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どうしたら思い出すんやろなぁ
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俺はこれまでの冒険の一部始終を、覚えている限り事細かに説明した。
アイリスは相槌を打つこともなく、最後まで黙って聞き終える。
俺の話が終わるころには、すでに日は暮れ、夜が訪れていた。
「……にわかには信じがたいお話ですわね」
「だろ? 俺も話してて改めて思ったわ。荒唐無稽すぎる」
まったく、俺の人生は一体どうなってやがるんだ。
これも運命を捻じ曲げられたせいなのか。それとも俺の行動が招いた結果なのか。
まぁ、大体クソ女神達のせいだと思うけどな。
「あなたのお話が真実なら、わたくしは偽りの記憶を植え付けられていることになりますわ」
「ああ。記憶に違和感があるのは、それが原因なんだろうさ」
「なぜサラちゃんやメイド長は、正しい記憶を取り戻したのですか?」
「あいつらはただの人じゃないからな。サラはドルイドの血統。ファルトゥールの血が流れてる。神様みたいなもんだ。ルーチェはそもそも神族だしな。古代人の生き残りだから、今の世界の法からすこし外れた場所にいる。だから、一度は忘れちまった俺を思い出せた。なんで思い出せたのかは、よくわからんけどな」
なんかきっかけがあったのだろうか。
「アデライト先生にも会ったよ。あの人は俺のことを覚えていなかった。思い出してもらえなかった。たぶん、ウィッキーも俺のことを思い出せないだろう。悲しいけど、あの二人はただの人だからな」
悲しみが深い。
「わたくしはスライムですわ。人ではありません。それでも、思い出せないものなのでしょうか?」
「生物としての理を外れていなけりゃ無理だよ。お前はべらぼうに強いが、理の枠を越えてない。そんなもん本当は、越えない方がいいんだけどな」
「けれど、それではあなたのことを思い出せませんわ」
「まぁな……それは寂しい。だから困ってるんだ。葛藤だな」
アイリスはこちらをじっとみる。
「今日あなたは、わたくしが怒ったところを見て珍しいと仰いました。それだけでも、あなたがわたくしのことをよく理解しておられるとわかります」
「そうだろ? さらに付け加えるなら、方向音痴が直ってることとかも気付いているぞ」
確かアイリスは方向音痴だった。だが今では一人で旅ができ、街を案内してくれるまでになっている。
「……本当に、真実であるように思えてきましたわ」
「紛れもない真実だからな」
空色の長い髪が月明かりに照らされている。アイリスは二年経っても姿は変わっていない。スキルで作った仮初の姿だから、成長はしないんだろう。
「失望しませんでしたか? あのように取り乱したわたくしを見て」
「怒ったことか?」
「はい」
そんなに取り乱していたかなぁ。どっちかっていうと冷静な怒りだったように思うけど。それでもアイリスからしたらブチギレてた方なんだろうな。
「いいんじゃないか。なんか人ってさ、怒らないことを指して器がでかいとか、できた人間だとか言いたがるけど、別にそんなことはないからな。怒るべき時に怒らないのは、事なかれ主義の日和見野郎だ。それにお前は自分の為じゃなく家族の為に怒った。俺はむしろ、そんなお前を尊敬するよ」
「……やっぱり、不思議な人ですわ」
アイリスはにこりと微笑む。
それは、いつもの柔和な微笑みじゃない。
いつかアイリスと過ごした夜。その時に見せてくれた麗らかな笑顔だ。
「実感はありません。ですが、あなたはわたくしの本当のマスターなのだと、そう思ってしまいます」
「はは。エレノアがマスターって、正直なところ違和感ありまくりだったろ」
「ノーコメント、ですわ」
人差し指を唇に当て、アイリスはくすりと笑んだ。
時間がないのに寄り道しちまってるが、これは必要な寄り道だ。
大切な女のために使う時間なんだからな。
アイリスは相槌を打つこともなく、最後まで黙って聞き終える。
俺の話が終わるころには、すでに日は暮れ、夜が訪れていた。
「……にわかには信じがたいお話ですわね」
「だろ? 俺も話してて改めて思ったわ。荒唐無稽すぎる」
まったく、俺の人生は一体どうなってやがるんだ。
これも運命を捻じ曲げられたせいなのか。それとも俺の行動が招いた結果なのか。
まぁ、大体クソ女神達のせいだと思うけどな。
「あなたのお話が真実なら、わたくしは偽りの記憶を植え付けられていることになりますわ」
「ああ。記憶に違和感があるのは、それが原因なんだろうさ」
「なぜサラちゃんやメイド長は、正しい記憶を取り戻したのですか?」
「あいつらはただの人じゃないからな。サラはドルイドの血統。ファルトゥールの血が流れてる。神様みたいなもんだ。ルーチェはそもそも神族だしな。古代人の生き残りだから、今の世界の法からすこし外れた場所にいる。だから、一度は忘れちまった俺を思い出せた。なんで思い出せたのかは、よくわからんけどな」
なんかきっかけがあったのだろうか。
「アデライト先生にも会ったよ。あの人は俺のことを覚えていなかった。思い出してもらえなかった。たぶん、ウィッキーも俺のことを思い出せないだろう。悲しいけど、あの二人はただの人だからな」
悲しみが深い。
「わたくしはスライムですわ。人ではありません。それでも、思い出せないものなのでしょうか?」
「生物としての理を外れていなけりゃ無理だよ。お前はべらぼうに強いが、理の枠を越えてない。そんなもん本当は、越えない方がいいんだけどな」
「けれど、それではあなたのことを思い出せませんわ」
「まぁな……それは寂しい。だから困ってるんだ。葛藤だな」
アイリスはこちらをじっとみる。
「今日あなたは、わたくしが怒ったところを見て珍しいと仰いました。それだけでも、あなたがわたくしのことをよく理解しておられるとわかります」
「そうだろ? さらに付け加えるなら、方向音痴が直ってることとかも気付いているぞ」
確かアイリスは方向音痴だった。だが今では一人で旅ができ、街を案内してくれるまでになっている。
「……本当に、真実であるように思えてきましたわ」
「紛れもない真実だからな」
空色の長い髪が月明かりに照らされている。アイリスは二年経っても姿は変わっていない。スキルで作った仮初の姿だから、成長はしないんだろう。
「失望しませんでしたか? あのように取り乱したわたくしを見て」
「怒ったことか?」
「はい」
そんなに取り乱していたかなぁ。どっちかっていうと冷静な怒りだったように思うけど。それでもアイリスからしたらブチギレてた方なんだろうな。
「いいんじゃないか。なんか人ってさ、怒らないことを指して器がでかいとか、できた人間だとか言いたがるけど、別にそんなことはないからな。怒るべき時に怒らないのは、事なかれ主義の日和見野郎だ。それにお前は自分の為じゃなく家族の為に怒った。俺はむしろ、そんなお前を尊敬するよ」
「……やっぱり、不思議な人ですわ」
アイリスはにこりと微笑む。
それは、いつもの柔和な微笑みじゃない。
いつかアイリスと過ごした夜。その時に見せてくれた麗らかな笑顔だ。
「実感はありません。ですが、あなたはわたくしの本当のマスターなのだと、そう思ってしまいます」
「はは。エレノアがマスターって、正直なところ違和感ありまくりだったろ」
「ノーコメント、ですわ」
人差し指を唇に当て、アイリスはくすりと笑んだ。
時間がないのに寄り道しちまってるが、これは必要な寄り道だ。
大切な女のために使う時間なんだからな。
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