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似合う似合わないの問題
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その時、何かが起こることを期待していた。
誰かが助けに来てくれるだろうとか、なんか不思議なことが起こって守られるだろうとか。
そんなことを考えていた。
けど、何も起こりはしなかった。
エレノアの圧倒的な聖女力の前にして、ただ体を鍛えて強くなっただけの俺は無力な人間に過ぎない。
本当に?
俺はマーテリアのせいで〈妙なる祈り〉を失った。
だが、それがどうしたというんだ。
〈妙なる祈り〉はまさにチートだった。あの力があったからこそ、俺はここまでこれた。
けど、それがなくなったからって立ち止まるわけにはいかない。
たとえ相手がエレノアでも、俺の心は折れねぇぜ。
けれど。
想いだけじゃ体は動かない。
空しくも、フラーシュ・セイフが俺の心臓を貫く。
目の前が真っ白に染まった。
その瞬間、俺の意識は天空へと伸び、宇宙の遥か彼方へと飛んでいく。
その速さたるや光速どころの騒ぎじゃない。
光すら置き去りにするスピードだった。
そしては俺は、辿り着く。
「おかえり」
無数の星がきらめく虚空。
【座】だ。
「マシなんとか五世……」
変な角度で固定された玉座の一つに、金髪の青年が座っていた。
「死んだのか。俺は」
「どうだろうね」
いつにもまして爽やかな声だ。
「ここには時間の概念がないからね。もっと言えば、生と死の概念もない。さらに正確に表現するなら……生も死も、いわばコインの裏表のようなもので、生命という実在が表す一つの状態に過ぎないということだよ」
「さっぱりわからないな」
「言葉で説明できる範囲には限りがある。でもなんとなくわかるはずさ。キミだって【座】に至った存在なんだしね」
「なんとなくな」
マシなんとか五世はくつくつと笑う。
「まぁそれでも、キミがまだ宿命という名の呪いに囚われていることに変わりはない」
呪いね。
言い得て妙だな。
「そんなキミを待っていたお方もいるよ」
「なに?」
「ほら」
マシなんとか五世が俺の後ろを指さす。
そこにはやはり変な角度で鎮座する玉座があり、そこに小さな人型の光がちょこんと座っていた。
「お前は……!」
俺が認識した途端、その光は色と形を変える。
アハ体験的な認知の変化が起こり、それはレオタード姿の幼女の姿になった。
「エンディオーネ……!」
「やっはろーい! ロートスくんおっひさ~!」
小さな手をぶんぶんと振り、死神幼女はとてつもなく明るい声を発した。
こいつを前にした時、俺はクソほど怒り狂うだろうと思っていたが、いざ目の前にしてみるとそこまでの感情が湧いてこない。
この【座】という空間は、そういった負の感情とは無縁の場所なのかもしれない。
俺は自分の玉座に腰を下ろす。始めて座るはずなのに、まるで悠久の過去から自分のものだったかのようにしっくりくる。何時間座っていても腰が痛くならなさそう。
「聞きたいことがたくさんあるんじゃないかな? ロートスくんったら」
「そうだな」
目下、俺の疑問はエレノアに絞られているけど。
「どうしてエレノアを操ったりした? お前の仕業なのはわかってるんだぞ」
「あはは~。やっぱり?」
エンディオーネは楽しそうに笑うが、俺は仏頂面だ。
「や~実はね。女神的パワーであの子を子分にしよう思ったんだけど~できなかったんだよ~」
「なんだと?」
「わたしがここにいることがなによりの証拠だよねー? それに、あの子の力、全然あたしの加護と違うでしょー?」
言われてみれば確かに。
エンディオーネの加護は、死と祝福。けれどエレノアの力は、どうみてもそんな感じじゃなかった。聖なる光的なアレだった。
「どういうことだ? エレノアは操られていないのか」
「同化しちゃったんだよ」
「同化?」
「そー。あたし、あの子の精神世界に入り込んでみたんだよねー洗脳するためにー。そしたらー、逆にあたしの方が取り込まれちゃったのー。うわーん悲しみー!」
「エレノアがお前を取り込んだって。そりゃどういうことだよ」
「ま、簡単に言ったら心の強さで負けたってことかなー。それってつまり、ロートスくんへの愛の力かもー」
「ふざけたことを言ってんじゃ……」
つまり、エレノアは正気だってことなのか。
正気なのに、俺を殺そうとしたってのかよ。
「あの子の精神はもう人間のそれじゃないよ。あたしを取り込んじゃったからね。エレノアちゃんは聖女なんかじゃない。正真正銘の女神になっちゃんたんだよ」
「そんな……」
馬鹿なことがあるかよ。
エレノアが女神とか。
似合わなさすぎだろ。
誰かが助けに来てくれるだろうとか、なんか不思議なことが起こって守られるだろうとか。
そんなことを考えていた。
けど、何も起こりはしなかった。
エレノアの圧倒的な聖女力の前にして、ただ体を鍛えて強くなっただけの俺は無力な人間に過ぎない。
本当に?
