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逆転の目は皆無に等しい

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 まじか。
 俺がどうやっても壊せなかった壁を、一撃で破壊した。アカネ、すごすぎる。
 とはいえ、【ゾハル】本体に損傷はない。

(世界の境界が砕けた? 信じられない。あってはならないことだ……人の身で、世界に穴を空けるなんて)

 だがその穴は、急速に修復され閉じていく。

「アイリス! 今じゃ!」

「はい」

 のほほんとした微笑みのまま、アイリスが穴に飛び込む。
 そして【ゾハル】の正面に取りついた。

「これでわたくしも高位次元の存在になった、という解釈でよろしいでしょうか?」

(スライムごときが……舐めるなっ!)

 【ゾハル】が明滅する。無数の歯車が一振りの刃と化しアイリスを薙ぐ。
 だが。
 アイリスは羽虫でも払いのけるような仕草で、巨大な剣を木っ端微塵に吹き飛ばした。

(えっ……)

「対等な叩き合いなら、負けませんわ」

 拳が【ゾハル】にめり込んだ。
 陥没の後、全体に広がり走るヒビ割れ。

(うおお)

 罅割れは更に大きく、細かく広がっていく。

(バカな……【ゾハル】が……この僕が……! こんな取るに足らない女どもにっ……!)

 その罅割れから、幾条もの光の筋が伸び出た。
 まるで爆発寸前の天体のように。

(ちくしょおぉぉぉ――)

 そして次の瞬間、【ゾハル】は粉々に砕け散った――かのように見えた。

(なんてね)

 マシなんとか五世のケロっとした声。
 砕け散ったはずの【ゾハル】は健在であった。
 どういうことだ。確かに砕け散った。その証拠に、金色の破片がそこかしこに舞い飛び、散らばっている。

「再生……? ううん、そうじゃない。これは」

 ルーチェの眉が寄っていた。

「先程よりでかくなっておる。まるで脱皮なのじゃ」

 アカネは鼻で笑っているが、目は笑っていない。

(ククク……もしかして期待しちゃったかい? 本気でこの【ゾハル】を破壊できるとでも?)

 ああ、期待したよ。
 完全に倒せそうな雰囲気だったからな。

「妙ですね……【ゾハル】に満ちるエネルギーが減っていません。再生機能を備えているといっても、エネルギーは消費されてしかるべきです」

 アデライト先生が神妙な顔つきで呟く。
 その通り。再生するなら、その分のエネルギーを使っているはず。

「確実に破壊したという確かな手応えがあったのですが。どうやら一筋縄ではいかないようですわ」

 アイリスが拳を開いたり閉じたりしながら言う。
 そうだ。確かに破壊した。

(ビビってるね。無理もない。【ゾハル】は僕の真なる最高傑作。究極の存在なんだよ)

 肉体を捨てて精神体になったからだろうか。今の俺には【ゾハル】のからくりがわかる。
 あいつは【座】を通じて、別次元からエネルギーを補給しているんだ。だからエネルギー保存の法則に縛られない。尽きることのない無限のエネルギーを持っているのと同じだ。
 この世界の理を超えているとは、つまりそういうことだ。

 だが言葉を発せない俺はその事実をみんなに伝えられない。
 いや、たとえ伝えられたとしても【ゾハル】を滅することは不可能だ。
 最強の人間でも、全知全能の神でも無理なんだ。
 【ゾハル】はそういう存在として作られたから。

 冗談抜きで、万事休すだった。
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