515 / 981
二年という歳月
しおりを挟む
爆音が轟く。
崩壊した都市が震えるほどの余波。鉄骨や瓦礫が軽々と舞い上がる。
俺とエレノアは互いに弾き飛ばされた。俺はなんとか着地。ブーツの底がアルファルトの大地を噛む。
エレノアは宙に浮いたまま。
視線が交錯する。
さっきまではわからなかったが、今の俺には理解できる。
エレノアの瞳が湛える感情を。
それは、絶望だ。
この世界で幸福になることへの望みが断たれた。そんな感じ。
「なにがあった」
エレノアの表情は変わらない。
「知ってるかしら。この世界には希望なんてないのよ。女神に支配され、エストに運命を縛られて、人が持つ本来の力は封じられてる」
「質問に答えろ」
「知っちゃったのよ。この世界がなにでできているのか」
「なに?」
「女神エンディオーネを取り込んだ時、彼女の記憶の一部が私の中にも流れ込んできたわ。この世界は……すでに終末を迎えつつあるの」
「どういうことだ」
「女神達がこの世界を創って幾星霜。すでに彼女達の加護は世界から失われてる。緩やかな崩壊へと進みながら、それでもエストが世界を縛ることでなんとか維持してる状態よ。人々は道理を見失い、争いばかり起こして邪見がはびこってる。なにが正しくてなにが間違っているのか。それを測るものさしを、誰も持ってはいない」
その声色は、すべてを諦めているかのようだ。
エンディオーネと同化したせいだけじゃないだろう。
この二年間、エレノアは戦場の真っ只中で戦争の現実を目の当たりにしてきたはずだ。
「心が、折れちまったんだな」
死と暴力が日常の毎日で、色々と思うところがあったのかもしれない。もともとこいつは、正義とは何かみたいなことを考えていた。やるせないぜ、まったく。
「お前はもっと、強い女だと思っていたけどな」
「あなただってこの世界の真実を知れば私と同じ風になるわ」
「ならねぇ」
断言できる。
「何故なら俺は、この世界で大切なものを見つけちまったからな」
体から噴き上がる瘴気が、斬られた右腕を再生していく。
「俺はずっと、その大切なものを守るために戦ってきた。これまでも、これからも。変わらない」
すでに呪いの痣は全身に及んでいた。
「だからよ。エレノア」
エレノアの目を見つめる。
「俺がお前を守ってやる」
握り締めた黒い拳を掲げて、俺は力強く宣言した。
そんな俺を、エレノアはじっと見下ろしている。
「私だって……」
わなわなと震え出すエレノア。
「私だって! あなたが傍にいてくれたらこうはならなかった!」
それは再会して初めて見せた感情の発露だった。
「私を置いていなくなって! ほったらかしにして! いまさら勝手なこと言わないでよ!」
絶叫するエレノアの瞳から、一筋の雫が零れる。
それは白い頬をつたい、細い顎の先から滴り落ちた。
宙を舞うひとしずくの涙が、光り輝き、一振りの長大な大剣に姿を変える。その切っ先は、真っすぐ俺に向いていた。
「フラーシュ・セイフ・ジャッジメント」
震える声で唱えた魔法。
一閃の煌めきは、エレノアの想いを乗せて俺に飛んできた。
崩壊した都市が震えるほどの余波。鉄骨や瓦礫が軽々と舞い上がる。
俺とエレノアは互いに弾き飛ばされた。俺はなんとか着地。ブーツの底がアルファルトの大地を噛む。
エレノアは宙に浮いたまま。
視線が交錯する。
さっきまではわからなかったが、今の俺には理解できる。
エレノアの瞳が湛える感情を。
それは、絶望だ。
この世界で幸福になることへの望みが断たれた。そんな感じ。
「なにがあった」
エレノアの表情は変わらない。
「知ってるかしら。この世界には希望なんてないのよ。女神に支配され、エストに運命を縛られて、人が持つ本来の力は封じられてる」
「質問に答えろ」
「知っちゃったのよ。この世界がなにでできているのか」
「なに?」
「女神エンディオーネを取り込んだ時、彼女の記憶の一部が私の中にも流れ込んできたわ。この世界は……すでに終末を迎えつつあるの」
「どういうことだ」
「女神達がこの世界を創って幾星霜。すでに彼女達の加護は世界から失われてる。緩やかな崩壊へと進みながら、それでもエストが世界を縛ることでなんとか維持してる状態よ。人々は道理を見失い、争いばかり起こして邪見がはびこってる。なにが正しくてなにが間違っているのか。それを測るものさしを、誰も持ってはいない」
その声色は、すべてを諦めているかのようだ。
エンディオーネと同化したせいだけじゃないだろう。
この二年間、エレノアは戦場の真っ只中で戦争の現実を目の当たりにしてきたはずだ。
「心が、折れちまったんだな」
死と暴力が日常の毎日で、色々と思うところがあったのかもしれない。もともとこいつは、正義とは何かみたいなことを考えていた。やるせないぜ、まったく。
「お前はもっと、強い女だと思っていたけどな」
「あなただってこの世界の真実を知れば私と同じ風になるわ」
「ならねぇ」
断言できる。
「何故なら俺は、この世界で大切なものを見つけちまったからな」
体から噴き上がる瘴気が、斬られた右腕を再生していく。
「俺はずっと、その大切なものを守るために戦ってきた。これまでも、これからも。変わらない」
すでに呪いの痣は全身に及んでいた。
「だからよ。エレノア」
エレノアの目を見つめる。
「俺がお前を守ってやる」
握り締めた黒い拳を掲げて、俺は力強く宣言した。
そんな俺を、エレノアはじっと見下ろしている。
「私だって……」
わなわなと震え出すエレノア。
「私だって! あなたが傍にいてくれたらこうはならなかった!」
それは再会して初めて見せた感情の発露だった。
「私を置いていなくなって! ほったらかしにして! いまさら勝手なこと言わないでよ!」
絶叫するエレノアの瞳から、一筋の雫が零れる。
それは白い頬をつたい、細い顎の先から滴り落ちた。
宙を舞うひとしずくの涙が、光り輝き、一振りの長大な大剣に姿を変える。その切っ先は、真っすぐ俺に向いていた。
「フラーシュ・セイフ・ジャッジメント」
震える声で唱えた魔法。
一閃の煌めきは、エレノアの想いを乗せて俺に飛んできた。
0
お気に入りに追加
1,202
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる