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王女セレン

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 それからすぐ後のことだ。
 俺はのびた騎士達で埋め尽くされた野営地を眺めながら、どうしたものかと頭を抱えていた。

 悩みの理由は、セレンの安否についてだ。
 こんな荒くれ者の寄せ集めのような騎士団で、本当に無事にメインガンまで辿り着けるのか、甚だ疑問である。
 まぁ、だからこそ俺とアイリスがついてきたのだが。

「あの……」

 一部始終を見ていたコーネリアが、おずおずと話しかけてくる。

「すまんな。大事な部下達をこんな風にしちまって」

「……いえ。本来であれば私が為すべきことでした。手を煩わせてしまって、申し訳ありません」

 沈痛な表情。
 俺に対する罪悪感というよりは、自分自身の無力さを嘆いているようだ。

「心中察するが、へこんでる暇はないぞ。こいつらを率いてお姫様を守らなきゃならないんだ。あんたがな」

 コーネリアは俯いたまま答えない。
 そんな時だった。
 離れた位置にある馬車の扉が、がちゃりと音を立てて開かれた。
 姿を見せたのはセレン。藍色のワンピースに緑のケープ。おおよそ王女にふさわしくない質素な装いだった。
 アイリスが手を差しのべ、セレンの降車をエスコートする。

「殿下。いけません……降りては」

 ゆっくりとこちらに歩いてくるセレン。コーネリアがすかさず主に駆け寄る。

「殿下。どうかお戻りを」

「戻らない」

 ふるふると首を振るセレン。

「二度も助けられた。一国の王女として、あの人に礼を尽くすべき」

「しかし」

 コーネリアがちらりと俺を見る。
 まぁ、まだ完全には信用されていないわな。
 コーネリアの制止も聞かず、セレンは俺の前までやってくる。そして、スカートの裾を持ち上げて一礼した。

「グランオーリス王女。セレン・オーリス」

 ああ、知ってる。
 シンプルな自己紹介に、俺はかつて初対面だった頃を思い出した。
 あの頃に比べてぐんと成長したセレンは、王女にふさわしい神秘的な美貌を湛えている。

「ロートス・アルバレスだ」

 久しぶりだな、と内心で付け加える。
 セレンは手袋をはめた手で俺の手を取ると、真摯な無表情でじっと見上げてきた。

「あなたの誠意と献身、まことに大義。グランオーリスの王族として、ここに最大の感謝を表します」

 その所作はまさに王女。威厳があるといってもいいくらいに、堂々とした振る舞いだった。流石はマジモンのお姫様ってか。
 けど。

「いいよ。そういう格式ばったのは慣れてない。もっとラフにしてくれ」

 セレンはよく観察していなければわからないくらいのごくわずかな驚きを見せる。
 俺の振る舞いは明らかに無礼だが、騎士団を鎮圧したこともあってコーネリアも文句を言えない様子だ。ハラハラしながら俺とセレンを交互に見ている。

「わかった」

 頷くセレン。その細い指が、馬車を指す。

「あそこに来て」

 突然のお誘い。

「二人で話がしたい」

 コーネリアがぎょっとした。
 アイリスがあらと口元を押さえる。

 おおっとこれはまさか。
 なにかが、起こる予感がする。
 なにかが。
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