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 それまでの凛とした面持ちから、ぱっと花が咲いたような笑顔になる先生。

「きゃー! ロートスさん助けてー! このままじゃ敵に囲まれてやられちゃいますーっ!」

 高い声で助けを求めている。どうしてこのタイミングでお茶目モードに。
 侍たちがざわつく。全員が振り返り俺を見つけると、一斉に血相を変えた。

「ロートス・アルバレスだ!」

 ある者は恐怖し、ある者は激怒し、ある者は絶望していた。

「見つけたぞ! 斬れっ! 斬れぇいっ!」

「うおおおおおおおぉお! 死ねぇッ!」

 侍達が威勢に躍りかかってきた。その意気たるや、まるで激安セールになだれ込む主婦達のようだ。
 ほとんど音を置き去りにして迫った侍達を、俺は指先一つでダウンさせる。数十人の侍は刹那にして気を失った。

「他愛なし」

 格好をつけて呟くと、アデライト先生が抱き着いてきた。

「こわかったー。もうダメかと思いました。ロートスさん、助けてくれてありがとうございます」

「いやいや、今の今まで圧倒してたやんあなた」

「見間違いじゃないですか?」

「見間違いだったかもしれない」

「ふふ」

 アデライト先生の可愛らしい顔を見ていると、どっちでもよくなってきた。

「冗談ですよ。前に言ったじゃないですか。私は根源粒子に触れたと。そのおかげで、魔法の解析が進んで実力がアップしたんです」

「実力がアップって……上がり幅が尋常じゃなかったんですが」

「世界の根源を理解するということは、それだけ世の本質に近づいたってことです。今の私は、魔法だけなら女神にだって負けませんよ」

「すご」

「あなたにつり合う女でありたいですから」

 もう十分すぎるほどいい女だぜ。
 さて、このままずっと抱き合っていたいが、状況がそれを許さない。

「エライア騎士団は全滅か」

「皆さん息はあります。医療魔法をかけておきましたから。このままでも命に別状はないはずです」

「さすが先生」

 よかった。コーネリアが団長を努めるエライア騎士団は、セレンの親衛隊だからな。なくなってもらっちゃ困る。

「この襲撃を止めないと」

「ええ。行きましょうロートスさん」

 俺達は玉座の間を後にし、敵を無力化しながら内郭まで戻ってきた。
 ここではネルランダー率いるサラマンダー部隊が戦っていたはずだが、どうなっただろうか。

「ロートスさん。あれを」

 先生が城郭の上から広場を指さす。
 赤い戦衣装を来た色黒の男達が、見るも無残な骸を晒していた。

「そんな……サラマンダー部隊が全滅だと?」

 たった一人、最後に残ったネルランダーが孤軍奮闘しているが、全身傷だらけだ。
 ネルランダーを追い詰めるのは、なんと十代前半くらいの少女だった。

「あいつは」

 あのおかっぱ頭には見覚えがある。
 クィンスィンの首領。イーグレット・キャッスルの城主。そしてツカテン市国のトップ。
 ジョッシュだ。

「おりゃおりゃ。音に聞く『炎術士』ネルランダー・バラモンも、所詮はこの程度じゃったか!」

 両手に太刀を握りぶん回すジョッシュは、ネルランダーが放つ炎のすべてを切り裂いている。ネルランダーの炎も並大抵じゃないが、ジョッシュの剣術はその遥か上をいっていた。

 あいつ、あんなに強かったのかよ。
 このままじゃ、ものの数分でネルランダーは確実に死ぬ。
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