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作戦開始

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 その日の夕方に、作戦は決行された。
 俺は単独で敵地に潜入しており、現在はとある廃城の壁を登っているところだ。

 ここがどこかというと、なんと王国の旧王都ブランドンである。
 戦争によって廃墟とした都市。なるほど、テロリストの根城にするには最適だろう。

『ロートス。聞こえるか』

 腰につけた念話灯から響いたのは、帝国騎士団長カマセイ・ヌーの声だった。

「ああ。聞こえてる」

『大魔法の準備は整った。お前のとこのマルデヒット族の嬢ちゃん、大したもんだな』

『ご主人様ー。聞こえてますかー?』

 サラの声も聞こえてくる。

「サラ、問題ないか?」 

『ばっちりです。ボクの魔力があれば、大魔法の十や二十は朝飯前なのです』

「はは。そんな連発するもんでもないけどな」

 俺は崩れた城壁を軽やかに登っていく。

『二年前に撃てなかった大魔法を今度こそ成功させるぜ。標的は奇しくも同じブランドンだ』

「あの時は王都だったが、今はテロリストのアジトだ」

『遠慮なくぶっ放せる』

「違いない」

 廃城の尖塔に上ろうとしたところで、大きな物体と轟音が頭上を通過していった。
 俺は視線を上げる。

「飛空艇? あんなもんまで持ってるのか」

『うちから鹵獲したものだろう。ツカテン市国独立戦争の時、何機か奪われた』

「厄介だな」

『なに。もうすぐなくなるんだから関係ないぜ』

 飛空艇は高度を下げ、旧魔法学園の講堂前広場に着陸した。

『誰が乗ってる? ティエスって奴か?』

「わからない。それらしい姿は見えないが……いや」

 俺は〈妙なる祈り〉の力で視力をアップさせる。視力三十くらいにはなったはずだ。
 飛空艇から降りてきたのは数名。

 浪人風の男。あれはムサシだ。あいつもネオ・コルトに入ったのか。
 それと、小太りの中年男。ティエス・フェッティ。

「二人降りてきた。クィンスィンの侍とティエスだ」

『ビンゴ。情報は確かだったな。いつでも撃てるぜ。嬢ちゃんも痺れを切らしてる』

「待て。まだ降りてくる」

 続いて飛空艇から降りてきたのは、ごてごてした白い法衣を纏った老人だった。知らない顔だ。青い髪と長い髭が特徴的だった。

「青い髪のジジイが一人。聖職者っぽいな。取り巻きに守られているところを見るに、お偉いさんのようだけど」

『青い髪だと? おいロートス。その老人の服に紋章がないか?』

 俺は目を凝らす。

「剣と重なった百合のマークがある」

『……なんてこった』

 カマセイが頭を抱えている姿が見える様だ。

『そのお方は、聖ファナティック教会の教皇猊下だ』

「大物だな」

『教会がネオ・コルトと繋がっていたのかよ』

「帝国の信頼も地に堕ちるか」

『いんや。そもそも皇帝陛下と教会は仲が良くない。教皇がネオ・コルトにいるのも、陛下を牽制するためだろうな』

「派閥争いってのはいつも厄介だ……待て」

 教皇に続いて、もう二人降りてくる。
 金髪の精悍な少年。尊大な面持ちのイケメン。そして、それに従う長身の騎士。

「……あの野郎」

 イキール・ガウマンと、従者リッターの姿が、そこにあった。
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