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三人もいるんかい
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「この世界には創世の女神エレノアが唯一無二の神とされているナリ。我らはそれに疑問を抱いているナリよ」
「そうでやんす。この世界が女神エレノアによって新たに作り変えられたものだとすれば、それ以前にはまた別の神が存在していたはずでやんす。あっしらはそう仮説を立てたのでやんすよ」
ああ。その通りだ。
俺は頷く。
「前の世界には、女神が三人いた。マーテリア。ファルトゥール。エンディオーネ。これが俺の知る創世の三女神だ」
「三女神……でやんすか。やはり……外なる神は存在するのでやんすね」
「けど、エレノアはそいつらの神性を奪って世界を創った。交信できたとして、そいつらにこの世界をどうにかできる力があるとは思えない」
エルフ達がざわつく。
「これは、あっしらの方が色々と教えてもらう立場になりそうでやんすね……」
「最初からそのつもりだったんだろ? 魔法学園のダンジョンを襲撃してまで俺を拉致したんだ」
「否定はしないでやんす」
オーサは神妙な面持ちで俯く。
「あっしは他の皆より多く『ユグドラシル・レコード』の断片に触れることができたでやんすが、あっしが見たすべての断片にロートス・アルバレスという名が刻まれていたでやんす。数百年かけて記憶を読み取りながら、デメテルの隅々を調べて回った。そしてようやくあんたを見つけたのでやんすよ。どんな手を使ってでも、ここに連れてきたかったでやんす」
「別に責めるつもりはない」
そういえば、イキールとエマはどうなっただろう。
無事に脱出できたんだろうか。
イキールは〝ユグドラシル〟のことを、世界の破滅を目論む悪の秘密結社と評していた。
たしかに間違ったことは言っていないが、エルフにはエルフの思想と理念があったわけだ。
それはともかく、俺にはどうしても確かめたいことがあった。
「フィードリッド」
「ん? なんだ?」
「アデライト、という名に憶えはないか?」
「フム。エルフの里ではそう珍しくもない名だが」
「あんたの娘の名前だよ」
フィードリッドの目がすっと細まった。
「ワタシの……? そうか。『ユグドラシル・レコード』には、ワタシがお前を婿殿と呼んでいる記憶があった。ワタシに娘はいないが、世界が創り変えられる前のワタシにはいた。その名がアデライトだと?」
「ああ」
フィードリッドが知らないとなれば、やっぱりこの世界にあの人はいないんだろう。
覚悟していたこととはいえ、やっぱり辛い。
「愛されていたのだな。ワタシの娘は」
「……ああ」
あの人の笑顔。知性ある言葉。眼鏡の奥の眼差し。そして大きなおっぱい。
思い出すだけで幸せな気持ちになるし、もう二度と会えないと思うと、あまりにも虚しくなる。
オーサがぱんぱんと手を叩く。
「辛気臭い話はやめようでやんす。ここは、これからどうするか。何を考え、いかに行動するか。そういう建設的な会議の場でやんすよ」
「ああ、そうだな。ロートス、また後で話そう。ワタシの娘がどんなエルフだったのか。気になるんだ」
エルフっていうか、ハーフエルフだったけどな。
「話を進めていいナリか?」
「頼むでやんす」
エルフ達も頷く。
「我らは捜索の甲斐あって、ロートス・アルバレスを見つけられたナリ。創世前の記憶を持つ人物は残り二人。うち一人はすでに見つかり、こっちに向かっている途中ナリ。もう一人は――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺は思わず副長の話を遮った。
「どうしたナリか?」
「前世界の記憶を持ってるのって、俺だけじゃないのか?」
「貴様だけじゃないナリ。少なくとも『ユグドラシル・レコード』にはそう刻まれているナリよ。創世前の記憶を持つ者は、わかっているだけで三人ナリ」
「三人……そんなにいるのか」
俺は公爵家の力をできる限り使ってそういった情報を集めようとしたが、ついぞその痕跡すら見つけることができなかった。
デメテル最大勢力の家門といっても、限界はある。世界樹のとんでもパワーに比べれば大したことはないってわけだ。
「話を戻すナリ。最後の一人は見つかってはいるが、まだ接触できていないとのことナリ。その人物はグランブレイドの王族のようで、簡単には接触できそうにないナリ」
「それは、厄介でやんすね。どうしたものか」
グランブレイドとな。
デメテルの隣国で、ここ十数年で興った新興国だったはずだ。デメテルの皇帝ヴィクトリアが後ろ盾になったということで、ほぼ属国的な立場だと聞いている。
「なんとかなるかもしれないぞ」
俺は思い付きを口にする。
「どういうことナリか」
「俺はデメテルの筆頭貴族であるアルバレス公爵家の人間だ。グランブレイドの王族くらいなら、国交を理由に接触できるかもしれない」
「それは朗報でやんすな!」
「今すぐ確約はできないけどな。一度、公爵に話をしてみるよ」
「頼むでやんす」
そんな感じで、今回のエルフ達の会議は進んでいった。
ほとんどの議題で、俺はただ聞いているだけだったが、エルフ達が本当に世界をなんとかしたいという気持ちは伝わってきた。
