840 / 981
つおいんです
しおりを挟む
正門を通過した瞬間。
肌にへばりつくような不快な感覚が全身を巡った。
まるで生温いゼリーの中に飛び込んだような感覚だった。
「ううっ……なんですか、これぇ」
エマは心の底から気持ち悪そうにしている。
「この感じ……瘴気か?」
黒いオーラこそないが、一度モノにした力の感覚は憶えている。
この空間。魔法学園の敷地内に充満しているのは、紛れもなく瘴気だった。
どういうことだ。瘴気はマーテリアの神性の一部だ。それを吸収したのはエレノアだから、つまりこれはエレノアの力なのか。
「公子さま? どうされたんですか?」
「いや、なんでもない。ヒーモを探そう」
気になることはあるが、ひとまずここはヒーモの救助が先決だ。
更に奥に進もうと馬の腹を蹴るが、何故か動こうとしない。ぶるぶると弱々しい鼻嵐を鳴らすのみ。
「怯えてるのか?」
無理もない。瘴気は生命にとって根源的な毒だ。人間よりも本能的な勘が鋭い動物は、この恐ろしさを肌で感じられるのだろう。
「降りよう。ここからは歩きだ」
「はい。わかりました」
エマに手を貸して下馬させる。彼女はやはり不安そうだった。
「ヒーモくん。大丈夫でしょうか」
「無事を祈るしかない」
魔法学園のキャンパスは、いつもと雰囲気がまるで違う。
しかも、さっきまで晴天が広がっていたのに、現在の空はかなり曇っている。
帝都の空は急激な天気の変化があまりないと聞く。一体どうやってやがる。
キャンパスを進み、俺達が毎日講義を受けている建物の付近を通っていると、頭上から殺気を感じた。
エマは気付いていない。
俺はそのほっそりとした肩を抱き寄せ、バックステップを踏む。
「えっー―」
一秒前に俺達が立っていた場所に、巨大なモンスターが墜落した。
「ひっ……!」
エマの引き攣った声が耳元で鳴る。
モンスターは太い二本脚で大地を砕く。飛び散った石畳の破片が俺達の脇を通り過ぎていく。当たりそうなものはすべて俺が打ち払った。
「あ、あ、メテオ・オーガ……!」
「怖がることはない。ザコだ」
「ザコって……危険指定種ですよっ?」
「見てみろ」
エマが恐る恐るメテオ・オーガを見上げる。
白い目玉と視線が合い、エマは息を呑んだ。
「あれ……?」
ところが、メテオ・オーガは動かない。
「なんで?」
エマが困惑した矢先。
メテオ・オーガの巨体に、縦三本の切れ目が走った。
その線から鉛色の血が漏れ出る。
そして、威圧的な巨体が三つに分かれて地に倒れ伏した。ドドド、と鈍い音が重なる。
メテオ・オーガは、声を発することもなく沈黙した。
「し、死んでる」
「な? ザコだろ?」
「これ、公子さまがやったんですか?」
「ああ。着地した瞬間に三枚に下ろしておいた」
「え、でも。剣を抜いてもいませんよね?」
「見えなかっただけだ」
「ええと……」
どうやらエマには理解できないようだ。
それくらい力の差があるってことだ。
「そんなことはいい。ヒーモを探すぞ。念話灯は通じないんだろ?」
「はい。さっきからずっとかけてるんですけど……」
瘴気のせいだな。魔力波に干渉して念話が届かなくなってる。
「ヒーモの魔力の痕跡があればいいんだが」
だがその時。
「うわあああああ!」
という叫びが遠方から聞こえてきた。
「ヒーモの声だ」
「え? ほんとですか? あたしには聞こえませんでしたよ?」
「俺は耳がいいからな。行くぞ」
「はい。きゃっ」
時間が惜しい。
俺はエマをお姫様抱っこして、ヒーモの声が聞こえた方に疾走した。
肌にへばりつくような不快な感覚が全身を巡った。
まるで生温いゼリーの中に飛び込んだような感覚だった。
「ううっ……なんですか、これぇ」
エマは心の底から気持ち悪そうにしている。
「この感じ……瘴気か?」
黒いオーラこそないが、一度モノにした力の感覚は憶えている。
この空間。魔法学園の敷地内に充満しているのは、紛れもなく瘴気だった。
どういうことだ。瘴気はマーテリアの神性の一部だ。それを吸収したのはエレノアだから、つまりこれはエレノアの力なのか。
「公子さま? どうされたんですか?」
「いや、なんでもない。ヒーモを探そう」
気になることはあるが、ひとまずここはヒーモの救助が先決だ。
更に奥に進もうと馬の腹を蹴るが、何故か動こうとしない。ぶるぶると弱々しい鼻嵐を鳴らすのみ。
「怯えてるのか?」
無理もない。瘴気は生命にとって根源的な毒だ。人間よりも本能的な勘が鋭い動物は、この恐ろしさを肌で感じられるのだろう。
「降りよう。ここからは歩きだ」
「はい。わかりました」
エマに手を貸して下馬させる。彼女はやはり不安そうだった。
「ヒーモくん。大丈夫でしょうか」
「無事を祈るしかない」
魔法学園のキャンパスは、いつもと雰囲気がまるで違う。
しかも、さっきまで晴天が広がっていたのに、現在の空はかなり曇っている。
帝都の空は急激な天気の変化があまりないと聞く。一体どうやってやがる。
キャンパスを進み、俺達が毎日講義を受けている建物の付近を通っていると、頭上から殺気を感じた。
エマは気付いていない。
俺はそのほっそりとした肩を抱き寄せ、バックステップを踏む。
「えっー―」
一秒前に俺達が立っていた場所に、巨大なモンスターが墜落した。
「ひっ……!」
エマの引き攣った声が耳元で鳴る。
モンスターは太い二本脚で大地を砕く。飛び散った石畳の破片が俺達の脇を通り過ぎていく。当たりそうなものはすべて俺が打ち払った。
「あ、あ、メテオ・オーガ……!」
「怖がることはない。ザコだ」
「ザコって……危険指定種ですよっ?」
「見てみろ」
エマが恐る恐るメテオ・オーガを見上げる。
白い目玉と視線が合い、エマは息を呑んだ。
「あれ……?」
ところが、メテオ・オーガは動かない。
「なんで?」
エマが困惑した矢先。
メテオ・オーガの巨体に、縦三本の切れ目が走った。
その線から鉛色の血が漏れ出る。
そして、威圧的な巨体が三つに分かれて地に倒れ伏した。ドドド、と鈍い音が重なる。
メテオ・オーガは、声を発することもなく沈黙した。
「し、死んでる」
「な? ザコだろ?」
「これ、公子さまがやったんですか?」
「ああ。着地した瞬間に三枚に下ろしておいた」
「え、でも。剣を抜いてもいませんよね?」
「見えなかっただけだ」
「ええと……」
どうやらエマには理解できないようだ。
それくらい力の差があるってことだ。
「そんなことはいい。ヒーモを探すぞ。念話灯は通じないんだろ?」
「はい。さっきからずっとかけてるんですけど……」
瘴気のせいだな。魔力波に干渉して念話が届かなくなってる。
「ヒーモの魔力の痕跡があればいいんだが」
だがその時。
「うわあああああ!」
という叫びが遠方から聞こえてきた。
「ヒーモの声だ」
「え? ほんとですか? あたしには聞こえませんでしたよ?」
「俺は耳がいいからな。行くぞ」
「はい。きゃっ」
時間が惜しい。
俺はエマをお姫様抱っこして、ヒーモの声が聞こえた方に疾走した。
0
お気に入りに追加
1,202
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる