517 / 981
知らない天井だわ
しおりを挟む
次に目を覚ました時、俺はふかふかのベッドの上で仰向けになっていた。
心地よいまどろみの中で、窓から差し込む陽光を感じる。
「目覚めた、ようですな」
ここは、どこだ。
「誰ぞ。水を持って参れ」
ああ。この声はタシターン枢機卿か。
じゃあ俺は、まだこの人の都市にいるってことだ。
というより生きてるのかよ、俺。
少しずつ意識が覚醒していく。
体を起こし、渡されたグラスの水を飲み干すと、曖昧だった意識が一気にはっきりとした。
「ロートス殿。ご無事でなにより」
タシターン枢機卿は、深刻そうにベッド脇の椅子に座っていた。
豪奢な部屋。ここは枢機卿の居室だろうか。
「一時はどうなることかと思ったけど、流石はロートス・アルバレス。ちゃんと生き延びてくれたね」
ヒューズの声だ。奴は部屋の壁に背を預けて腕を組んでいた。
「俺は……どうなった……?」
自分の身体を見る。
呪いの痣は全身に広がり、肌色の部分はほぼない。壁の鏡に映る俺の顔は、半分が黒い痣に覆われていた。
「医者が言うには、生きているのが不思議なくらいの状態とのこと。こうして目を覚ましたのは、奇跡でしょうな」
「奇跡、か」
痛みはない。傷も治っている。斬り落とされた腕も、元通りの肉体に戻っている。
いったい俺の身体に、何が起こったのか。
そんなことを考える暇もなく、タシターン枢機卿が椅子から立ち上がった。その場に跪き、深く頭を垂れる。
「ロートス殿。我が街と民を守って下さり、衷心より最大の感謝を申し上げる。まこと、どれほど感謝してもしきれぬことです」
明瞭な声色で言い切る枢機卿。
俺はぽかんとする他ない。
「いや。俺は……実際ブラッキーを倒したのは、エレノアだし」
「もちろん理解しております。しかし、貴殿がいなければ聖女の到着まで持たなかったでしょう。十体のエンペラードラゴンを相手取るのは、いかに聖女といえど難しかったはず。あなたはそれを成し遂げられた。確かに聖女は尊い。しかしながら我らにとって、他国の使者でありながら命を賭して戦った貴殿こそ真の英雄です」
まさかそんな風に言ってもらえるとはな。当の民衆には、化け物呼ばわりされてたってのに。
「どういたしまして、と言うのが正解か?」
「少なくとも、私は光栄に存じます」
「エレノアはどこだ?」
「すでに姿を消していたと。聖ファナティック教会の聖騎士団を見たという報告が入っています。おそらくは彼らが聖女を連れて帰ったのでしょう」
「帝都か……」
結局、エレノアを連れてかえることはできなかった。
ちくしょうめ。
俺はエレノアの言葉を思い出す。
二年間、ほったらかしにしたツケが回ってきたってことか。情けない。
「ヒューズ」
「なんだい」
「俺の念話灯は無事か?」
「キミの懐に入ってたものなら、そこに置いてあるよ」
ヒューズの指がベッド脇のサイドテーブルを指す。
そこに置かれた念話灯を取ると、すぐに発信する。
『あっ。ご主人様! みんな、ご主人様から念話なのです!』
驚きと嬉しさが混じったサラの声が、念話灯から響いてきた。
心地よいまどろみの中で、窓から差し込む陽光を感じる。
「目覚めた、ようですな」
ここは、どこだ。
「誰ぞ。水を持って参れ」
ああ。この声はタシターン枢機卿か。
じゃあ俺は、まだこの人の都市にいるってことだ。
というより生きてるのかよ、俺。
少しずつ意識が覚醒していく。
体を起こし、渡されたグラスの水を飲み干すと、曖昧だった意識が一気にはっきりとした。
「ロートス殿。ご無事でなにより」
タシターン枢機卿は、深刻そうにベッド脇の椅子に座っていた。
豪奢な部屋。ここは枢機卿の居室だろうか。
「一時はどうなることかと思ったけど、流石はロートス・アルバレス。ちゃんと生き延びてくれたね」
ヒューズの声だ。奴は部屋の壁に背を預けて腕を組んでいた。
「俺は……どうなった……?」
自分の身体を見る。
呪いの痣は全身に広がり、肌色の部分はほぼない。壁の鏡に映る俺の顔は、半分が黒い痣に覆われていた。
「医者が言うには、生きているのが不思議なくらいの状態とのこと。こうして目を覚ましたのは、奇跡でしょうな」
「奇跡、か」
痛みはない。傷も治っている。斬り落とされた腕も、元通りの肉体に戻っている。
いったい俺の身体に、何が起こったのか。
そんなことを考える暇もなく、タシターン枢機卿が椅子から立ち上がった。その場に跪き、深く頭を垂れる。
「ロートス殿。我が街と民を守って下さり、衷心より最大の感謝を申し上げる。まこと、どれほど感謝してもしきれぬことです」
明瞭な声色で言い切る枢機卿。
俺はぽかんとする他ない。
「いや。俺は……実際ブラッキーを倒したのは、エレノアだし」
「もちろん理解しております。しかし、貴殿がいなければ聖女の到着まで持たなかったでしょう。十体のエンペラードラゴンを相手取るのは、いかに聖女といえど難しかったはず。あなたはそれを成し遂げられた。確かに聖女は尊い。しかしながら我らにとって、他国の使者でありながら命を賭して戦った貴殿こそ真の英雄です」
まさかそんな風に言ってもらえるとはな。当の民衆には、化け物呼ばわりされてたってのに。
「どういたしまして、と言うのが正解か?」
「少なくとも、私は光栄に存じます」
「エレノアはどこだ?」
「すでに姿を消していたと。聖ファナティック教会の聖騎士団を見たという報告が入っています。おそらくは彼らが聖女を連れて帰ったのでしょう」
「帝都か……」
結局、エレノアを連れてかえることはできなかった。
ちくしょうめ。
俺はエレノアの言葉を思い出す。
二年間、ほったらかしにしたツケが回ってきたってことか。情けない。
「ヒューズ」
「なんだい」
「俺の念話灯は無事か?」
「キミの懐に入ってたものなら、そこに置いてあるよ」
ヒューズの指がベッド脇のサイドテーブルを指す。
そこに置かれた念話灯を取ると、すぐに発信する。
『あっ。ご主人様! みんな、ご主人様から念話なのです!』
驚きと嬉しさが混じったサラの声が、念話灯から響いてきた。
0
お気に入りに追加
1,202
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる