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まさに賢者
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「どういうことですか。詳しく教えてください」
「ええ。もちろんです」
物柔らかな笑みを受けて、俺は冷静に努めようと座りなおす。
アデライト先生の咳払い。
「まず、あなたが世界から忘れられた原因を思い出してください」
「原因? ええっと……エストとの繋がりが消滅したから、ですよね?」
「そうです。では、その繋がりとは、具体的になんだったかわかりますか?」
具体的に、か。
改めて聞かれると、それがなんなのかすぐには出てこない。
いや、待てよ。
「スキルか」
「その通り」
先生は教師らしく頷いて、
「ロートスさんがイレギュラー的存在であるにも関わらず世界から認識されていたのは、スキルによってエストに紐づけられていたからです。つまるところ、スキルを失ったからエストとの繋がりが断たれた。翻って、スキルを手に入れることが出来れば、あなたは再び世界の認識を取り戻せるということになる、というのが私の仮説です」
「ほぁ……なるほど」
なんというか。
そいつは盲点だったな。
俺にとってスキルとはエストの呪縛でしかなかった。無数のクソスキルが、絡まった鎖のように俺の運命を縛り付けているだけだと思っていた。こんなものはない方がいいと、そう考えていた。
それが今になって、失ったのがアカンかったなんてことになるなんてな。
マジでヤバイとはまさにこの事だ。
「けど先生。スキルを手に入れるったって、どうやってやるんです? 鑑定の儀をもう一回やるんですか?」
「いえ、あの儀式はあくまで鑑定を行うもの。鑑定の儀を執り行ったからといってスキルが手に入るわけではないのです」
「じゃあ、どうすれば」
「ふふ。よく考えてみてください。あなたはもう知っているでしょう? 持たざる者がスキルを手にした前例を」
「んー」
そんなことあったかなぁ。
うーん。俺は記憶を辿る。
あ。そういうことか。
「あれですか。『ツクヨミ』ですか。ウィッキーの」
「ご名答」
ヘッケラー機関の研究で、ウィッキーは亜人にも関わらずスキルを手に入れた。サラもその実験体になっていたな。
あれはたしか運命を操作するっていう研究の一環だったはずだが、まさかそういう側面があったとは。
「じゃあ、ウィッキーがやったようなことを俺にもやれば、スキルを身につけられるってことですか」
「確実ではありませんが、可能性は十分にあります」
まじかよ。
それはかなり希望が出てきたな。俺が世界に思い出されれば、なにかしら大きな影響があるに違いないし。
「なら、すぐにでもスキルを手に入れたいところですけど」
「残念ですが、学園にはその設備が不足してます。コッホ城塞に行く必要がありますし、放置されていた設備の復旧には時間がかかるでしょう」
「まじですか」
うなだれるしかないぜ。
けど、方法が見つかっただけでも大前進だ。
「先生。それ、お願いできますか」
「すでに始めていますよ。復旧作業は順調です。早ければひと月後には準備が整うと思います」
「おおっ。ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。
今の先生にとって、俺はどこの馬の骨ともしれない男でしかない。
そんな俺のために頑張ってくれている。
「この恩は、いつか必ず」
「まだ成功するとは限りませんから。お返しは、私の仮説が実証されたらで構いません」
「きっと成功しますよ。なんたって、先生の考えですからね」
「ふふ。ありがとう」
美しすぎる微笑みを見せてくれる先生に、俺は改めて自分の想いを実感する。
「できるだけ急ぎますね。進捗状況は逐一連絡しますから、これを」
先生は念話灯を手渡してくれる。
「それと。今日、日が暮れたら学園の裏門に来てください。帝国へ入る手筈を整えておきます」
「ほんと、なにからなにまで」
つくづく、頭が上がらないぜ。
「もし私が記憶を取り戻したら、お返しにとんでもない要求をするかもしれませんね」
「はは。覚悟しておきますよ」
どんと来いだ。
