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鍵の行方はいずこやねん

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 数日後の話だ。
 一通り検査を終えた俺は、亜人街の街並みを歩いていた。
 久しぶりのお出かけだ。ずっと研究室にこもりきりだったからか、空気がやけに美味く感じる。

「あなたから見て、この街はどう?」

 隣を歩くセレンが、じっとを俺を見上げている。

「ああ。笑顔と活気に満ちてる。街が繁栄してて、清潔だっていうのも大切だけど、一番はそこに住む人達が楽しんで暮らせているかどうかだ。そういう意味で、この街はすごいいいと思う。亜人連邦の見本にしたいくらいだ」

「そう」

 簡単な返事だったが、セレンはどことなく嬉しそうだ。

「あれ」

 俺の袖をつまんだセレンが指さしたのは、通りに出店している屋台だった。

「食べるか?」

 頷くセレン。
 俺達は屋台の店主である獣人の親父さんに声をかけ、よく分からない肉の串焼きを購入した。
 食べ歩きをしながら、俺達は街を練り歩く。
 俺は亜人連邦の使者として、亜人街の視察をしているのである。肩書がある以上、一応ちゃんと仕事をしておかないとな。そういう責任感も大事だ。

「師匠から聞いた。神の山、延期になったって」

「ああ。そうなんだ。瘴気に侵されて死ぬことはないらしいからな。ちゃんと準備して行くつもりだ」

「準備って?」

「鍵が必要なんだよ。エストの封印を解く〈八つの鍵〉が」

「それが、あたし?」

「ああ。たぶん」

 鍵は決まった人物じゃない。俺と関わりの深い人物なら誰でもいいという話だった。具体的には〈妙なる祈り〉の影響を色濃く受けた人物ってことだ。
 つまり、二年前、俺がこの世界を一度去った以前の関わりが重要である。
 簡単に言えば、俺のことを好きな奴、だったか。

「なぁセレン」

「なに」

「おまえ、俺のこと好きか?」

「……どうして?」

 珍しく、返事までに間があった。
 よく考えずに聞いたは良いもののなんと答えようか迷った。
 俺のことを好きだったら鍵だとは、なんとなく言いにくい感じがする。感情を利用しているようだから。
 とはいえ、セレンが鍵になり得るかどうかというのは重要な問題だ。思えば、二年前から気になっていることだし。

「質問してるのはこっちだ」

 だから、そんな感じで返すしかなかった。

 翡翠色の瞳が俺を見上げ、それからふいっと前を向く。

「あたしには好きという感情がよくわからない」

 淡々とした答え。

「でも、あたしとコーネリアを助けてくれたあなたのことは、信頼している」

「そっか。うん、ありがとな。それで十分だ」

 すくなくとも、人として好感を持ってくれているということに違いない。
 となると、セレンも鍵の一人に数えてもいいはずだ。

 改めて、思い浮かぶ人達を挙げていこう。
 サラ。
 アイリス。
 アデライト先生。
 ウィッキー。
 ルーチェ。
 オルタンシア。
 セレン。
 皆に俺のことを思い出してもらえたら、このあたりは固いはずだ。

 これで七人。
 あと一人は、一体誰になるか。

 エレノアか。聖女になったあいつはちょっと厳しいかもしれん。
 なら、エルフの誰かとか? うーん、なくはないといったところか。
 ヒーモという可能性もあるし。
 これは俺の願望が大きく混じっているが、アカネという線も捨てがたい。あいつ自身は否定していたけど、あの時は今と状況が違うしな。

 考えれば考えるほど、最後の一人が確定しない。
 どうしたものか。

「殿下! こちらにおられましたか!」

 そんな折、コーネリアが急いだ様子で現れた。
 なにやら、只事でない雰囲気だった。
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