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サバゲー女子は勝ちにこだわる
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そうと決まれば話は早い。
私は迷う暇もなく駆け出した。フィールドの外周をぐるりと回り込みながら、敵チーム最後の一人を探す。
そこまで広くないCQBフィールドだからか、目標はすぐに見つかった。
バリケードの隙間から中央広場を窺うのは、私と同年代の女子だ。彼女は朝のブリーフィングで、今日がサバゲーデビュー当日だと言っていた。高校のジャージにタクティカルベルトだけを装備した、いかにもな初心者である。大人しそうな見た目で、サバゲーなんかするような子には見えないけど、一人でやってきたところを見るにやる気はあるんだろう。
あの子だけには絶対に負けない、と対抗心を燃やしていだが、今はもうそんなのどうだっていい。今日は楽しかったと、あの子を含めみんながそう言えるゲームにすることが、今の私が一番やりたいことだから。
向こうはまだこちらに気付いていないし、距離も近い。今撃てば確実にヒットが取れるだろう。けれど、そんな味気ない終わり方は、ラストゲームに相応しくない。
「銃を下ろして広場に出てきなさい!」
自分でも驚くくらい大きな、嬉しそうな声が出た。ゆっくりと広場に歩み出た私に、相手も気付いたようだ。
「正々堂々、一騎討ちで決めようじゃない」
我ながらどうしてこんなことをしているのかさっぱりわからない。けれど、面白そうだからいいんだ。半分は本気。もう半分は、いわゆる悪ふざけみたいなものだった。
相手の子は、バリケードの陰から何度かこちらを窺っていたが、やがておずおずと広場に出てきてくれた。彼女が手にしているのは、グロック17C。
内心、胸を撫で下ろす。実のところ問答無用で撃たれたらどうしようかと思っていた。
広場の中心。五メートルほどの距離を空けて、私達は対峙した。
二人の間に、心地よい緊張感が満ちる。
私はMC51を足元にそっと置き、店長に託されたレッグホルスターをぽんと叩いてみせた。
「早撃ち勝負よ。私が帽子を投げるから、それが地面に落ちたらお互いに拳銃を抜いて一発だけ撃つ。オーケー?」
彼女は無表情でコクリと頷くと、腰のホルスターにグロックを収納した。
本日最後を飾るのは、西部劇チックな決闘となった。この様子は、セーフティにあるモニターにも映し出されているだろう。ヒットされたみんなも、この状況を楽しんでくれているだろうか。
「ゲーム終了、一分前!」
フィールドに響く声。
さぁ、雌雄を決する時だ。
私はタクティカルキャップの鍔を掴むと、広場の中心めがけて投げ込んだ。
くるくると回転しながら緩い放物線を描いて飛んだ帽子は、少しだけ風に流されて、音もなく地面に落下する。
動き出しは私が速かった。テニスで鍛えた身体能力と反射神経は衰えていない。レッグホルスターからM45A1をドローし、片手のまま狙いを定める。
相手はまだホルスターからグロックを抜いたところだ。動きは正確だけどスピードはない。
M45A1のサイトは、相手の顔面を正確に捉えている。
勝った。私は確信する。このままトリガーを引けば当たる。セーフティだってかかってない。この距離なら多少の手ブレも許容範囲だ。
「っ!」
人指し指に力を入れた瞬間、その確信は見事に反転した。
サイトに重なっていた相手の頭が消え、私は目標を見失った状態で発砲してしまう。強烈なリコイルを感じた直後、腹部に鋭い衝撃が走った。
「あ……当たった……」
膝をつき、両手でしっかりとグロックを構えた状態で静止する相手の姿。
私は、敗北を悟る。
「ヒットーっ!」
負けた。完敗だ。
