470 / 984
失われた二年の話をさせてください
しおりを挟む
ルーチェは水を呑んで唇を濡らし、言葉を紡ぐ。
「国力が低下した王国に、マッサ・ニャラブは好機とばかりに攻めこんできた。積年の恨みっていうのかな。容赦なかったよ。途中の街を蹂躙しながら、一気に王都まで攻め上がった」
「そいつは、なかなかのピンチだな……」
「マッサ・ニャラブは大軍を率いてきたからね。当時の諸侯達に、それを食い止める力はなかった」
親コルト派との戦いは、それほどに激しかったってことか。
「けど、結局のところ征服はされなかったんだよな? 王都はブランドンからリッバンループに移ったけど、政権は替わってない。一体どういうことだ?」
俺の質問に、ルーチェは目を閉じて深く頷いた。
「英雄が現れたの」
「英雄?」
「そう。英雄」
ふむ。
あーそういうことか。
なるほどなるほど。
だんだん話、読めてきましたわ。
「エレノアだな?」
俺の答えに、ルーチェはふふっと微笑みを浮かべる。
「そう。『大魔導士』エレノア。新たな護国の英雄。巷じゃ救国の戦乙女なんて囁かれてたり」
「そりゃ大層な二つ名だ」
「エレノアちゃんはね。王都に侵攻してきた敵軍から国王を守ったの。国王と親衛隊を王都から逃がして、大将軍ムッソーと共に最後まで王都に残って徹底抗戦。激しい戦いの末、敵軍を敗走に追い込んだ。でも、その代償は大きかった。ブランドンは崩壊。都市としての機能を失った」
つまり、旧王都ブランドンは一方的に破壊されたわけじゃなく、戦闘の影響でボロボロになったってことか。リッバンループの例があるから、それ自体はありえないことじゃないが。
「リッバンループに遷都したのは、当時もう復興計画が動き出していたからだって話だよ。どうせ作り直すなら新しい王都にってところじゃないかな」
「なるほど……それで今に至るってわけか」
「ううん。今に至るまでには、まだまだ話があるんだよ」
「そうなのか?」
「マッサ・ニャラブの攻撃に便乗して、帝国も軍事介入してきたの。海軍を率いて、王国に上陸。そのまま王国軍と戦いになった」
「まじかよ」
泣きっ面に鉢とはまさにこのことだな。弱り目に祟り目と言ってもいい。どっちでもいいんだ。
「前々から敵対していた帝国的には、王国がボロボロになった絶好の機会を見逃す手はないってか」
「それだけじゃないよ。北方からはノルデン公国。南方からはバラト民主国。敵対関係にあった国が我も続けとばかりに次々と攻め入ってきたの」
え。やばいやつやんそれ。
「あのあたりは帝国の息がかかってるからね。同盟関係っていうか、事実上の属国って感じかな? でもね、だからこそ王国側もあの二国の参戦は予測できた。王国は残った兵力を二つに分けて、二人の指揮官に託したの。ノルデン公国はエレノアちゃんが、バラト民主国はムッソー大将軍が、それぞれ軍を率いて食い止めた」
すげぇ。
「なんていうか……完全に包囲されてるじゃねぇか。それでよく持ちこたえられたな。ムッソー大将軍はともかく、エレノアってそこまで強かったか? スキルが強力なのは認めるが」
あいつの『無限の魔力』は文字通り底なしの魔力だ。魔法を撃ちまくれるって言えばチートっぽく思えるが、戦局を変えるだけの力があるかは疑問だ。
「もちろんエレノアちゃん一人だけじゃないよ? 歴史に残る偉業を果たせたのは、彼女を支える有能な従者達がいたから」
有能な従者とな。
なんか顔ぶれを予想できるぞ。それは。
「国力が低下した王国に、マッサ・ニャラブは好機とばかりに攻めこんできた。積年の恨みっていうのかな。容赦なかったよ。途中の街を蹂躙しながら、一気に王都まで攻め上がった」
「そいつは、なかなかのピンチだな……」
「マッサ・ニャラブは大軍を率いてきたからね。当時の諸侯達に、それを食い止める力はなかった」
親コルト派との戦いは、それほどに激しかったってことか。
「けど、結局のところ征服はされなかったんだよな? 王都はブランドンからリッバンループに移ったけど、政権は替わってない。一体どういうことだ?」
俺の質問に、ルーチェは目を閉じて深く頷いた。
「英雄が現れたの」
「英雄?」
「そう。英雄」
ふむ。
あーそういうことか。
なるほどなるほど。
だんだん話、読めてきましたわ。
「エレノアだな?」
俺の答えに、ルーチェはふふっと微笑みを浮かべる。
「そう。『大魔導士』エレノア。新たな護国の英雄。巷じゃ救国の戦乙女なんて囁かれてたり」
「そりゃ大層な二つ名だ」
「エレノアちゃんはね。王都に侵攻してきた敵軍から国王を守ったの。国王と親衛隊を王都から逃がして、大将軍ムッソーと共に最後まで王都に残って徹底抗戦。激しい戦いの末、敵軍を敗走に追い込んだ。でも、その代償は大きかった。ブランドンは崩壊。都市としての機能を失った」
つまり、旧王都ブランドンは一方的に破壊されたわけじゃなく、戦闘の影響でボロボロになったってことか。リッバンループの例があるから、それ自体はありえないことじゃないが。
「リッバンループに遷都したのは、当時もう復興計画が動き出していたからだって話だよ。どうせ作り直すなら新しい王都にってところじゃないかな」
「なるほど……それで今に至るってわけか」
「ううん。今に至るまでには、まだまだ話があるんだよ」
「そうなのか?」
「マッサ・ニャラブの攻撃に便乗して、帝国も軍事介入してきたの。海軍を率いて、王国に上陸。そのまま王国軍と戦いになった」
「まじかよ」
泣きっ面に鉢とはまさにこのことだな。弱り目に祟り目と言ってもいい。どっちでもいいんだ。
「前々から敵対していた帝国的には、王国がボロボロになった絶好の機会を見逃す手はないってか」
「それだけじゃないよ。北方からはノルデン公国。南方からはバラト民主国。敵対関係にあった国が我も続けとばかりに次々と攻め入ってきたの」
え。やばいやつやんそれ。
「あのあたりは帝国の息がかかってるからね。同盟関係っていうか、事実上の属国って感じかな? でもね、だからこそ王国側もあの二国の参戦は予測できた。王国は残った兵力を二つに分けて、二人の指揮官に託したの。ノルデン公国はエレノアちゃんが、バラト民主国はムッソー大将軍が、それぞれ軍を率いて食い止めた」
すげぇ。
「なんていうか……完全に包囲されてるじゃねぇか。それでよく持ちこたえられたな。ムッソー大将軍はともかく、エレノアってそこまで強かったか? スキルが強力なのは認めるが」
あいつの『無限の魔力』は文字通り底なしの魔力だ。魔法を撃ちまくれるって言えばチートっぽく思えるが、戦局を変えるだけの力があるかは疑問だ。
「もちろんエレノアちゃん一人だけじゃないよ? 歴史に残る偉業を果たせたのは、彼女を支える有能な従者達がいたから」
有能な従者とな。
なんか顔ぶれを予想できるぞ。それは。
0
お気に入りに追加
1,209
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる