20 / 152
幕間 一
しおりを挟む
いつのことだったか。
灰一色の大地の上で、カイトは退屈そうに胡坐をかいていた。
すぐ前で少女が正座を組み、カイトをじっと見つめている。
頭上には澄み渡るような青空が広がっていた。雲はまだない。
「空か」
「空」
記憶の中にある空と、何ら変わらぬ晴天だ。大きく息を吸ってみると、匂いもないのに郷愁を感じずにいられない。
少女も天を仰いでいた。彼女はどことなく微笑んでいるような、やっぱり変わらず無表情のような。とにかく、カイトには判断しかねる微妙な面持ちである。
「そういえば、女神様」
「なに?」
「あんたって名前あるの?」
しばらく共に過ごしてきたが、名前を尋ねるのはこれが初めてだ。
「いつまでも女神様じゃ、不便っていうか。なんか、距離感がわかり辛いんだよな」
少女は膝の上に両手を置いたまま微動だにせず、闇色の瞳を何度か瞬きさせた。
今ならばわかる。彼女がこういった仕草をする時は、何か思案を巡らせているのだ。名前を訊かれたことは、彼女にとっても想定外の出来事だったのだろう。
「好きに呼んでかまわない」
しばらくの沈黙の後、少女は普段と同じ声調で呟いた。
「好きにったって」
「名前なんて必要なかったから」
「そうだろうけどさ」
ぶっきらぼうに言いながら、カイトはなんとなく嬉しい気分になっていた。
二人きりの世界ではカイトだけが少女の名を呼ぶ。それはつまり、名付けを委ねられたことを意味している。そして、彼女の名を独り占めにできるということでもある。
「ちょっと、考えとく」
カイトはその決断を後回しにした。日和ったわけではない。名前をつけるという行為には、不可侵で聖なる意義があると、そう思うのだ。
今はまず、目の前のやるべきことに集中しよう。
この世界と、真摯に向き合うことを決めたのだから。
灰一色の大地の上で、カイトは退屈そうに胡坐をかいていた。
すぐ前で少女が正座を組み、カイトをじっと見つめている。
頭上には澄み渡るような青空が広がっていた。雲はまだない。
「空か」
「空」
記憶の中にある空と、何ら変わらぬ晴天だ。大きく息を吸ってみると、匂いもないのに郷愁を感じずにいられない。
少女も天を仰いでいた。彼女はどことなく微笑んでいるような、やっぱり変わらず無表情のような。とにかく、カイトには判断しかねる微妙な面持ちである。
「そういえば、女神様」
「なに?」
「あんたって名前あるの?」
しばらく共に過ごしてきたが、名前を尋ねるのはこれが初めてだ。
「いつまでも女神様じゃ、不便っていうか。なんか、距離感がわかり辛いんだよな」
少女は膝の上に両手を置いたまま微動だにせず、闇色の瞳を何度か瞬きさせた。
今ならばわかる。彼女がこういった仕草をする時は、何か思案を巡らせているのだ。名前を訊かれたことは、彼女にとっても想定外の出来事だったのだろう。
「好きに呼んでかまわない」
しばらくの沈黙の後、少女は普段と同じ声調で呟いた。
「好きにったって」
「名前なんて必要なかったから」
「そうだろうけどさ」
ぶっきらぼうに言いながら、カイトはなんとなく嬉しい気分になっていた。
二人きりの世界ではカイトだけが少女の名を呼ぶ。それはつまり、名付けを委ねられたことを意味している。そして、彼女の名を独り占めにできるということでもある。
「ちょっと、考えとく」
カイトはその決断を後回しにした。日和ったわけではない。名前をつけるという行為には、不可侵で聖なる意義があると、そう思うのだ。
今はまず、目の前のやるべきことに集中しよう。
この世界と、真摯に向き合うことを決めたのだから。
10
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる