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記憶の遠景

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「ご主人様」

 サラが俺の手をぎゅっと握る。温もりを通して、その胸中がはっきりと伝わってきた。

「思い出すよな……あの頃を」

 クラス分け試験の説明をするアデライト先生。
 言い争うエレノアとイキール。
 それを傍観する俺とサラ。
 苦労してメダルを取ってきて、生徒達から注目されたのもここだった。

「すべては、ここから始まった」

 神と運命と世界を巡る長い旅の始まりは、この広場から始まったと言っても過言じゃない。
 思えば色々なことがあった。
 エレノアとアイリスの決闘も、まるで昨日のことのように思い出せる。

 それだけじゃない。王都が親コルト派に襲撃された時、ここは壮絶な戦場になった。
 ファルトゥールの塔が出現し、俺とエレノアは一緒に塔の内部に潜ったり、屋上でヘッケラー機関の刺客達とやり合ったり。

「帰ってきた……って言うのも、変な感じがするけどな」

「あなたがそう思うのなら、それは間違いなく真実」

 この世界を模造品だと言い切ったセレンだが、その瞳の奥にある心は確かに動いているはずだ。そう信じたい。

「感傷に耽るのは後にしろ。いつまた崩壊が始まるかわからないんだぞ」

 サニーが水を差すようなことを言うが、実際そうだから反論はしない。俺達には時間の猶予がない。

「師匠は研究室にいる。こっち」

 セレンが足早に歩き出す。長いスカートと高いヒールで着飾っているにもかかわらず、その足取りは機敏だった。
 セレンを一番に追ったのはサニーだった。その足取りはまるで姫に仕える騎士のよう。グランオーリス国民であるからか、セレンに対する敬意というか、忠誠心のようなものを強く感じた。
 世界が創りかえられた今も国民からの支持を失っていないとは、やはりグランオーリス王家の求心力は凄まじいものがあったのだろう。
 そういえば俺って、セレンに求婚されていたんだったな。ま、あの話は流れたからどうだっていいけど。

「殿下。発言しても?」

「かまわない」

 サニーがセレンに話しかけているのを、俺はすぐ後ろで聞くことにした。

「俺は、前の世界を取り戻したくて仕方ありません。ヴェルタザール出身の男として、父王陛下に憧れて冒険者になったんです。俺の忠誠は、今も王家から離れることはありません。故にお聞きしたいのです。殿下は何をお望みで、裏世界に留まっていらっしゃるのか」

「言うまでもない」

 セレンは振り返って、サニーではなく俺を見た。

「あたしは、あたしの国を……いえ、世界を取り戻す。その為に、悠久の時を戦ってる」

 その言葉の中で顔を覗かせているのは、えもいわれぬ強い決意と、世界のあるべき姿を背負おうとする責任感。そして、どうしようもない執着心の如き感情だった。
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