上 下
850 / 981

実は最強

しおりを挟む
 待っていたのは、惨状だった。
 集結したデメテルの最精鋭達は、数人を残して全滅。
 そびえ立つ大樹のごときモンスターは、漆黒の瘴気を纏い、絶望的なまでの威容を示している。

「ひどい……!」

 コーネリアの感想も頷ける。
 美しかった大公園は見るも無残に破壊の限りを尽くされ、戦士達が骸を晒している。死屍累々とはまさにこのことだ。
 残っているのはー―。

「な……なんだこのバケモノは……!」

 大男エルゲンバッハ。片腕を失っている。

「元々えげつなかったが、あの黒い靄を纏ってから一層やばくなったのぅ」

 チェチェン老は息を荒げ、ふらふらしている。

「あかん。こないな奴、どないせぇっちゅーねん……!」

 オー・ルージュも、折れた槍を握って顔を青くしている。
 この三人を含め、残りは七人といったところか。
 いや、あのモンスターを相手によく持ちこたえたもんだ。

『フフ。この世界の人間は脆弱ですね。歯ごたえがまったくない』

 アンの声だ。
 奴はモンスターの頂上に咲く巨大なバラに立ち、彼らを見下ろしている。

『やはりもっと早く動くべきでしたね。この世界には我が女神マーテリアの障害となるモノはない』

 アンの目的は一貫してるな。
 マーテリアの復活。どこまでも、マーテリアの世界になることを望んでいる。

 だが、そうはいくか。
 俺は馬を走らせ、大公園へと突入した。
 白馬の嘶きが、戦場に木霊す。

「な、なんやっ」

 奇しくも近くにいたルージュが、俺の登場に一番に気付いた。

「あんた……アルバレスの……!」

「苦戦してるみたいだな。手を貸そう」

 俺はコーネリアと馬を降りると、モンスターへと歩みを進める。

「なっ、ちょい待ちぃや! いくらあんたでも、あのバケモンには敵わへんて!」

「けが人は黙って見てな」

「頭おかしいんかいな……!」

 悠々と歩みを進める俺に、ルージュはとても失礼な言葉を浴びせる。
 まぁ、戦場の空気に当てられたら誰だって口が悪くなるもんだ。

「あ、あんな……剣も抜かずに間合いに入るなんて、自殺行為だぞ!」

 エルゲンバッハの忠告なんかどうでもいい。
 俺はのんびりとした歩調で、植物モンスターの射程内に一歩踏み込んだ。

 その刹那。
 無数の太いツルが、うねりながら俺に迫る。
 その場にいる誰もが、俺の死を予感――否、確信――したことだろう。

 だが、数えるのも億劫になるほどのツタは、ただ一つさえ俺に触れることはできなかった。
 俺の放った神速の斬撃が、ことごとくを斬り払ったからだ。

「え?」

 チェチェン老も驚愕している。

「なんだよ。大したことないな」

 とんでもなく強くて、あまりにも速く、凄まじく手数が多いだけの攻撃だ。
 そんなものは、俺には通用しない。

「よう! 久しぶりだな! アン!」

 俺は努めて朗らかに、魔王アンヘル・カイドに挨拶した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...