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救世神ってなんやねん

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 野営地の中心に置かれた巨大なテント。十数の女兵士達が警固するその場所が、アルドリーゼの拠点だった。
 テントは宝飾品で飾られ、立派な佇まいを呈している。

「すごいですねぇ、これ」

 サラはテントを見て感動の声を漏らしている。
 それを受けてアルドリーゼが誇らしげにうんうん頷いた。

「でしょ~? やっぱり余は女王様だしね~。こういう外面っていうのも大事なわけよ~」

「豪華で綺麗だけどな……うーん、俺としてはもっとシンプルな方が上品でいいと思うんだけど」

「それはあれだね~。価値観の相違ってやつだね~」

 その通りだな。他民族の文化を認めることも重要だ。

「さ~。はいったはいった~」

 女兵士が入口を開き、アルドリーゼはさっさと中に入ってしまう。
 俺達もその後に続いた。

「お、お邪魔します」

 サラがちょっとだけ委縮しながら中に脚を踏み入れる。
 そんな緊張しなくてもいいぞ。

「ほら~。はやくこっちへおいで~」

 外装に負けず劣らず、内装も豪華だった。
 金とか銀とか宝石とか彫刻とか、そういったもので装飾されている。
 光りすぎて眩しいくらいだ。

「わぁ……!」

 サラはそれを見て目を輝かせている。

「お前ってこういうの好きだったっけ?」

「女の子は甘いものとキラキラしたものには目がないんですよ? ねぇアイリス?」

「わたくしにはちょっと分かりかねますわ」

 スライムだもんな。
 まぁそれはいい。

 アルドリーゼは玉座に腰を下ろしている。傍に侍る女兵士がでかいうちわを仰いでいる光景が、あまりにもステレオタイプで笑けてくる。
 玉座の前に進んだ俺は、不遜にも絨毯の上に座り込むことにした。サラはおどおどしながら、アイリスは微笑のまま俺に倣う。

「んじゃま。話を聞かせてもらおうか。女王さんよ」

「ん~。そんな態度を取られるなんて初めてだよ~。すんごい偉そ~」

「仕方ねぇだろ。俺は〈尊き者〉だからな」

「自分で言ってちゃ世話ないね~」

「うるせ。さっさと話を進めようぜ」

 社会的地位がなんぼのもんじゃい。俺は相手が女王だからといってへりくだったりしないのだ。

「種馬くんは~、マッサ・ニャラブについてどれくらい知ってるのかな~?」

「女が多いってことくらいしか知らないな。あとは、ちょっと前まで王国に支配されてたとか?」

「ん~。まぁそんなもんだろね~。余たちについて何か知りたいことってある~?」

「そうだな。まず一つは、お前たちにとって俺は何者かってことだ」

 これを知らないことには身の振り方も考えられない。自分の立ち位置を把握するのは生きていく上で重要なファクターだ。
 アルドリーゼはふと目を閉じる。じっと黙り込み、思案しているような仕草だった。

「〈尊き者〉ロートス・アルバレスはね~。太古からジェルド族に伝わる救世神を指すんだよ~」

 静寂を破って出てきた言葉に、俺はそれなりに意表をつかれた。

「救世神だって?」

「そ~。余のご先祖様がね~、遺した予言があるんだ~。え~っと、なんだったっけ~?」

 アルドリーゼはそれを忘れているようで、うちわを持つ女兵士に聞いていた。

「こちらです」

 やってきた別の兵士がアルドリーゼに石碑を渡している。
 あれに予言が書いてあるんだろう。

「あ~。そ~そ~。これね~。今から読み上げるよ~」

 ごくり。
 サラがつばを呑む音が聞こえてきた。俺より緊張しているようだ。

「今や偽りの太陽が天を覆い、深淵の月が闇夜を照らす。千年の呪縛に絡まる憐れな生命は、虚ろなる繁栄に身を焦がし、真実の価値を見誤らん。いつしか陽光は黒く染まり、月光は灼熱の火炎と化すだろう。そしてまた、新時代は朽ち果て、旧き神と偽りの太陽を呑み込まんとする。我ら悲願の民は解き放たれん。すべては混沌に彩られし無を纏う自由の士によって。降臨せしは救世神。〈尊き者〉ロートス・アルバレス」

 それはあたかも祝詞の如く、アルドリーゼの口から唱えられた。
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