ)を教える毎日だった俺は、トラックに跳ねられて死んでしまった。 「いつになったらコピペ使えるようになるんだ―!!」  が俺の最後の言葉だった。 「あなたの願い叶えました。それでは次の人生を楽しんでください」  そういう女神が俺に与えたスキルは【コピペ(カット機能付き)】  思わぬ事態に最初は戸惑っていた俺だが、そのスキルの有用性に気付き、いつのまにやら異世界で最強の存在になっていた。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...