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奴隷を買う流れかな

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「あーそうそう。マルデヒット族はいないけど、ライクマン族ならいるよ」

「ライクマン族?」

「ああ。見た目がマルデヒット族と近い種族でね。耳と尻尾の形が違うだけで、あとはほぼ一緒なのさ」

「へぇ」

 つまりケモミミかつモフモフってことか。
 それは興味があるぞ。

「見てみたい」

「あいよーっ!」

 急に元気になったおばさんに建物の奥へと案内してもらう。
 暖簾をくぐった先には、薄暗い空間が広がっていた。

「ここは売れ残りの保管場所なんだけどね。値が安いから一応の需要はあるのさ」

 ひどい話だ。

「そんでこいつが最後の一人というわけさね」

 おばさんがそう言った瞬間、目の前の小さな檻ががしゃんと鳴った。

「なーにが売れ残りだこのヤロー! ふざけんじゃねーぞ! さっさとおいらをここから出しやがれってんだクソババア!」

 鉄格子を両手で握り締めて暴れるのは、十歳そこそこに見える亜人の子どもだった。

「ほら見てみんさい。これが売れ残った理由さね。暴れん坊で手が付けられないのさ。そろそろ処分しようと思ってたんだけど、あんさんが買ってくれるならこっちも助かるんだ。安くしとくから、ぜひどうだい?」

 ふむ。
 俺はじっとライクマン族の子どもを観察する。
 ぼさぼさの黒髪。頭からはタヌキの彷彿とさせる丸い耳が生えている。尻尾もまるでタヌキのような縞々模様のモフモフである。

「なんだこら! 何見てんだ!」

 歯を剥き出しにしてこちらを睨みつけてはいるが、ぼろ布のような服から覗く四肢はやせ細っている。
 なんとなく、出会った時のサラを思い出す。

「いくらだ?」

「ざっと、三十万エーンといったところかね」

「さんじゅうまん……」

 たしか、サラを買った時も同じ値段だった気がする。
 これは、なにやら縁を感じるな。

「わかった。こいつを貰おう」

「やるねぇあんちゃん! いい気前だ!」

「ただ、今は手持ちがない。悪いけど少し待っててくれるか?」

「ええ? そんなこと言って……先に売れちまっても知らないよ?」

「取りおいてくれないのか?」

「なら、手付をくれないとね。じゃないと保証はできないよ」

「手付?」

 まいったな。
 今は本当に手持ちがない。一文無しだ。金のことを考えていなかった。
 〈妙なる祈り〉があった時は、そんなこと気にしなくてもよかったからなぁ。

「わかった」

 俺はライクマン族の子どもが入れられた檻の、鉄格子の一つを握ると、そのまま軽く捩じ切ってやった。

「な……なに……!」

 当然、おばさんは驚く。

「ん? 手付ってこういうことじゃないのか?」

 もちろん違うのは分かっている。手付ってお金のことだろう。これは俺なりのジョークだ。

「あんた……あたしに喧嘩売ってんのかい? いい度胸だねぇ……!」

 え、ちょっと待って。なんでそんなに怒ってんの?
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