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実況が間に合わない
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「やりますわね」
アイリスはふわりとバックステップを踏み、右手の甲をさすっている。
俺はというと、膝を衝きたい衝動を堪えるので必死だった。左腕は痺れてしばらくは使い物ならないだろう。
「流石だな……」
今の一撃でわかった。
アイリスのやつ、この二年で格段に強くなっている。俺の知っているアイリスとは、それこそ雲泥の差があるだろう。これ以上強くなってどうするつもりなのか。
「真っ向勝負は厳しいか」
「あら。そんなことはありませんわ。あなたの実力なら、正面からの打ち合いにも十分臨めます」
「リスクが高すぎるんだよなぁ」
言いながら、俺はアイリスへと猛進する。
十数歩の距離を一歩で詰め、右の貫手を繰り出す。
言ってることとやってることがちぐはぐで、アイリスは戸惑うことだろう。
そんなことはなかった。
なんの躊躇いもなく、アイリスは俺のどてっ腹に前蹴りを叩き込む。
カウンター気味に入った一撃は、致死的なダメージを俺に与えるかに思えた。
「それは読めてたぜ」
直前でブレーキをかけていた俺は、その蹴りをガードすることに成功。それでもかなりの衝撃で全身に激痛が走ったが。
この展開ならアイリスはきっとこうすると、分かっていた。ある意味で信頼の上に成り立った奇策だ。
俺は地面を思いきり踏みつける。精密な力加減のコントロールによって、周囲に振動を伝えたのだ。
その結果なにが起きるか。
バラバラに砕け散ったリングの破片が、一斉に宙に浮き上がった。
「これは……」
流石にアイリスも驚いたようだ。
そりゃそうだろう。これはただ力が強いだけじゃできない芸当だ。類稀な技術が可能にした神業という感じ。
だが、驚くのはまだ早い。
俺はぱんと手を叩く。
それによってもたらされた複雑な空気の振動が、浮いた破片に干渉して、まるで意思を持っているかのようにアイリスへと飛来する。
大小さまざまの瓦礫の砲弾に意表を衝かれつつも、アイリスはその全てを叩き落とす。それどころか瓦礫をものともせず、距離を取った俺に迫ってきた。
「面白い技ですわ」
俺の胸倉が掴まれる。
「けれど、見てくれだけですわね」
「どうかな」
俺は後退。アイリスは前進。
お互いの息が触れるほど密着しつつ高速で移動している。
アイリスの右フックが俺の顎を狙う。その瞬間、背後から迫った瓦礫の砲弾がアイリスのお尻に直撃した。
「あっ……!」
重たい衝撃。俺の拍手が生み出した空気の振動が、瓦礫を意のままに操ったのだ。
俺にとってもぶっつけ本番の奇策だったが、上手くいってよかったぜ。
ただ、こんなものじゃアイリスにダメージを与えることはできない。けど、少しでも注意をそらせたらいいのだ。
「おりゃ!」
俺はアイリスに、渾身の巴投げを放った。
ぐるぐると宙を回転し、遠心力を上げて放り投げる。
空高く飛んでいくアイリス。
俺の狙いはこれだった。アイリスを殴るわけにはいかない。
これなら場外判定で勝ちになるだろう。そうに違いない。
アイリスはふわりとバックステップを踏み、右手の甲をさすっている。
俺はというと、膝を衝きたい衝動を堪えるので必死だった。左腕は痺れてしばらくは使い物ならないだろう。
「流石だな……」
今の一撃でわかった。
アイリスのやつ、この二年で格段に強くなっている。俺の知っているアイリスとは、それこそ雲泥の差があるだろう。これ以上強くなってどうするつもりなのか。
「真っ向勝負は厳しいか」
「あら。そんなことはありませんわ。あなたの実力なら、正面からの打ち合いにも十分臨めます」
「リスクが高すぎるんだよなぁ」
言いながら、俺はアイリスへと猛進する。
十数歩の距離を一歩で詰め、右の貫手を繰り出す。
言ってることとやってることがちぐはぐで、アイリスは戸惑うことだろう。
そんなことはなかった。
なんの躊躇いもなく、アイリスは俺のどてっ腹に前蹴りを叩き込む。
カウンター気味に入った一撃は、致死的なダメージを俺に与えるかに思えた。
「それは読めてたぜ」
直前でブレーキをかけていた俺は、その蹴りをガードすることに成功。それでもかなりの衝撃で全身に激痛が走ったが。
この展開ならアイリスはきっとこうすると、分かっていた。ある意味で信頼の上に成り立った奇策だ。
俺は地面を思いきり踏みつける。精密な力加減のコントロールによって、周囲に振動を伝えたのだ。
その結果なにが起きるか。
バラバラに砕け散ったリングの破片が、一斉に宙に浮き上がった。
「これは……」
流石にアイリスも驚いたようだ。
そりゃそうだろう。これはただ力が強いだけじゃできない芸当だ。類稀な技術が可能にした神業という感じ。
だが、驚くのはまだ早い。
俺はぱんと手を叩く。
それによってもたらされた複雑な空気の振動が、浮いた破片に干渉して、まるで意思を持っているかのようにアイリスへと飛来する。
大小さまざまの瓦礫の砲弾に意表を衝かれつつも、アイリスはその全てを叩き落とす。それどころか瓦礫をものともせず、距離を取った俺に迫ってきた。
「面白い技ですわ」
俺の胸倉が掴まれる。
「けれど、見てくれだけですわね」
「どうかな」
俺は後退。アイリスは前進。
お互いの息が触れるほど密着しつつ高速で移動している。
アイリスの右フックが俺の顎を狙う。その瞬間、背後から迫った瓦礫の砲弾がアイリスのお尻に直撃した。
「あっ……!」
重たい衝撃。俺の拍手が生み出した空気の振動が、瓦礫を意のままに操ったのだ。
俺にとってもぶっつけ本番の奇策だったが、上手くいってよかったぜ。
ただ、こんなものじゃアイリスにダメージを与えることはできない。けど、少しでも注意をそらせたらいいのだ。
「おりゃ!」
俺はアイリスに、渾身の巴投げを放った。
ぐるぐると宙を回転し、遠心力を上げて放り投げる。
空高く飛んでいくアイリス。
俺の狙いはこれだった。アイリスを殴るわけにはいかない。
これなら場外判定で勝ちになるだろう。そうに違いない。
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