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第四部、イグニッション
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コッホ城塞、カフェテリア。
かつては多くの構成員で賑わっていただろうその場所は、埃っぽい淀んだ空気で満たされていたと思いきや、昨日まで使われていたかのように片付き、手入れがされていて綺麗だった。
隅っこの席に腰を下ろしたアデライト先生は、膝の上で手を揃えてにこりと微笑んだ。
「ロートスさんが来ると聞いて、あの子が急いでお掃除をしてくれたんですよ」
視線の先には、調理室でせわしなく動くのっぺらぼう少女の姿がある。
ありがたいことだ。
俺がこの世界に戻ってきたときに鍛えてくれたり、こうして甲斐甲斐しく掃除をしてくれたり、あの子にはなんやかんや世話になっている。
「マシなんとか五世が作り出した存在だと言っていたけど、あの子はいったい何者なんですか?」
「彼女は、いわゆるホムンクルスです」
「ホムンクルス?」
「ええ。神の被造物が人だとするならば、ホムンクルスはその業を模倣した人の被造物。マシーネン・ピストーレ五世が神たらんとするために作り出した十二の生命。その最高傑作が、彼女なのです」
「なるほど。あいつも中々あくどいことやってんな。生命を作り出すなんて、人には過ぎた行いだろうに」
「あら? そうですか?」
アデライト先生はふわりと目を細めて、
「アプローチの仕方が違うだけで、太古より人は命の営みを続けていますよ? 実は私も、あなたと一緒に新たな命を生み出したいと思っています」
「先生。そりゃちょっと話が違うでしょ」
俺達は仲睦まじく笑い合う。
完全に新婚夫婦の雰囲気だ。アデライト先生とは婚約者だから、そういう空気になるのも不思議ではない。
「おいおい……状況わかってんのかよ、あんたら」
そこにやってきたのは、シンプルなワンピースを来たマホさんだった。隣にはアイリスもいる。
「マホさん。もう体は大丈夫なんですか?」
「ああ。おかげさまでな。ここの設備には驚かされるぜ。あんだけ疲れてたってのに、数時間休んだだけで絶好調だ」
「なによりです」
マホさんとアイリスは、俺と先生の向かいに腰を下ろす。
「デケェ戦争が始まっちまったみてぇだな」
その一言で、場の空気が一気に引き締まる。
「お前さん、これからどうするつもりだ?」
俺の目をじっと見つめてくるマホさん。二年前よりも凛々しくなった彼女を見ていると、同時にエレノアのことも思い出される。
「この戦争は、女神の干渉が大元の原因です。だから、俺は奴らを止めるために動きます」
マーテリアとファルトゥール、そしてエレノアの中にあるエンディオーネの神性。それらがこの世界の主導権争いをしている。それが、人を使っての代理戦争という形で現実に表出しているわけだ。
そして俺の存在が、その争いに拍車をかけている。
「止めるために動くったって、具体的にどうするつもりだ? 昔からお前さんはいつも行き当たりばったりで何かを深く考えてる感じがしねぇんだ。今回も考えなしに突っ走るつもりかよ?」
む。痛いところを突かれてしまった。
確かにその通りだ。二年前、アインアッカ村を旅立ってからというもの、いい加減な策でやってきたのは否めない。ゴリ押しというか何と言うか。
「アタシに提案がある」
アデライト先生に知恵を借りようかと思った矢先、マホさんが先を制した。
「つーか。お前さんを待ってたのも、これを伝える為だったんだよ」
「というのは?」
「エレノアのことだ」
深刻な表情と声色。
「あいつを、殺してやってくれねぇか」
マホさんの口から出たのは、にわかには信じられない言葉だった。
かつては多くの構成員で賑わっていただろうその場所は、埃っぽい淀んだ空気で満たされていたと思いきや、昨日まで使われていたかのように片付き、手入れがされていて綺麗だった。
隅っこの席に腰を下ろしたアデライト先生は、膝の上で手を揃えてにこりと微笑んだ。
「ロートスさんが来ると聞いて、あの子が急いでお掃除をしてくれたんですよ」
視線の先には、調理室でせわしなく動くのっぺらぼう少女の姿がある。
ありがたいことだ。
俺がこの世界に戻ってきたときに鍛えてくれたり、こうして甲斐甲斐しく掃除をしてくれたり、あの子にはなんやかんや世話になっている。
「マシなんとか五世が作り出した存在だと言っていたけど、あの子はいったい何者なんですか?」
「彼女は、いわゆるホムンクルスです」
「ホムンクルス?」
「ええ。神の被造物が人だとするならば、ホムンクルスはその業を模倣した人の被造物。マシーネン・ピストーレ五世が神たらんとするために作り出した十二の生命。その最高傑作が、彼女なのです」
「なるほど。あいつも中々あくどいことやってんな。生命を作り出すなんて、人には過ぎた行いだろうに」
「あら? そうですか?」
アデライト先生はふわりと目を細めて、
「アプローチの仕方が違うだけで、太古より人は命の営みを続けていますよ? 実は私も、あなたと一緒に新たな命を生み出したいと思っています」
「先生。そりゃちょっと話が違うでしょ」
俺達は仲睦まじく笑い合う。
完全に新婚夫婦の雰囲気だ。アデライト先生とは婚約者だから、そういう空気になるのも不思議ではない。
「おいおい……状況わかってんのかよ、あんたら」
そこにやってきたのは、シンプルなワンピースを来たマホさんだった。隣にはアイリスもいる。
「マホさん。もう体は大丈夫なんですか?」
「ああ。おかげさまでな。ここの設備には驚かされるぜ。あんだけ疲れてたってのに、数時間休んだだけで絶好調だ」
「なによりです」
マホさんとアイリスは、俺と先生の向かいに腰を下ろす。
「デケェ戦争が始まっちまったみてぇだな」
その一言で、場の空気が一気に引き締まる。
「お前さん、これからどうするつもりだ?」
俺の目をじっと見つめてくるマホさん。二年前よりも凛々しくなった彼女を見ていると、同時にエレノアのことも思い出される。
「この戦争は、女神の干渉が大元の原因です。だから、俺は奴らを止めるために動きます」
マーテリアとファルトゥール、そしてエレノアの中にあるエンディオーネの神性。それらがこの世界の主導権争いをしている。それが、人を使っての代理戦争という形で現実に表出しているわけだ。
そして俺の存在が、その争いに拍車をかけている。
「止めるために動くったって、具体的にどうするつもりだ? 昔からお前さんはいつも行き当たりばったりで何かを深く考えてる感じがしねぇんだ。今回も考えなしに突っ走るつもりかよ?」
む。痛いところを突かれてしまった。
確かにその通りだ。二年前、アインアッカ村を旅立ってからというもの、いい加減な策でやってきたのは否めない。ゴリ押しというか何と言うか。
「アタシに提案がある」
アデライト先生に知恵を借りようかと思った矢先、マホさんが先を制した。
「つーか。お前さんを待ってたのも、これを伝える為だったんだよ」
「というのは?」
「エレノアのことだ」
深刻な表情と声色。
「あいつを、殺してやってくれねぇか」
マホさんの口から出たのは、にわかには信じられない言葉だった。
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