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地獄耳で盗み聞き

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 開けた空間には、二人の人影があった。イキールと、もう一人は背の高い女だ。

「首尾はどうや? ガウマン侯爵令嬢殿?」

「……だめね。『ジェネシス』の方にも足を運んでみたけれど、これといった収穫はなかったわ。メテオ・オーガほどのモンスターが大量発生しているなら、まず確実にペネトレーションが起きているはずなのに」

「なんや。無駄足やったっちゅーわけかいな。ま、わても人のこと言えんわな。この『エクソダス』も、けったいなジェリーグーがおる以外にはなんもおかしなところあらへん」

 ペネトレーション? なんだそりゃ。
 いや、それよりイキールと一緒にいる女、見覚えがあるぞ。
 あれは前世界でS級冒険者だったオー・ルージュだ。立派な槍を持っているのはこっちでも変わっていないようだ。

「でも、ダンジョンの魔力に歪みが生じているのは確かよ。その証拠に、ゲートから繋がる座標が乱れてる」

「せやけど痕跡はない。なかなか尻尾つかませてくれへんもんやなぁ」

「女神の力が弱っている今、彼らにとって痕跡を消すくらい児戯にも等しいでしょうからね」

「せやな。ま、最奥部まで行ってみんことにはなーんもわからへん。モンスターは粗方つぶしたし、このまま攻略してしまおうや」

「ええ。けど、その前にやることができたわ」

「奇遇やな。わてもや」

 次の瞬間、ルージュが投擲した五本のナイフが、俺達が隠れている岩肌に突き立った。

「なんやネズミが紛れこんどるみたいやな」

「コソコソしてないで出てきなさい。私達からは、逃げられないわよ」

 隣のシエラが青ざめる。両手で口を押さえたまま、俺に縋るような視線を送ってきた。

「仕方ない。出ていこう」

 それが最善だ。それに、俺もあいつらに聞きたいことができた。
 俺とシエラはゆっくりと歩き、イキール達に姿を見せた。

「二人やと? 一人じゃなかったんかいな」

「あなた……」

 イキールが俺を見て目を見開く。

「なんや、知り合いか?」

「知り合いってほどじゃないわ」

 イキールはふんと鼻を鳴らす。

「おいおい。寂しいこと言うなよ。この前ちゃんと挨拶してくれただろ?」

「ナニモンや? 小僧」

 ルージュが槍の穂先を俺に向けてきた。先端恐怖症じゃなくてよかった。

「俺はロートス。ロートス・アルバレスだ。あんたとは初対面だが、俺の名前くらいは知ってるだろ?」

「なんやて? アルバレス言うたら……公爵家やないか。なんでそないなモンがこんなとこにおるんや」

「通りすがりだ」

「そんな言い訳が通用すると思うとるんか」

「マジなんだよ。帝都に向かう途中だったんだが、このダンジョンの異変のせいで予定していたルートが通行止めになっていてな。放っておくのもなんだから、調査をしにきたってわけだ」

「小公爵みずからがか? そんなアホな話あるかい」

「目の前の現実を受け入れられないのか?」

「ああそうや。この世界には、真実の皮を被ったウソがぎょーさんあるからなぁ」

 言いながら槍を構えるルージュ。

「ちょっと、何をするつもり?」

 イキールが眉を顰める。

「わてらの話を聞かれたんや。公爵家の長子かなんや知らんが、生かしてはおけん」

「消すの? 大事になるわよ」

「しゃーないやろ。わてらの動きを知られる方がよっぽど支障が出る」

「……それもそうね」

 あろうことか、イキールまで剣を抜いた。

「おいおい……正気か? 公爵家の跡取りを殺すって」

「心配あらへん。あんたはモンスターとやりあって戦死っちゅー扱いになる。ちょうどええ場所や」

 なるほどな。
 こいつらには、大貴族の長子を手にかけてまで守りたい秘密があるってことか。

「シエラ。下がれ」

「は、はい」

 俺は腰の剣を握る。

「一つ聞きたいんだが……ここや『ジェネシス』に異変を起こしたのは、お前らなのか?」

「なんやて?」

「イキール嬢。あんたがわざわざ自分の領地から遠く離れた公爵領のセーフダンジョンまで来たことには違和感があった。『ジェネシス』に細工をして、メテオ・オーガを湧かせた可能性もある」

「……言う必要はないわ」

「そうかい。まぁ、そうだろうな」

 ハナから簡単に聞き出せるとは思っちゃいない。

「お前らをコテンパンにして、ゆっくり話を聞かせてもらうとするか」

「抜かせ、こんガキ!」

 ルージュとイキールが揃って俺に迫ってくる。
 薄暗い洞窟での苛烈な戦闘が、今始まった。
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