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いつもピンチの傍に

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「友好的じゃ……なさそうだな」

 明らかに俺に敵意を抱いている。縄張りに入られて怒ってるのか?
 いずれにせよ、戦いは避けられないっぽい。

「お」

 ネコバスが手を振り上げる。
 そして、凄まじい速度のネコパンチを振り下ろした。

「ぐあっ」

 辛うじて防御するが、俺は軽々と弾き飛ばされてしまう。背中から本棚に激突し、上から何十冊もの分厚い書籍が降ってきた。

「なんつー力だよ」

 まともじゃない。正体不明の生命体だ。
 こいつが何者なのか分からない以上〈妙なる祈り〉の力も通用しないし。

「正面から攻略するしかないか」

 体の上に積もった本を払いのけ、立ち上がる。
 俺は改めて剣を構える。

「いくぞ……!」

 床を蹴りつけ前進。
 ネコバスの間合いに入った瞬間に強烈なネコパンチが飛んでくるが、俺はそれを拳で迎え撃った。

 真正面から激突する拳と拳。
 拮抗した力同士のぶつかり合いは、お互いを弾き飛ばす結果となった。
 俺は後方の壁に足をつき、ネコバスは宙で体を回転させながら本棚の上に音もなく着地。

「パワーは互角かよ」

 俺の力に匹敵するなんて、とんでもない猫だな。
 ネコバスは俺の体勢が整うのを待ちはしない。
 巨体に似合わない俊敏な動きで、図書館内を縦横無尽に跳ね回って俺の意識を攪乱してくる。

 なんて速さだ。俺の目でも追いかけるのがやっとだ。
 無作為な機動は俺の予測を外れ、ついにネコバスを見失ってしまう。
 ウソだろ。こんな広い空間で、あんなデカブツを見失うか普通。

「くそっ」

 俺は剣に魔力を集中させて反撃を試みる。
 だが、間に合わない。
 目にも留まらぬネコバスの攻撃が、容赦なく俺を襲った。
 辛うじて見えたのは、鋭利な爪の軌道。致命傷こそ避けたものの、俺の左腕は綺麗にすっぱり斬り落とされてしまっていた。

「まじかよっ……! ファーストエイド!」

 咄嗟に傷口を塞ぎ、出血を止める。
 そんなことをしてる間に、次の攻撃が迫っていた。

 しまった。次は避けられない。
 ネコバスの鋭利な爪が、俺の首を狙っている。
 精神世界とはいえ、肉体を失えば死ぬ。そしてそれは思念の消滅を意味し、存在は完全に消失する。

 ちくしょう。こんなところで死ねるかよ。
 俺は最後の悪あがきをしようと、ありったけの力を総動員する。

 ところが、俺が反撃するよりも先に、ネコバスの前脚がドンッっと爆散した。
 爆風が俺とネコバスを煽る。片方の前脚を失ったネコバスは、車に轢かれた子猫のように叫びながら床を転々としている。

「ロートス! 無事っすかー?」

 頭上から響いたのは、この世のものとは思えないほどの美声。
 こんな状況でも耳が幸せになるほどの麗しい呼び声であった。

 間違いない。この声の主は。
 吹き抜けの天窓をぶち破って目の前に舞い降りたのは、成熟したマルデヒット族の美少女。

「ウィッキー!」

 まったくなんつー登場の仕方だ。
 心躍らせてくれるぜ。
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