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二者択一

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「やったでござるッ!」

 ムサシは喜色を浮かべ、声を張った。
 だが。

「甘いな」

 俺はムサシの顔面を拳でぶったたき、広間の端っこまで吹き飛ばした。
 変な声をあげて壁に激突したムサシは、信じられないような目を俺に向ける。

「そんな……確実に心の臓を貫いたはずでござる……!」

「あいにく」

 俺は胸に刺さった刀を抜き、それを握りつぶす。

「スキルじゃ俺を殺せねぇよ」

 俺は肉体の外側だけじゃなく、内臓も瘴気でカバーしている。ムサシは〈妙なる祈り〉的な力によってスキルを強化しているが、それがスキルである以上は俺に通用しない。
 喰らったらやばいと感じたのは気のせいだったようだ。
 超速で再生する俺の胸を見て、ムサシは首を横に振った。

「人間じゃないでござる……」

「はっ。傷つくぜそれは」

 俺以上に人間らしい男が、一体どこにいるってんだ。

「悪いが、俺も全力でいかせてもらう。あんた相手に手加減してちゃ、こっちの身が持ちそうにないしな」

 魅了の浄化自体は簡単だが、時間がかかる。ムサシを気絶でもさせれば、あとはレオンティーナがやってくれるだろう。

「かかってくるでござる! あのバチクソめんこいおなごのためにも、拙者は負けるわけにはいかんでござる!」

 ムサシは凄まじい覇気を纏い、俺に向かって突進してくる。

「惚れた女の為に命をかける、その心意気は買うけどな」

 俺は改めて、剣を構える。

「手玉に取られてちゃ世話ないぜ。童貞侍」

 俺の剣と、ムサシの刀が、天文学的なエネルギーをもって激突した。
 刃の接触点からは衝撃波が生まれ、広間の柱や壁に傷をつけていく。
 ムサシの力は凄まじい。間違いなく英雄の一人に数えられる実力だ。

「貴様ァッ! 拙者を愚弄するでござるかッ!」

 刀が生む圧力が、さらに強くなる。

「拙者、童貞ではござらんッ!」

 血走った目で俺を睨みつけ、歯をむき出しにするムサシ。まるで仁王像のような表情。純然たる憤怒が、俺に叩きつけられる。

「魅了されたくらいで股間を膨らませる男が、童貞じゃないわけがねぇんだよっ!」

 俺は負けじと剣を押し返す。
 瘴気が放つ漆黒のオーラと、『ものすごい光』の白光が混ざり合い、俺の剣を彩った。
 壮絶な鍔迫り合い。

 ムサシが童貞か、否か。
 奴の過去を知らない俺が証明できることじゃない。
 それはムサシも同じ。童貞か、そうじゃないかは、あくまで自己申告によるものだ。どれだけ主張しようと、非童貞であることを証明することはできない。

 だからこそ、戦いで決めるしかない。
 勝てば官軍とはよく言ったものだ。勝った方の主張が事実になる。歴史に刻まれる。
 俺はこの戦いに勝利し、ムサシが童貞であることを証明するんだ。

「うおおおおおおおおおおおぉおっ!」

 俺の雄叫びが木霊し、広間が眩い光に包まれる。
 そして、勝負は決した。
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