上 下
917 / 933

天才的な決断

しおりを挟む
「俺は、すべてを手に入れる」

 あまりにもイケメン然とした確固たる物言いに、原初の女神は困惑したような表情を見せた。

「すべてを……?」

「ああそうだ。望むものはすべて手に入れる。運命を人の手に取り戻すという使命を達成して、その上で大切な人達とも別れず、さらに神にはならずに人として生きていく」

 二つの選択肢のいいところだけを選別するってわけだ。

「そのようなことは不可能です。相反する未来を両立することはできません」

「それができるのさ」

「無理です。あなたは【君主】ですが、その位階は低い。【座】においては最底辺。全てを叶える力などありません」

「確かに、俺一人じゃ無理だ」

「え……?」

「俺はこれまでなんでも一人でやってこようとしてた。誰かを信じて、頼っているつもりでも、本当に大事な局面では自分の力だけを信用してた。だから失敗続きで、負けまくって、挙句に色んなものを失った。お前が教えてくれたことだぜ。エンディオーネ」

 原初の女神がきゅっと唇を結ぶ。

「俺を助けてくれる人はたくさんいる。みんなで心を一つにし、力を合わせれば、できないことは何もない」

「なるほど。〈尊き者〉と〈八つの鍵〉。そして〈妙なる祈り〉が一つになれば、女神エレノアを打倒することは可能でしょう。しかし、柱を失った世界はどうするのです? 神なき世界はいずれ滅びる。私を含め幾千万の【君主】が見てきた世界の末路です」

「言っただろ。未来を人に託すってよ。世界を支えるのは人だ。神じゃない」

「神なき世界の実現を目指すと?」

「生命の可能性は無限大なんだろ?」

「分の悪い賭けになりますよ」

「わかってる。けど俺には、無理を通す以外の選択肢はない」

 原初の女神は俺の目をじっと見つめる。
 その眼差しには、マーテリアの包容力とファルトゥールの知性、エンディーネの慈愛が宿っていた。

「意志は固いのですね」

「ああ」

「あなたの決断を尊重します。かの世界の未来に、幸のあらんことを」

 原初の女神は微笑みを讃え、光と共に消えゆく。
 俺はすかさずその手をつかみ取った。

「おい。なに他人事みたいに言ってんだ」

「え……?」

「おめーも手伝うんだよ。俺を」

 明らかに困惑する原初の女神。
 なんでだよ。元々てめーが創った世界だろうが。

「世界が独り立ちするまで面倒を見ろよ。それが親の役目ってもんだ」

「親の、役目……」

 精神体となった俺は〈妙なる祈り〉を取り戻していた。
 エレノアが創った肉体という枷から解き放たれ、生命本来の力を発揮できるようになったからだ。

「俺はこれからエレノアと決着をつけに行く。だから、俺の望みが叶うよう、色々と準備を頼むわ」

「……あなたという人は、本当に遠慮がありませんね」

「気に入らないか?」

「いいえ」

 原初の女神は、ニコリと少女のような笑みを浮かべた。

「それでこそ、ロートス・アルバレスです」

 そして俺の視界は光に包まれ、エレノアの世界へと向かう。
 最後の戦いが、始まろうとしていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

図書室の名前

青春 / 完結 24h.ポイント:1,221pt お気に入り:0

下級巫女、行き遅れたら能力上がって聖女並みになりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,980pt お気に入り:5,694

【書籍化進行中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,421pt お気に入り:430

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,954pt お気に入り:4,618

王妃は離婚の道を選ぶ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,185pt お気に入り:1,524

全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:4,225

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,963pt お気に入り:1,768

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:19,634pt お気に入り:973

ぼくの言の葉がきみに舞う

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:915pt お気に入り:35

処理中です...