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たった二人の山行

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 それからそれから。

 俺達は長い時間をかけ、長い距離を歩くことになった。
 歩くだけで一苦労の山道だ。進む速度も遅く、疲労もしやすい。
 重傷の身では、かなりきつかった。
 俺のすぐ後ろを歩くイキールは、息を乱しつつ無心で脚を動かしているようだ。

「おい。大丈夫か」

「……平気よ」

「無理するな。少し休憩するか?」

「平気だって言ってるでしょ。こんなところ、早く抜けちゃわないと」

 イキールは決して弱音を吐かない。
 辛いに決まっている。表情も苦しそうだ。
 デメテル貴族としての矜持か、あるいは単に意地を張っているだけなのか。
 どちらにしても、イキールの判断はまちがっちゃいない。

「幸い、モンスターの気配がないわ。今のうちにできる限り進みましょう」

「わかった。だが、これ以上無理だと思ったらすぐに休むぞ。先に何があるかわからん。体力は温存しておくべきだ」

「ええ。そのつもりよ」

 ほんとかよ。
 その後、数時間。俺達は歩きに歩いた。
 森が深すぎて昼なのか夜なのかもわからない。

 そして、イキールもそろそろ限界のようだった。
 息は絶え絶え、顔色も悪い。
 折れた右腕が痛むのか、歪んだ表情に脂汗をかいている。

「……イキール」

 返事はない。

「おいイキール!」

「え……? なに?」

「そろそろ休もう」

「ええ。そうね。もうちょっと進んだら、そうしましょう」

「お前それ何度目だ? そう言いながらずっと歩き続けてるじゃねーか」

「だって、キリのいいところがないじゃない。歩けど歩けど、景色が変わらない。ほんとに進んでるのかも、わからないわ」

「そんな状況で歩き続けられるお前はすげーよ。だから休もうぜマジで」

 俺はイキールの左肩を掴む。
 それだけで、彼女の疲弊が伝わってきた。もはや気合だけで意識を保っている感じだ。

「でも」

「安心しろ。道は合ってる。探知器があるからな」

「……そう」

 すでに目も虚ろだ。
 疲れ切った顔で俺を見上げ、そのまま倒れ込むように俺の胸にもたれかかるイキール。
 しっかり抱きとめた腕の中で、イキールは完全に脱力していた。

「……ごめん」

 俺はすこし意表をつかれた。

「はは。まさかお前の口から謝罪の言葉を聞けるなんてな」

「うん……」

「む」

 やれやれ。なんか調子狂うな。
 しかし、これでやっと休める。俺も歩き詰めで、結構しんどい部分があったから助かるぜ。

 そんなことを考えていた矢先。
 突如として凄まじい地響きが俺の耳に届き、次いで激烈な大地の振動が訪れた。

「あ……!」

 立っていられないほどの揺れだ。
 俺はイキールを抱いたまま膝をつく。

「一体なにが起こってやがる……!」

 次の瞬間。
 ありえないほどの轟音と共に、周囲の木々が宙に舞い上がった。
 噴き上がる土、岩、砂塵。

「きゃあっ!」

「これは……!」

 俺はイキールを庇いながら、その勢いに呑まれて天高く吹き飛ばされてしまった。
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