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新たなる決意をするんじゃ
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「ロートス。創世前の記憶をじっくり聞く時間を取りたいでやんす。またこの里に来てくれるでやんすか?」
「いいとも」
オーサは薄っぺらな胸を撫でおろした。
「実際、不安だったでやんすよ。この場に連れてきたのは、半ばむりやりだったでやんすから」
「まぁな。けど〝ユグドラシル〟の目的は、俺にとっても望むところだ」
オーサは頷く。
「フィー」
「うむ」
テーブルに座ったまま、フィードリッドが体ごと俺に向いた。
「ロートス。これからどうするつもりだ?」
「どうって?」
「我々としては、お前にはこれから〝ユグドラシル〟の一員として、ともに悲願成就のため戦ってほしいと思っている」
「願ってもないことだ」
この十六年間、俺は公爵家の跡取りとして生きた。だが、そんな人生に未練などない。
俺がこの世界で生き永らえてきたのは、一重にエレノアへの義理だった。
「ロートス。わかっているでやんすか。創世前の世界に戻すということは、この世界を消滅させるということでやんす」
「……わかっているつもりだ」
エレノアの創った世界はすばらしい。
人々は物事の道理をよく理解しているし、進んで争おうとする者は少ない。
モンスターの被害も生態系のバランスの中で最小限に収まっているし、世の中はロマンと平穏が溢れている。
「創世前の世界は、そんなに良い世界だったのか?」
「いいや。お世辞にも良いなんて言えやしない。我儘な女神が好き勝手やるし、人間は戦争ばっかりやってる。挙句の果てには魔王なんてモンが現れて、世界をめちゃくちゃにしちまってな。滅亡待ったなしの世界だった」
「なんだと?」
フィードリッドが呆気に取られる。
「けど、そんな世界をすこしでも良くしようって、もう一度やり直そうって、生き残った人達が手を取り合っていこうとしてたんだ。そんな矢先に、エレノアが世界を創り変えちまった」
オーサも驚きのあまり言葉を失っている。
「俺はまだ、あの世界で何も成し遂げちゃいない。未練がましいかもしれないが、もしあの世界を取り戻せるなら、俺は喜んでこの世界を捨てるぜ」
俺の言葉を聞いたオーサとフィードリッドは、しばらく言葉を発すことなく思索にふけっているようだった。
「族長。ワタシ達のやっていることは、本当に正しいのだろうか?」
「世界の在り様に是非を問う必要はないでやんす。あっしらエルフは、世界樹の御心に従うまででやんすよ」
エルフがどんな思いで前世界を復活させようとしているか。そんなことは俺にはどうでもいい。
俺はただ、俺が生きると決めた世界と、俺が心から愛した人達を取り戻したい。
それだけだ。
「つーわけで俺は、公爵家を捨てて〝ユグドラシル〟に入る。これからよろしく頼むぞ。イケてるシティボーイだから、慣れない森暮らしで迷惑をかけるかもしれないけどな」
先程の真面目な雰囲気から一転。
俺は和やかなムードを醸し出す笑みを浮かべた。
「いや。ロートスにはこのまま公子として魔法学園に通ってもらうでやんす」
「え?」
「魔法学園にはあっしらが調査できていない最後のセーフダンジョンがあるでやんす。卒業試験用に使われるセーフダンジョンの中で最も高難易度のダンジョン。その名も『リベレーション』でやんす」
「『リベレーション』か……それってつまり、スパイってことか?」
「有体に言えばそうでやんす」
「けど、お前達が俺を連れ去るところ。イキールに見られてるぞ。あいつはデメテルの対〝ユグドラシル〟工作員だ」
フィードリッドがふっと笑みを漏らす。
「問題ない。我々と接触したところで、仲間になったとは思われんだろう。エルフを知る者は、我々が大の異種族嫌いだと信じている」
「あの時、イキールはお前達がエルフだと気付いてたっけ」
「正体を現したのはそのためだ。まさか我々エルフが人間のお前を仲間にするなんて思いもよらないだろう」
「じゃあ……学園に戻ってイキールに問い詰められたら、なんて説明したらいいんだ?」
「説明などせずともよい。ワタシ達はお前を人質として、公爵家に身代金を要求する」
なんだって?
