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座に至る

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 気が付いた時には、俺は漆黒の空間にいた。
 いや、正確には点々とした無数の光に囲まれた暗い場所だ。
 宇宙と表現してもいい。

「【座】にようこそ。ロートス・アルバレス」

 いけ好かない青年の声が響いた。
 俺の周囲には、いくつかの玉座が不規則に浮かんでいる。
 その一つに尊大な態度で腰を落ち着ける金髪の男が、声の主らしい。

「その名前で呼ばれるのは久しぶりだな」

「そうかい? 慣れないようなら、御厨蓮の名で呼んでもいいよ。ここはどの世界にも属さない狭間の虚無だ。名前なんていくつあってもいいし、なんなら無くたってかまわない」

「いや。ロートスでいい。俺がこれから使う名だしな」

 俺は自分の体を検める。
 人型の光。ただのシルエットでしかない。
 目の前の青年も、俺にそう見えているだけで、実際に肉体があるわけじゃないだろう。俺もこいつも、今は概念だけの存在。思念体というやつだ。

「またお前に会うことになるとはな」

「いいじゃないか。僕はキミに会えるのを心待ちにしていたんだよ。どんな情けない顔をして現れてくれるのかとね」

「悪かったな間抜けな面でよ」

「いいや。いい面構えになったんじゃないかな。少なくとも、僕を滅した時よりは大人になったように見えるけどね」

 そりゃ、あれから二年経ってるからな。記憶を失っていたとは言っても、俺も色々経験したし。
 俺はきょろきょろと玉座を見渡す。座っているのはこいつだけだ。あとは空席になっている。

「彼女を探しているのかい?」

「ああ。あいつなら、ここにいるだろうと思ってな」

「そうだね。【座】とは世界の理を超えた者が辿り着く境地だ。彼女には居心地が悪いみたいで、いつも現世に降りているようだけど」

 まったく。
 アカネのやつ。俺を待っててくれててもいいんじゃないのか。
 右も左もわからんぞ。

「キミも降りるつもりかい?」

「当然だ。まだやり残したことがある」

「そう言うと思って、器は用意しておいたよ」

「なに?」

「見てごらん」

 青年の指がぴんと立ち、その先から光の粒子が零れ落ちる。
 そこから広がった巨大なスクリーンに、どこか違う場所の映像が映し出された。
 それはクリスタルに包まれたロートス・アルバレスの肉体。十三歳の体じゃなく、何歳か成長した姿だった。たぶん、十五、六歳くらいか。背も高くなっていて、ガタイもよくなっている。

「向こうの世界でもちょうど二年経っている。キミが元の世界に帰っていた時間と一致するね」

「偶然か?」

「さぁ? 彼女が何かしたのかも」

 アカネならやりかねないな。まったくあいつは底が知れないから。

「今すぐ戻る。この身体に送ってくれるか」

「もちろんそのつもりさ。【座】に辿り着いた僕の興味は、今のところキミの人生くらいしか見当たらないからね」

 気持ち悪いことをいう奴だ。ストーカーかよ。
 青年の指先から漏れる光が、俺そのものに混ざっていく。
 そして、転移が始まった。

「ま、感謝はしとくぜ。ありがとよ、マシなんとか五世」

「はは。そう思うなら、いい加減ちゃんと名前を覚えてくれないかな」

「ここじゃ名前なんてどうだっていいんだろ?」

「まあね」

 俺の意識は、遥か彼方の世界へ飛んでいく。
 これは奇跡なのだろうか。
 いや、神を信じない俺からすれば、こんなのは奇跡でも偶然でもない。

 これは、アカネがくれたチャンスだ。
 あの世界にまだ俺が必要だと思ったから、現代日本にまで来て、俺を取り戻してくれたのだろう。
 だったら、その期待に応えなくちゃな。

 二度目の異世界転生。
 今度は負けないぜ。必ず使命を全うする。
 そして、理想のスローライフを手に入れてやるのさ。

 完全に、そういうことだ。
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