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張り詰めた弓の如く

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 俺達の計画はこうだ。
 しばらくはこのままグランブレイドへの道を行く。
 数日後、国境を越える際に通過する山岳地帯において、アンの瘴気を利用してモンスターに俺達を襲撃させる。
 調べたところ、そのあたりは崖際を進むルートであり、襲撃の混乱に乗じて行方不明になるにはうってつけの場所らしい。
 モンスターの襲撃を誘発させ、事故を装って崖下へと落下。そのまま行方をくらますって寸法だ。

 そのタイミングでイキールともお別れになるだろう。
 あいつがいようがいまいが、俺の計画に支障はない。なにせ、俺の計画は完璧だからな。

「アルバレスの公子が行方知れずなんて、大騒ぎになるんじゃない?」

「ならんだろ。所詮俺はボンクラ公子だ。世の中の評判ってのはそう簡単に変わるもんじゃない」

「それでも、公爵家は騒ぐでしょ? エルフにさらわれた時もそうだったし」

「かもしれない。けど、それを表に見せることはない。この短期間に二回も行方不明になるなんて、家門の恥だからな。しばらくの間は問題にはならないはずだ」

 アナベルは追手を心配しているようだ。
 無論、捜索隊は派遣されるだろうが、それよりも早くエルフの森に辿り着けば何も問題はない。
 あの場所はほとんど不可侵の聖域だ。エルフは一般的には伝説上の存在と言うことになっているし、実在を知る者もエルフは他種族嫌いと信じ切っている。デメテルの皇帝と言えども簡単には手出しできまい。

「襲撃が始まれば隊は混乱するだろう。死人を出さないようにアンには言い聞かせてはいるが、それは俺達しか知らないことだからな。だからもしはぐれたとしても、合流しようとせずそれぞれエルフの森を目指すんだ。そこで落ち合った方が安全だろう」

「わかった」

 俺は馬上で体をねじり、後方を確認する。
 イキールの奴はアンの乗る馬車から離れず、きっちりと追従していた。
 どうやら替え玉王女を警戒しているみたいだな。
 イキールの近くにはコーネリアもいる。彼女が本物の王女だと知っているせいか、チラチラとコーネリアの方にも視線をやっている。
 律儀に監視をしている。かわいい奴め。

「念のため、あの人が余計なことをしないように見張っておくわ」

「ああ。頼む、アナベル」

 監視役が監視されるとはな。
 まぁ、世の中そういうものだ。

 その後、順調にグランブレイドへの道を進んでいく一行。
 帝都での一件もあって、隊には緊張感があった。いつ強力なモンスターが襲ってきてもいいように警戒しているようだ。
 アルバレスの騎士団も、グランブレイドの使節団も、皆ピリッとした表情を絶やさない。

 そしてそれは、イキールも同じだった。
 俺はアルバレスの騎士団長に先頭を任せると、速度を落としてイキールの隣に馬を並ばせた。
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