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名は体を表さない

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 街の中心部に戻った俺の目に移ったのは、無数の暴徒達と、それを鎮圧するドーパ民国軍、そして帝国騎士団だった。

「ロートス殿!」

 騎乗して部隊の指揮を取るフランクリンが、俺を見つけて駆け寄ってきた。

「大変なことになりました」

「見りゃわかるって」

「いえ。どうやらこの街に限らず、国内の主要な都市で同様の暴動が起こっているようなのです」

 エルゲンバッハの口ぶりからして、事実なんだろうな。
 ここまで大規模な暴動、それも離れた場所で同時に起こっているとなると、メイの『魅了のまなざし』だけのせいとは思えない。やっぱり黒幕は親コルト派だったのか。

「我々も鎮圧に当たっていますが、手に負えません。暴徒の数が多すぎますし、中には強力なスキルを持つ者もいます」

 なるほど。強い兵力を、エルゲンバッハが紛れ込ませていたんだろう。戦争中だってのに、防諜はどうなってんだ、まったく。

「それだけじゃありません。一人、とんでもなく強い化け物のような男が――」

 フランクリンが言い終わる前に、ドーパ民国軍の戦列が木っ端微塵に弾け飛んだ。

「なっ――」

 精強な兵士達を蹴散らすのは、やっぱりエルゲンバッハだった。

「奴です! 奴を止めなければ、我が軍は一人残らず殲滅されてしまう!」

「俺に任せろ」

 エルゲンバッハの力に対抗するには、同じく〈妙なる祈り〉を源流とする力が必要だ。もしくは神性の力。瘴気もそれにあてはまる。

「死ねぇ! ロートス・アルバレス!」

 エルゲンバッハの全身から放たれた『激震』が、狂気的な威力を帯びて俺に迫る。その過程で、近くにいる民国軍兵士達が肉体をバラバラに引き裂かれて死んでいった。

「クソっ!」

 俺は『激震』の波動を瘴気の盾で受け止める。間髪入れず、エルゲンバッハのパンチが俺の顔面に迫った。

「その力! 漆黒の瘴気! 神の山に封じられた女神の力だなぁ!」

 なんとか拳を受け止めるも、弾くことも受け流すことも出来ず、押し合いの形になる。

「マーテリアを知ってるとはな。親コルト派ってのは、どこまで情報を掴んでやがるんだ?」

「言うまでもない! すべてよぉッ!」

 俺とエルゲンバッハの激突のエネルギーの余波が、街の舗装路に網目状の亀裂を走らせた。地割れとなって大地を隆起、あるいは沈下させていっている。

「すべて知ってるだって? だったら、なにと戦うべきかも分かってるはずだろうが! 俺を殺して何になるって言うんだ! おお!」

「だまらっしゃい! 王国の正義とは、公明正大である! 秘密裏に暗躍する国家も、組織も、神も! すべて我らの敵なのだぁ!」

「お前が一番暗躍してんだよなぁッ!」

「正義のためだから良いのだあァッ!」

 エルゲンバッハの拳の威力は、どんどん強くなっている。
 こいつは、正義と信じるもののためなら命だって捨てる覚悟だ。その正義が揺らがない限り、この力は天井知らずに強くなっていくだろう。

「ぬおおおおおおおおおおッッッッ――!」

 まずい。
 このままじゃ押し負ける。
 瘴気と『ものすごい光』を自在に操れるようになったといっても、神由来の力であることに変わりはない。人が本来持つ究極の力、いわゆる意志の力には及ばない。
 くそ。俺の中の〈妙なる祈り〉は、どこにいっちまったんだ。あれさえあれば、こんなもん余裕で押し飛ばせるってのに。

「しねぇぇぇ!」

 エルゲンバッハの力が最高潮に達する。
 そして、俺はついに耐えられなくなり、崩される――その直前。
 エルゲンバッハの背中から、夥しい量の鮮血が迸った。

「背中ががら空きだぜ。ジジイ」

 帝国騎士団長カマセイ・ヌーが、その大剣をもってエルゲンバッハの背中を切り裂いていた。
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