でもまさか、こんな清々しい気持ちでヒットコールを言うことになるなんて。
「しゅーりょー! ゲーム終了です!」
終戦を告げる声が響き渡り、本日のラストゲームは幕を閉じた。
私は膝をついたままの相手に歩み寄り、手を差し出す。
「お疲れ様。いい腕ね」
「あ、ありがとう」
私を手を取った彼女は、立ち上がってはにかんだ。
「私、栞っていうの。あなたは?」
「あたしは、マコトです」
「マコト。いい名前ね」
図らずも握手をする形となった私達は、どちらからともなく笑い出す。
「ありがとう、栞」
二人の間には奇妙な友情が生まれていた。と、思う。少なくとも私は、そう信じたい。
「初めてとれたヒットが、こんな素敵な勝負だなんて。きっと、忘れられない思い出になります」
マコトの嬉しそうな表情を見ていると、それもあながち間違いじゃないはずだ。
セーフティに戻った私達を迎えたのは、盛大な拍手だった。プレイヤーもスタッフも、皆が私達の健闘を称えてくれていた。
「いい勝負だった!」
「まさかあんな早撃ち勝負が見られるなんてなー」
「やるじゃん栞!」
私はマコトを顔を見合わせて、思わず苦笑した。ここまで注目されると、なんだか急に恥ずかしくなってくる。
ふと、佐々木店長と目が合った。彼女は穏やかに笑って、一度だけ小さく頷いた。
店長が言った言葉の意味。ようやく理解できた気がする。
サバゲーは勝負だ。勝って喜んだり、負けて悔しがったりしながら、それでも最後は笑って楽しかったと言えるかどうか。戦って、協力して、みんなの笑顔を勝ち取れるかどうかの勝負なんだ。
それができたなら、サバゲーに敗者なんていない。全員が全員、一人残らず勝者になれる。
それはたぶん、サバゲーに限ったことじゃないんだと思う。
見失っていたなにより大切なもの。私が気付けなかっただけで、きっと全部、同じなんだ。
だから私はこれからも、徹底的に勝ちにこだわる。
何をもって勝利とするのか。
その確かな答えを、サバゲーが教えてくれたから。
私は迷う暇もなく駆け出した。フィールドの外周をぐるりと回り込みながら、敵チーム最後の一人を探す。
そこまで広くないCQBフィールドだからか、目標はすぐに見つかった。
バリケードの隙間から中央広場を窺うのは、私と同年代の女子だ。彼女は朝のブリーフィングで、今日がサバゲーデビュー当日だと言っていた。高校のジャージにタクティカルベルトだけを装備した、いかにもな初心者である。大人しそうな見た目で、サバゲーなんかするような子には見えないけど、一人でやってきたところを見るにやる気はあるんだろう。
あの子だけには絶対に負けない、と対抗心を燃やしていだが、今はもうそんなのどうだっていい。今日は楽しかったと、あの子を含めみんながそう言えるゲームにすることが、今の私が一番やりたいことだから。
向こうはまだこちらに気付いていないし、距離も近い。今撃てば確実にヒットが取れるだろう。けれど、そんな味気ない終わり方は、ラストゲームに相応しくない。
「銃を下ろして広場に出てきなさい!」
自分でも驚くくらい大きな、嬉しそうな声が出た。ゆっくりと広場に歩み出た私に、相手も気付いたようだ。
「正々堂々、一騎討ちで決めようじゃない」
我ながらどうしてこんなことをしているのかさっぱりわからない。けれど、面白そうだからいいんだ。半分は本気。もう半分は、いわゆる悪ふざけみたいなものだった。
相手の子は、バリケードの陰から何度かこちらを窺っていたが、やがておずおずと広場に出てきてくれた。彼女が手にしているのは、グロック17C。
内心、胸を撫で下ろす。実のところ問答無用で撃たれたらどうしようかと思っていた。
広場の中心。五メートルほどの距離を空けて、私達は対峙した。
二人の間に、心地よい緊張感が満ちる。
