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気負わず、驕らず

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「まずは、現状を確認し合おうかと思うんだけど~。いかがかな~?」

 アルドリーゼが言うと、すぐさまネルランダーが手を挙げた。

「オレから話してもいいかい?」

「いいよ~」

「ありがとう」

 ネルランダーはおもむろに立ち上がると、壁に貼り付けられた大きな地図に歩み寄る。
 そして、ハンコ―共和国とグランオーリスの国境線を指さした。

「我が国の戦線における最大の要所はここ。マハトス河中流、流れが二つに分かれて川幅が狭くなる、唯一の渡河ポイントだ」

 マハトス河とやらは、かなり大きな河のようだ。ちょうど国境をなぞるように流れている。

「長らく駆け引きを続けているが、なにぶん敵の防御が固くてね。中州に辿り着いては撃退されを繰り返している。お互い兵の消耗はあるが、決定打には欠けている。もどかしい限りだよ」

 攻めにくく、守りやすい地形のようだ。グランオーリスが持ちこたえているのは、こういった理由もあるのか。

「兵の数はこちらが七万。奴さんは、おそらく三万程度といったところか。驚いたことに、王女様が直々に指揮を取っているみたいだ」

 セレンが指揮官なのか。まじか。あいつなら大丈夫だろうけど、心配だ。
 俺は努めて心情を顔に出さないようにする。
 その代わり、反応を示したのはエレノアだった。

「グランオーリスの王女といえば」

「セレン・オーリス王女殿下だ。聖女様。冷静沈着で、下手な男より勇敢。なにより可憐なところが、とても素敵だったね」

「そうですか」

 そっけない物言いであったが、エレノアの瞳の揺らぎをネルランダーは見逃さなかったようだ。

「あれ? 興味ある? もしかしてお知合い?」

「いいえ」

 今、エレノアは何を考えているのだろうか。
 エレノアとセレンは面識がある。魔法学園にいた頃、一緒にハナクイ竜と戦ったこともある。少しでも、情を感じているんだろうか。そういう風に見えてしまうのか、俺の希望的観測に過ぎないのか。

「オレ達の悩みの種は、まさしくこの王女様さ。本人もベラボーに強いし、指揮能力にも優れている。兵の士気も高いし、とんがった冒険者達をうまく扱ってる。このままじゃジリ貧ってところかな。だから、今回の会談を実りあるものにしたいと、切に願っているんだ」

 一通り話し終えて、ネルランダーは席に戻る。

「ふ~ん。熱き革命家『炎術師』ネルランダーでも苦戦するんだね~。革命の時には、単騎で乗り込んで城を落としたって有名なのに~」

「はは。オレも歳を取ったからな。若い頃の無鉄砲な勢いはないさ」

 自嘲気味に苦笑するネルランダーだが、そこに卑下のニュアンスは感じられない。

「ふん。かの『炎術師』も歳には勝てぬアルか」

 リュウケンが嘲笑ったのに対し、ネルランダーは指を振って舌を鳴らす。

「確かに力は衰えたが、その代わり経験と知恵を身に付けた。強さという点において言えば、俺はまだまだ成長期だぜ」

 グランオーリスの敵なら一応俺にとっても敵ではあるが、ネルランダーという男には好感が持てる。
 自分を過小評価する人間は、周りからも舐められるもんだ。彼はそうじゃないし、かといって大きく見せようともしていない。自然体で泰然自若の精神を持つ人物だ。
 一国の代表に相応しい人間性だと思う。あくまで個人の感想だが。

「ハンコーの状況は理解したアル。次は大国の主である朕から、戦況を話してやるアルよ」

 ネルランダーとは対照的な君主である、リュウケンが偉ぶって口を開いた。
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