「世界中のセーフダンジョンでペネトレーションを起こした今、あっしらが水面下に潜む理由はなくなったでやんす。〝ユグドラシル〟はロートスを人質に取ったと大々的に公開して、センセーショナルなデビューを果たすでやんすよ」
「ええ? 何の為にそんなことすんだよ」
「資金のため。ロートスが怪しまれないため。そして、我らの大義を喧伝するためだ」
フィードリッドは大真面目に言う。
「大義? 世界樹の御心ってやつか?」
「そうだ。詮ずる所、女神エレノアは神の座を簒奪した偽神に過ぎん。この世界は仮初なのだ。ならば、世界樹に記憶された真の姿を取り戻すのが、エルフに……いや、この世界に生きる者すべてに課せられた使命だろう」
「真の世界が、必ずしも平和でなかったとしても?」
「安穏な夢の世界に甘んじるか。それとも、厳しい現実に立ち向かうか。ロートス。お前はどちらを選ぶ?」
「……言うまでもない」
俺の中で、すでに答えは出た。
この世界のすべてを巻き込んでも、あるいは滅ぼすことになろうとも、俺の世界を取り戻すと。
「そういうことでやんす。それに、事を秘密裏に進めるには限界があるでやんすよ。すでにデメテルはあっしらの存在に気付きかけているでやんす。正体と目的を知られるのも時間の問題。なら、こっちから公開してやったほうが状況をコントロールしやすいでやんす」
「なるほど。一応理に適っているってわけか」
「それに、奴らにもチャンスを与えなければ不公平だろう?」
「……そんなことを言ってられる余裕は、俺にはないけどな」
「世界樹に対する誠意だ。奪還といってもかすめ取っては、敵と同じになる」
まぁ、やり方に関してはエルフ達に任せようと思う。
今のところ、俺には知識が足りないからな。
今のところは、な。
「いいとも」
オーサは薄っぺらな胸を撫でおろした。
「実際、不安だったでやんすよ。この場に連れてきたのは、半ばむりやりだったでやんすから」
「まぁな。けど〝ユグドラシル〟の目的は、俺にとっても望むところだ」
オーサは頷く。
「フィー」
「うむ」
テーブルに座ったまま、フィードリッドが体ごと俺に向いた。
「ロートス。これからどうするつもりだ?」
「どうって?」
「我々としては、お前にはこれから〝ユグドラシル〟の一員として、ともに悲願成就のため戦ってほしいと思っている」
「願ってもないことだ」
この十六年間、俺は公爵家の跡取りとして生きた。だが、そんな人生に未練などない。
俺がこの世界で生き永らえてきたのは、一重にエレノアへの義理だった。
「ロートス。わかっているでやんすか。創世前の世界に戻すということは、この世界を消滅させるということでやんす」
「……わかっているつもりだ」
エレノアの創った世界はすばらしい。
人々は物事の道理をよく理解しているし、進んで争おうとする者は少ない。
モンスターの被害も生態系のバランスの中で最小限に収まっているし、世の中はロマンと平穏が溢れている。
「創世前の世界は、そんなに良い世界だったのか?」
「いいや。お世辞にも良いなんて言えやしない。我儘な女神が好き勝手やるし、人間は戦争ばっかりやってる。挙句の果てには魔王なんてモンが現れて、世界をめちゃくちゃにしちまってな。滅亡待ったなしの世界だった」
「なんだと?」
フィードリッドが呆気に取られる。
「けど、そんな世界をすこしでも良くしようって、もう一度やり直そうって、生き残った人達が手を取り合っていこうとしてたんだ。そんな矢先に、エレノアが世界を創り変えちまった」
オーサも驚きのあまり言葉を失っている。
「俺はまだ、あの世界で何も成し遂げちゃいない。未練がましいかもしれないが、もしあの世界を取り戻せるなら、俺は喜んでこの世界を捨てるぜ」
俺の言葉を聞いたオーサとフィードリッドは、しばらく言葉を発すことなく思索にふけっているようだった。
