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説得パート

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 俺がイキールを帰したいのは、計画の障害になるからだ。だが、それ以上に巻き込みたくないという気持ちがある。
 こいつは前世界のイキールとは別人だ。性別だけじゃない。名前や境遇が同じでも、その本質はまったく違う。
 あるいはこれは、エレノアの魂がこの世界に遍満しているせいか。
 すくなくとも、エレノアの創世がこの世界の人々に大きな影響を与えていることは確かだろう。

 前世界から連続した記憶を持つ俺達とは、その世界観が根本的に異なるんだ。
 俺とアナベルとアンは、前世界の人間だ。
 そして俺達はこれから、俺達の世界を取り戻すために、この世界に牙を剥く。

「イキール。お前は、何の為に生きてる?」

「……え?」

「お前の使命はなんだ?」

「使命……? そんなの」

 唐突な問いに、口ごもるイキール。

「私の使命は、陛下にお仕えして、デメテルの平穏を守ること」

 彼女は自らに言い聞かせるように呟いた。

「ならそれが答えだ。お前は、デメテルを出るべきじゃない」

「理由にならないわ。デメテルを守るためには、国外にでなきゃならないことだってあるでしょ」

 この時点で、俺とイキールは相容れない。
 俺はこのデメテルをなかったことにするつもりだからな。

「いざという時の守りを任せると言ってるんだ」

「いざという時ってなに」

「俺が死んだ時だよ」

 そこでイキールは瞠目して俺を見た。

「ここから先は危険だ。死ぬ確率も高い。ここで全員死んでしまったら、誰が俺達の消息を陛下に伝えるんだ?」

「それは」

「戻るのも重要な役目だ。ただ危険に飛び込むだけが勇気じゃない。陛下のお役に立ちたいなら、賢く戦え」

 反論は飛んでこない。
 俺の主張にも一理あると伝わったか。

「わかったわ。私はここに残ることにする」

 やったぜ。

「何かあった時のために、数日はこの村に滞在するから、問題が起こったら念話を飛ばして」

「ああ。そうするよ」

 言いくるめる形になったが、結果オーライだ。
 この先イキールを連れていくことは、お互い災いにしかならないだろう。

 イキールはベッドから立ち上がると、部屋の出口へと向かう。
 そのまま出ていくのかと思ったら、扉に手をかけたまま開こうとしない。

「公子」

「ん?」

「帝都じゃ、私とあなたが婚約したなんていうふざけた噂が広まってる」

「らしいな」

「広めたのはあなたよ。不愉快な誤解はきちんと解いてもらうからね。いい?」

「ああ。わかってるよ」

「二言はないわね?」

「家門の名に誓おう」

「そう。なら、いいわ」

 それだけ言うと、イキールはさっさと部屋を出ていってしまった。
 俺はベッドに倒れ込む。
 ふわりと、イキールの残り香が鼻腔をくすぐった。

「素直じゃねぇなぁ」

 生きて帰って来いって、そのまま言えばいいものを。
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