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神より生まれ、神を超えし者

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「まさか、こんなもんを置いていきやがるとはな」

 思わず笑いが零れる。
 俺を異世界に連れてきた鎌。
 命を刈り取る死神の鎌を担いでいたのは、生命の母たる幼い女神だった。おとぎ話にもならない、ふざけた話だ。

 俺は天を仰ぐ。
 マーテリア。
 ファルトゥール。
 エンディオーネ。
 創世の女神として好き放題やってきたあいつらは、あいつらなりに創造主としての務めを果たそうとしていたのかもしれない。
 だが、被造物だってそれぞれの確固たる意思を持っている。干渉はほどほどにしとかないと、手痛いしっぺ返しを喰らうのが道理ってもんだ。

「神は、高いところから世界を見守ってるくらいがちょうどいい」

 いつまでも子離れできない母親は情けない。
 親離れできない子どももな。

「ま、見てな。お前らの目的ってやつは、俺のやりたい事と同じなんだ」

 すこし癪だけどよ。

「お前ら姉妹の創った世界。俺、けっこう気に入ってるんだぜ」

 だから、取り戻すさ。
 俺の世界を。
 大切な人達を。
 そして、人々の未来を。

「行くぞ、アン」

「仰せのままに。我が主」

 俺は大鎌を背負うと、改めてコッホ城塞への道を歩き出した。
 あまりにも太い枝の上を、危なげなく進んでいく。

「主。先程のエンディオーネの話ですが、どう思われますか?」

「どう、とは? エレノアがキレて、世界がこんなになっちまったのが俺のせいっていうあれか? アンお前、帰ったらおしおきだな」

「えっ……そんなつもりで申し上げたのではなくて」

 慌てるアン。

「はは、わかってるよ。冗談だ」

「ほっ……冗談ですか」

「でもおしおきは本気だ」

「えっ」

 おしおきしてもらえると知って、アンも嬉しそうだ。緩んだ頬が紅潮している。
 コッホ城塞に近づくまで、アンの引き締まったおしりを撫でていた。アナベルの前ではこういうことはしにくいからな。なんたって実の娘だし。
 コッホ城塞までの長い道のりを、アンの尻と艶やかな吐息のおかげで退屈しなかったのは僥倖といえるだろう。

 そしてついに、俺達はコッホ城塞へと辿り着く。
 ところどころひび割れた不可視の結界。その巨大な亀裂が、目の前にある。

「婿殿。これは、入っても大丈夫なのか?」

「たぶんな」

「たぶんって……流石にこれは及び腰になるわよ?」

 フィードリッドとアナベルは、コッホ城塞の異様さに圧倒されていた。
 結界付近は無数の激しい竜巻が暴れまわっている。エンペラードラゴンですらも触れただけでバラバラになるだろう。
 幸い俺達の向かう先には竜巻がない。世界樹の枝の先端が風除けになっているようだ。

「ここまで来て引き返す選択肢はないでやんす。完全なる世界侵食に必要な穴がここにあるなら、命をかける価値はあるでやんすな」

「そういうことだ。完全にな」

 この先に何が待っていようと関係ねぇ。突き進むだけだ。
 俺にはそれしか能がないんだ。
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