「族長。ワタシ達のやっていることは、本当に正しいのだろうか?」
「世界の在り様に是非を問う必要はないでやんす。あっしらエルフは、世界樹の御心に従うまででやんすよ」
エルフがどんな思いで前世界を復活させようとしているか。そんなことは俺にはどうでもいい。
俺はただ、俺が生きると決めた世界と、俺が心から愛した人達を取り戻したい。
それだけだ。
「つーわけで俺は、公爵家を捨てて〝ユグドラシル〟に入る。これからよろしく頼むぞ。イケてるシティボーイだから、慣れない森暮らしで迷惑をかけるかもしれないけどな」
先程の真面目な雰囲気から一転。
俺は和やかなムードを醸し出す笑みを浮かべた。
「いや。ロートスにはこのまま公子として魔法学園に通ってもらうでやんす」
「え?」
「魔法学園にはあっしらが調査できていない最後のセーフダンジョンがあるでやんす。卒業試験用に使われるセーフダンジョンの中で最も高難易度のダンジョン。その名も『リベレーション』でやんす」
「『リベレーション』か……それってつまり、スパイってことか?」
「有体に言えばそうでやんす」
「けど、お前達が俺を連れ去るところ。イキールに見られてるぞ。あいつはデメテルの対〝ユグドラシル〟工作員だ」
フィードリッドがふっと笑みを漏らす。
「問題ない。我々と接触したところで、仲間になったとは思われんだろう。エルフを知る者は、我々が大の異種族嫌いだと信じている」
「あの時、イキールはお前達がエルフだと気付いてたっけ」
「正体を現したのはそのためだ。まさか我々エルフが人間のお前を仲間にするなんて思いもよらないだろう」
「じゃあ……学園に戻ってイキールに問い詰められたら、なんて説明したらいいんだ?」
「説明などせずともよい。ワタシ達はお前を人質として、公爵家に身代金を要求する」
なんだって?
「世界中のセーフダンジョンでペネトレーションを起こした今、あっしらが水面下に潜む理由はなくなったでやんす。〝ユグドラシル〟はロートスを人質に取ったと大々的に公開して、センセーショナルなデビューを果たすでやんすよ」
「ええ? 何の為にそんなことすんだよ」
「資金のため。ロートスが怪しまれないため。そして、我らの大義を喧伝するためだ」
フィードリッドは大真面目に言う。
「大義? 世界樹の御心ってやつか?」
「そうだ。詮ずる所、女神エレノアは神の座を簒奪した偽神に過ぎん。この世界は仮初なのだ。ならば、世界樹に記憶された真の姿を取り戻すのが、エルフに……いや、この世界に生きる者すべてに課せられた使命だろう」
「真の世界が、必ずしも平和でなかったとしても?」
「安穏な夢の世界に甘んじるか。それとも、厳しい現実に立ち向かうか。ロートス。お前はどちらを選ぶ?」
「……言うまでもない」
俺の中で、すでに答えは出た。
この世界のすべてを巻き込んでも、あるいは滅ぼすことになろうとも、俺の世界を取り戻すと。
「そういうことでやんす。それに、事を秘密裏に進めるには限界があるでやんすよ。すでにデメテルはあっしらの存在に気付きかけているでやんす。正体と目的を知られるのも時間の問題。なら、こっちから公開してやったほうが状況をコントロールしやすいでやんす」
「なるほど。一応理に適っているってわけか」
「それに、奴らにもチャンスを与えなければ不公平だろう?」
「……そんなことを言ってられる余裕は、俺にはないけどな」
「世界樹に対する誠意だ。奪還といってもかすめ取っては、敵と同じになる」
まぁ、やり方に関してはエルフ達に任せようと思う。
今のところ、俺には知識が足りないからな。
今のところは、な。
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