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知らない天井だわ

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 次に目を覚ました時、俺はふかふかのベッドの上で仰向けになっていた。
 心地よいまどろみの中で、窓から差し込む陽光を感じる。

「目覚めた、ようですな」

 ここは、どこだ。

「誰ぞ。水を持って参れ」

 ああ。この声はタシターン枢機卿か。
 じゃあ俺は、まだこの人の都市にいるってことだ。
 というより生きてるのかよ、俺。

 少しずつ意識が覚醒していく。
 体を起こし、渡されたグラスの水を飲み干すと、曖昧だった意識が一気にはっきりとした。

「ロートス殿。ご無事でなにより」

 タシターン枢機卿は、深刻そうにベッド脇の椅子に座っていた。
 豪奢な部屋。ここは枢機卿の居室だろうか。

「一時はどうなることかと思ったけど、流石はロートス・アルバレス。ちゃんと生き延びてくれたね」

 ヒューズの声だ。奴は部屋の壁に背を預けて腕を組んでいた。

「俺は……どうなった……?」

 自分の身体を見る。
 呪いの痣は全身に広がり、肌色の部分はほぼない。壁の鏡に映る俺の顔は、半分が黒い痣に覆われていた。

「医者が言うには、生きているのが不思議なくらいの状態とのこと。こうして目を覚ましたのは、奇跡でしょうな」

「奇跡、か」

 痛みはない。傷も治っている。斬り落とされた腕も、元通りの肉体に戻っている。
 いったい俺の身体に、何が起こったのか。
 そんなことを考える暇もなく、タシターン枢機卿が椅子から立ち上がった。その場に跪き、深く頭を垂れる。

「ロートス殿。我が街と民を守って下さり、衷心より最大の感謝を申し上げる。まこと、どれほど感謝してもしきれぬことです」

 明瞭な声色で言い切る枢機卿。
 俺はぽかんとする他ない。

「いや。俺は……実際ブラッキーを倒したのは、エレノアだし」

「もちろん理解しております。しかし、貴殿がいなければ聖女の到着まで持たなかったでしょう。十体のエンペラードラゴンを相手取るのは、いかに聖女といえど難しかったはず。あなたはそれを成し遂げられた。確かに聖女は尊い。しかしながら我らにとって、他国の使者でありながら命を賭して戦った貴殿こそ真の英雄です」

 まさかそんな風に言ってもらえるとはな。当の民衆には、化け物呼ばわりされてたってのに。

「どういたしまして、と言うのが正解か?」

「少なくとも、私は光栄に存じます」

「エレノアはどこだ?」

「すでに姿を消していたと。聖ファナティック教会の聖騎士団を見たという報告が入っています。おそらくは彼らが聖女を連れて帰ったのでしょう」

「帝都か……」

 結局、エレノアを連れてかえることはできなかった。
 ちくしょうめ。

 俺はエレノアの言葉を思い出す。
 二年間、ほったらかしにしたツケが回ってきたってことか。情けない。

「ヒューズ」

「なんだい」

「俺の念話灯は無事か?」

「キミの懐に入ってたものなら、そこに置いてあるよ」

 ヒューズの指がベッド脇のサイドテーブルを指す。
 そこに置かれた念話灯を取ると、すぐに発信する。

『あっ。ご主人様! みんな、ご主人様から念話なのです!』

 驚きと嬉しさが混じったサラの声が、念話灯から響いてきた。
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