私はMC51を足元にそっと置き、店長に託されたレッグホルスターをぽんと叩いてみせた。
「早撃ち勝負よ。私が帽子を投げるから、それが地面に落ちたらお互いに拳銃を抜いて一発だけ撃つ。オーケー?」
彼女は無表情でコクリと頷くと、腰のホルスターにグロックを収納した。
本日最後を飾るのは、西部劇チックな決闘となった。この様子は、セーフティにあるモニターにも映し出されているだろう。ヒットされたみんなも、この状況を楽しんでくれているだろうか。
「ゲーム終了、一分前!」
フィールドに響く声。
さぁ、雌雄を決する時だ。
私はタクティカルキャップの鍔を掴むと、広場の中心めがけて投げ込んだ。
くるくると回転しながら緩い放物線を描いて飛んだ帽子は、少しだけ風に流されて、音もなく地面に落下する。
動き出しは私が速かった。テニスで鍛えた身体能力と反射神経は衰えていない。レッグホルスターからM45A1をドローし、片手のまま狙いを定める。
相手はまだホルスターからグロックを抜いたところだ。動きは正確だけどスピードはない。
M45A1のサイトは、相手の顔面を正確に捉えている。
勝った。私は確信する。このままトリガーを引けば当たる。セーフティだってかかってない。この距離なら多少の手ブレも許容範囲だ。
「っ!」
人指し指に力を入れた瞬間、その確信は見事に反転した。
サイトに重なっていた相手の頭が消え、私は目標を見失った状態で発砲してしまう。強烈なリコイルを感じた直後、腹部に鋭い衝撃が走った。
「あ……当たった……」
膝をつき、両手でしっかりとグロックを構えた状態で静止する相手の姿。
私は、敗北を悟る。
「ヒットーっ!」
負けた。完敗だ。
でもまさか、こんな清々しい気持ちでヒットコールを言うことになるなんて。
「しゅーりょー! ゲーム終了です!」
終戦を告げる声が響き渡り、本日のラストゲームは幕を閉じた。
私は膝をついたままの相手に歩み寄り、手を差し出す。
「お疲れ様。いい腕ね」
「あ、ありがとう」
私を手を取った彼女は、立ち上がってはにかんだ。
「私、栞っていうの。あなたは?」
「あたしは、マコトです」
「マコト。いい名前ね」
図らずも握手をする形となった私達は、どちらからともなく笑い出す。
「ありがとう、栞」
二人の間には奇妙な友情が生まれていた。と、思う。少なくとも私は、そう信じたい。
「初めてとれたヒットが、こんな素敵な勝負だなんて。きっと、忘れられない思い出になります」
マコトの嬉しそうな表情を見ていると、それもあながち間違いじゃないはずだ。
セーフティに戻った私達を迎えたのは、盛大な拍手だった。プレイヤーもスタッフも、皆が私達の健闘を称えてくれていた。
「いい勝負だった!」
「まさかあんな早撃ち勝負が見られるなんてなー」
「やるじゃん栞!」
私はマコトを顔を見合わせて、思わず苦笑した。ここまで注目されると、なんだか急に恥ずかしくなってくる。
ふと、佐々木店長と目が合った。彼女は穏やかに笑って、一度だけ小さく頷いた。
店長が言った言葉の意味。ようやく理解できた気がする。
サバゲーは勝負だ。勝って喜んだり、負けて悔しがったりしながら、それでも最後は笑って楽しかったと言えるかどうか。戦って、協力して、みんなの笑顔を勝ち取れるかどうかの勝負なんだ。
それができたなら、サバゲーに敗者なんていない。全員が全員、一人残らず勝者になれる。
それはたぶん、サバゲーに限ったことじゃないんだと思う。
見失っていたなにより大切なもの。私が気付けなかっただけで、きっと全部、同じなんだ。
だから私はこれからも、徹底的に勝ちにこだわる。
何をもって勝利とするのか。
その確かな答えを、サバゲーが教えてくれたから。
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