どんな願いでも叶えてあげたいと思うんだよな。
そういう人なんだよ。アデライト先生は。
「ええ。もちろんです」
物柔らかな笑みを受けて、俺は冷静に努めようと座りなおす。
アデライト先生の咳払い。
「まず、あなたが世界から忘れられた原因を思い出してください」
「原因? ええっと……エストとの繋がりが消滅したから、ですよね?」
「そうです。では、その繋がりとは、具体的になんだったかわかりますか?」
具体的に、か。
改めて聞かれると、それがなんなのかすぐには出てこない。
いや、待てよ。
「スキルか」
「その通り」
先生は教師らしく頷いて、
「ロートスさんがイレギュラー的存在であるにも関わらず世界から認識されていたのは、スキルによってエストに紐づけられていたからです。つまるところ、スキルを失ったからエストとの繋がりが断たれた。翻って、スキルを手に入れることが出来れば、あなたは再び世界の認識を取り戻せるということになる、というのが私の仮説です」
「ほぁ……なるほど」
なんというか。
そいつは盲点だったな。
俺にとってスキルとはエストの呪縛でしかなかった。無数のクソスキルが、絡まった鎖のように俺の運命を縛り付けているだけだと思っていた。こんなものはない方がいいと、そう考えていた。
それが今になって、失ったのがアカンかったなんてことになるなんてな。
マジでヤバイとはまさにこの事だ。
「けど先生。スキルを手に入れるったって、どうやってやるんです? 鑑定の儀をもう一回やるんですか?」
「いえ、あの儀式はあくまで鑑定を行うもの。鑑定の儀を執り行ったからといってスキルが手に入るわけではないのです」
「じゃあ、どうすれば」
「ふふ。よく考えてみてください。あなたはもう知っているでしょう? 持たざる者がスキルを手にした前例を」
「んー」
そんなことあったかなぁ。
うーん。俺は記憶を辿る。
あ。そういうことか。
「あれですか。『ツクヨミ』ですか。ウィッキーの」
「ご名答」
ヘッケラー機関の研究で、ウィッキーは亜人にも関わらずスキルを手に入れた。サラもその実験体になっていたな。
あれはたしか運命を操作するっていう研究の一環だったはずだが、まさかそういう側面があったとは。
「じゃあ、ウィッキーがやったようなことを俺にもやれば、スキルを身につけられるってことですか」
「確実ではありませんが、可能性は十分にあります」
まじかよ。
それはかなり希望が出てきたな。俺が世界に思い出されれば、なにかしら大きな影響があるに違いないし。
「なら、すぐにでもスキルを手に入れたいところですけど」
「残念ですが、学園にはその設備が不足してます。コッホ城塞に行く必要がありますし、放置されていた設備の復旧には時間がかかるでしょう」
「まじですか」
うなだれるしかないぜ。
けど、方法が見つかっただけでも大前進だ。
「先生。それ、お願いできますか」
「すでに始めていますよ。復旧作業は順調です。早ければひと月後には準備が整うと思います」
「おおっ。ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。
今の先生にとって、俺はどこの馬の骨ともしれない男でしかない。
そんな俺のために頑張ってくれている。
「この恩は、いつか必ず」
「まだ成功するとは限りませんから。お返しは、私の仮説が実証されたらで構いません」
「きっと成功しますよ。なんたって、先生の考えですからね」
「ふふ。ありがとう」
美しすぎる微笑みを見せてくれる先生に、俺は改めて自分の想いを実感する。
「できるだけ急ぎますね。進捗状況は逐一連絡しますから、これを」
先生は念話灯を手渡してくれる。
「それと。今日、日が暮れたら学園の裏門に来てください。帝国へ入る手筈を整えておきます」
「ほんと、なにからなにまで」
つくづく、頭が上がらないぜ。
「もし私が記憶を取り戻したら、お返しにとんでもない要求をするかもしれませんね」
「はは。覚悟しておきますよ」
どんと来いだ。
どんな願いでも叶えてあげたいと思うんだよな。
そういう人なんだよ。アデライト先生は。
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