前世界を取り戻す気概を感じる。
会議が終わった後、この場には俺とオーサとフィードリッドのみが残った。
「そうでやんす。この世界が女神エレノアによって新たに作り変えられたものだとすれば、それ以前にはまた別の神が存在していたはずでやんす。あっしらはそう仮説を立てたのでやんすよ」
ああ。その通りだ。
俺は頷く。
「前の世界には、女神が三人いた。マーテリア。ファルトゥール。エンディオーネ。これが俺の知る創世の三女神だ」
「三女神……でやんすか。やはり……外なる神は存在するのでやんすね」
「けど、エレノアはそいつらの神性を奪って世界を創った。交信できたとして、そいつらにこの世界をどうにかできる力があるとは思えない」
エルフ達がざわつく。
「これは、あっしらの方が色々と教えてもらう立場になりそうでやんすね……」
「最初からそのつもりだったんだろ? 魔法学園のダンジョンを襲撃してまで俺を拉致したんだ」
「否定はしないでやんす」
オーサは神妙な面持ちで俯く。
「あっしは他の皆より多く『ユグドラシル・レコード』の断片に触れることができたでやんすが、あっしが見たすべての断片にロートス・アルバレスという名が刻まれていたでやんす。数百年かけて記憶を読み取りながら、デメテルの隅々を調べて回った。そしてようやくあんたを見つけたのでやんすよ。どんな手を使ってでも、ここに連れてきたかったでやんす」
「別に責めるつもりはない」
そういえば、イキールとエマはどうなっただろう。
無事に脱出できたんだろうか。
イキールは〝ユグドラシル〟のことを、世界の破滅を目論む悪の秘密結社と評していた。
たしかに間違ったことは言っていないが、エルフにはエルフの思想と理念があったわけだ。
それはともかく、俺にはどうしても確かめたいことがあった。
「フィードリッド」
「ん? なんだ?」
「アデライト、という名に憶えはないか?」
「フム。エルフの里ではそう珍しくもない名だが」
「あんたの娘の名前だよ」
フィードリッドの目がすっと細まった。
「ワタシの……? そうか。『ユグドラシル・レコード』には、ワタシがお前を婿殿と呼んでいる記憶があった。ワタシに娘はいないが、世界が創り変えられる前のワタシにはいた。その名がアデライトだと?」
「ああ」
フィードリッドが知らないとなれば、やっぱりこの世界にあの人はいないんだろう。
覚悟していたこととはいえ、やっぱり辛い。
「愛されていたのだな。ワタシの娘は」
「……ああ」
あの人の笑顔。知性ある言葉。眼鏡の奥の眼差し。そして大きなおっぱい。
思い出すだけで幸せな気持ちになるし、もう二度と会えないと思うと、あまりにも虚しくなる。
オーサがぱんぱんと手を叩く。
「辛気臭い話はやめようでやんす。ここは、これからどうするか。何を考え、いかに行動するか。そういう建設的な会議の場でやんすよ」
「ああ、そうだな。ロートス、また後で話そう。ワタシの娘がどんなエルフだったのか。気になるんだ」
エルフっていうか、ハーフエルフだったけどな。
「話を進めていいナリか?」
「頼むでやんす」
エルフ達も頷く。
「我らは捜索の甲斐あって、ロートス・アルバレスを見つけられたナリ。創世前の記憶を持つ人物は残り二人。うち一人はすでに見つかり、こっちに向かっている途中ナリ。もう一人は――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺は思わず副長の話を遮った。
「どうしたナリか?」
「前世界の記憶を持ってるのって、俺だけじゃないのか?」
「貴様だけじゃないナリ。少なくとも『ユグドラシル・レコード』にはそう刻まれているナリよ。創世前の記憶を持つ者は、わかっているだけで三人ナリ」
「三人……そんなにいるのか」
俺は公爵家の力をできる限り使ってそういった情報を集めようとしたが、ついぞその痕跡すら見つけることができなかった。
デメテル最大勢力の家門といっても、限界はある。世界樹のとんでもパワーに比べれば大したことはないってわけだ。
「話を戻すナリ。最後の一人は見つかってはいるが、まだ接触できていないとのことナリ。その人物はグランブレイドの王族のようで、簡単には接触できそうにないナリ」
「それは、厄介でやんすね。どうしたものか」
グランブレイドとな。
デメテルの隣国で、ここ十数年で興った新興国だったはずだ。デメテルの皇帝ヴィクトリアが後ろ盾になったということで、ほぼ属国的な立場だと聞いている。
「なんとかなるかもしれないぞ」
俺は思い付きを口にする。
「どういうことナリか」
「俺はデメテルの筆頭貴族であるアルバレス公爵家の人間だ。グランブレイドの王族くらいなら、国交を理由に接触できるかもしれない」
「それは朗報でやんすな!」
「今すぐ確約はできないけどな。一度、公爵に話をしてみるよ」
「頼むでやんす」
そんな感じで、今回のエルフ達の会議は進んでいった。
ほとんどの議題で、俺はただ聞いているだけだったが、エルフ達が本当に世界をなんとかしたいという気持ちは伝わってきた。
前世界を取り戻す気概を感じる。
会議が終わった後、この場には俺とオーサとフィードリッドのみが残った。
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