俺はマーテリアのせいで〈妙なる祈り〉を失った。
だが、それがどうしたというんだ。
〈妙なる祈り〉はまさにチートだった。あの力があったからこそ、俺はここまでこれた。
けど、それがなくなったからって立ち止まるわけにはいかない。
たとえ相手がエレノアでも、俺の心は折れねぇぜ。
けれど。
想いだけじゃ体は動かない。
空しくも、フラーシュ・セイフが俺の心臓を貫く。
目の前が真っ白に染まった。
その瞬間、俺の意識は天空へと伸び、宇宙の遥か彼方へと飛んでいく。
その速さたるや光速どころの騒ぎじゃない。
光すら置き去りにするスピードだった。
そしては俺は、辿り着く。
「おかえり」
無数の星がきらめく虚空。
【座】だ。
「マシなんとか五世……」
変な角度で固定された玉座の一つに、金髪の青年が座っていた。
「死んだのか。俺は」
「どうだろうね」
いつにもまして爽やかな声だ。
「ここには時間の概念がないからね。もっと言えば、生と死の概念もない。さらに正確に表現するなら……生も死も、いわばコインの裏表のようなもので、生命という実在が表す一つの状態に過ぎないということだよ」
「さっぱりわからないな」
「言葉で説明できる範囲には限りがある。でもなんとなくわかるはずさ。キミだって【座】に至った存在なんだしね」
「なんとなくな」
マシなんとか五世はくつくつと笑う。
「まぁそれでも、キミがまだ宿命という名の呪いに囚われていることに変わりはない」
呪いね。
言い得て妙だな。
「そんなキミを待っていたお方もいるよ」
「なに?」
「ほら」
マシなんとか五世が俺の後ろを指さす。
そこにはやはり変な角度で鎮座する玉座があり、そこに小さな人型の光がちょこんと座っていた。
「お前は……!」
俺が認識した途端、その光は色と形を変える。
アハ体験的な認知の変化が起こり、それはレオタード姿の幼女の姿になった。
「エンディオーネ……!」
「やっはろーい! ロートスくんおっひさ~!」
小さな手をぶんぶんと振り、死神幼女はとてつもなく明るい声を発した。
こいつを前にした時、俺はクソほど怒り狂うだろうと思っていたが、いざ目の前にしてみるとそこまでの感情が湧いてこない。
この【座】という空間は、そういった負の感情とは無縁の場所なのかもしれない。
俺は自分の玉座に腰を下ろす。始めて座るはずなのに、まるで悠久の過去から自分のものだったかのようにしっくりくる。何時間座っていても腰が痛くならなさそう。
「聞きたいことがたくさんあるんじゃないかな? ロートスくんったら」
「そうだな」
目下、俺の疑問はエレノアに絞られているけど。
「どうしてエレノアを操ったりした? お前の仕業なのはわかってるんだぞ」
「あはは~。やっぱり?」
エンディオーネは楽しそうに笑うが、俺は仏頂面だ。
「や~実はね。女神的パワーであの子を子分にしよう思ったんだけど~できなかったんだよ~」
「なんだと?」
「わたしがここにいることがなによりの証拠だよねー? それに、あの子の力、全然あたしの加護と違うでしょー?」
言われてみれば確かに。
エンディオーネの加護は、死と祝福。けれどエレノアの力は、どうみてもそんな感じじゃなかった。聖なる光的なアレだった。
「どういうことだ? エレノアは操られていないのか」
「同化しちゃったんだよ」
「同化?」
「そー。あたし、あの子の精神世界に入り込んでみたんだよねー洗脳するためにー。そしたらー、逆にあたしの方が取り込まれちゃったのー。うわーん悲しみー!」
「エレノアがお前を取り込んだって。そりゃどういうことだよ」
「ま、簡単に言ったら心の強さで負けたってことかなー。それってつまり、ロートスくんへの愛の力かもー」
「ふざけたことを言ってんじゃ……」
つまり、エレノアは正気だってことなのか。
正気なのに、俺を殺そうとしたってのかよ。
「あの子の精神はもう人間のそれじゃないよ。あたしを取り込んじゃったからね。エレノアちゃんは聖女なんかじゃない。正真正銘の女神になっちゃんたんだよ」
「そんな……」
馬鹿なことがあるかよ。
エレノアが女神とか。
似合わなさすぎだろ。
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